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澱んだ水の流れる先


 ナーガは目を閉じ、ゆっくりと深呼吸した。


 (オヌ)族に請われて川の神となり、彼らと共に生きた過去。

 彼らの幸せの為に、川の神のまま古井戸に封印された過去。

 

 外の世界から隔絶され、なんの情報も得られないまま長い年月を孤独に生きた現実。

 ただただ彼らの幸せを願い続けたというのに、知らないうちに彼らは一人残らず死に絶えていたという現実。



《――もう、これからは自分の未来の事を考えてもよいのか――》


 不思議と後悔はない。

 なんとなく、今までの自分に区切りをつける。

 

 

《――我は川の神……川の流れとは、上流から下流へなされるがまま自然と流れ往くもの。どうやら我は、長い間、流れもせずに澱んでしまっていたようだ。ならば、今、お前たちに手を引かれ、流れる先を変えるのも、川の有り様か――》


 川ではなく沼……、いや水溜まりか。

 そんな状態では、いずれ水も澱み、腐ってしまいだろう。


 今、不思議な機械人形が、堰を取り払い、自由な川の姿を取り戻してくれようとするなら、自分自身で堰など作らず、自然にながれてみようか。


 たとえ姿形が変わろうとも、元々、水に形などない。自由気ままに形を変え、行き先は自然任せが我の本質だったはず。


 

《――我は気付かぬうちに、滞り澱んでしまっていたようだ。元より川とは流れを止めぬもの。お前の誘い、ありがたく受けるとしよう――》


 それまでずっと、蛇の頭を持ち上げていた川の神は、スッと頭を下ろして全身を地に這わせた。

 それは警戒を完全に解き、素直に機械人形たちの好意に縋ることを認めた証。

 

《 お前たちについていこう――いや、連れて行ってくれ。よろしく頼む――》



           ♢


           ♢



《――いやじゃ! なんでワシがこんな蛇女と同居せんとならんのじゃ!? お断りじゃ!》


「 …………。 」


《――なんだとっ! 我だって、こんな鉄臭い女と同居などごめん被るわっ! 》


「 …………。 」


《 まぁまぁ、お二人とも仲良く……。》


《 煩いっ! お主は黙っておれ土小鬼。今、この図々しい蛇女と話しておるところじゃっ!》


《 誰が図々しいだと!? だいたい、お前たちが我について来いと言ったのだろうが! 》


《 一緒に来いとは言ったが、この魔晶にお前を同居させるとは言っておらんっ!》


《 はぁ? 剣を我に向かって掲げてみせたのは、この妙ちくりんな機械人形だぞ? あんなことされたら、お前のようにその剣に取り込まれるものだと思うだろうがっ!》


「……あの……、俺も魔晶に入ってもらうものだと思ってたんですか……。」

 

《――馬鹿者っ! なんでワシの拠り所にこんな蛇女を入れてやる必要があるんじゃ!? 此奴の水龍をみたじゃろ? 八又じゃぞ!? こんなに節操のない女と一緒にされたくないわっ!》


《 誰が八又の節操無しだっ!? あれは魔法だろうがっ! 我は貞淑、清楚、一位専心の一途な乙女だっ!》


「 …………。」


《――ぷぅーっぶっぶっぷっ! 何が一途な乙女じゃ、この八又おんなめっ! お前の力を封じる場所は別に考えておるわっ! この鍛治の女神ブリジットに感謝するんじゃな!》


 

 何故か始まった元神さま同士の口喧嘩。

 一見すると、剣と蛇が悪口を言い合う異常な光景だ。

 俺自身、てっきりブリジットのように、精霊剣に嵌め込んだ紅い魔晶にナーガの力を注ぎ込むのだと思っていたが、ブリジットは嫌だと言って全否定。他に拠り所を考えてあると言うのだ。



《 ぐむむむ……。人を軽薄な女扱いしおって……。まぁ、よい。我は川の神。多少の無礼は許してやる。早く他の拠り所とやらを教えろ。》


《――()な。元川の神。四の五の言わず、ワシの言うことをきけ。まったく、煩い女じゃの。》


《 なんだとっ! もう堪忍袋の緒が切れたっ! この鉄女っ! この世の彼方に流し去ってくれるっ! 機械人形よ、その鈍の鉄の塊をそこに捨てよっ!》


( ……また始まった……。)


《 どこをどう見れば鈍に見える!? このアーティファクトにまで昇華したワシの作品に文句をつけるとはよい度胸じゃ! そこに直れっ! 切り刻んで蛇膾にしてくれるっ!》


 

 火花を散らして睨み合う2人。

 いい加減になんとか止めようと試みてはいるのだが、凄い剣幕で怒鳴り合う2人の迫力に、アタフタと右往左往。なかなか止めることができない。


 そんな時、二人の図上に大きな水の塊が落とされた。



 バッシャーーーン!?



 川の神とはいえ蛇の身体のナーガもずぶ濡れ。

 一方、ブリジットも熱くなった刀身から蒸気を吹き上げて静かになった。


 2人の言い合いを止め、したり顔の波の乙女は、褒めてる欲しそうに俺に微笑んでいる。



(……いや、ミズハ……。俺もびしょ濡れなんだけど……。)


 罵り合う2人の元神さまを止めてくれたのはありがたいが、剣を持っていたのは俺。しっかりと、ミズハの水塊のとばっちりをいただいていた。


 でも、まぁ、しっかり喧嘩を止めてくれたわけだし、悪意のないミズハの笑顔に、苦笑いしながらサムズアップを決めてみた。



「……さて、ミズハのおかげで頭も冷えたでしょう。風邪をひかない内に、川の神の拠り所になる物を教えてくださいね、ブリジット。」


 蒸気が治まり、その刀身をキラリと光らせながら、魔晶の中の鍛治の女神は、拗ねたようにはなしはじめた。


《 まったく……、なんでワシまで水を被らにゃならんのだ……。ふんっ! 蛇女も機械人形もよく聞いとけ。それはな――》




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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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