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川の神③


「――えっ!?」


 ハニヤスのとった行動が、あまりに予想外だった為か、俺の口からでた言葉はその一文字だけ。

 


( まさかハニヤスが裏切ったのか!? )


 そんな訳はないと願いつつも、彼も精霊であり、俺と契約している事がブラック企業並に酷い環境だと思っていたとすれば、同じく精霊であるナーガの言葉に惹かれてしまう事も理解できてしまう。



( ナーガが言うように、俺が精霊たちを使い潰すような事を無自覚にやっていたのかも……。)


 こんな考えが一つ浮かんでしまうと、次々にネガティブな考えが浮かんでくる。

 

 いつだって俺は周りからひどく嫌われていた。

 俺自身は悪い事などしていない。

 周りが勝手に俺を悪く言うんだ。

 周りが勝手に俺を蔑むんだ。

 周りが勝手に俺を虐めるんだ……。

   

 そんな他責的な考えは、実はとんでもない間違いで、やはり俺自身が悪かったのか。

 蔑まれるだけの理由があって、虐められて当然な存在だったのか。


 ヤバい……。

 もしかしたら、俺が気づかないだけで、物凄く不満を溜めていたのかも……。

 もしかしたら、俺が気づかないだけで、とんでもなく呆れられて、嫌われて、愛想をつくされて……


        …………………


         ……………


          ………

  

           …




 ドカンっ!!!


 自分の中で答えが見つからず、意識が一刻飛んでいた俺の顔の前で、水弾が弾けた。

 さらに、続け様に水弾が飛んで来るが、俺の周りに展開された土の盾が、砕かれながも全ての水弾を防きる。


 ハッとして意識をナーガとハニヤスの方へ向けると、ハニヤスが持て余し気味に精霊剣を構え、ナーガと対峙していた。

 


《 ――ご主人さんは、そんな事してないないっ! ワイらはご主人さんの事を信頼しているっ! 適当な事を言うなっ! 》


 ハニヤスは自分よりも大きな精霊剣から、鞘だけを浮かせて剣を抜き身にすると、その剣先をナーガへと向けた。


 恥ずかしがり屋で引っ込み思案な土小鬼は、進化して上位の存在になってから、とても楽しそうに話すようになった。だが、彼のこんなに大きな声は初めて聞いたと思う。

 自己否定のスパイラルに落ち込んでいた俺のことを、彼はその勇ましくも優しい声で現実に引き戻してくれた。

 


《 ワイらはご主人さんが大好きで、だから自ら進んでご主人さんと契約しているんや! あんたが言うような邪な関係じゃない! 》


 古井戸の縁に足を掛けたまま、その場で動けないでいた俺に、しっかりと聞こえる大きな声でハニヤスは叫んだ。


《 ――姐さんっ! この他人の話をちゃんと聞きもせず、勘違いしている自己中ミミズに説教喰らわしてやってくださいっ! 》


 小さな身体で精霊剣を高く掲げると、剣に嵌められている赤い魔晶から炎のオーラが溢れ出す。なんと、ハニヤスが精霊剣の炎のオーラを呼び出したのだ。

 しかし、その行為は精霊ナーガの逆鱗にふれる。

 魔力を膨れ上がらせ、またもや大量の水を発現させたのだ。

 

《 なんじゃ、お前っ! 誰がミミズじゃっ! ましてや我に説教だとっ! 川の神とも崇められ、半神半精霊にまで進化した我に向かって畏れ多いわっ! ふざけるでないっ! 》


 見た目は小さい蛇でしかないが、操る水はかなりの大規模。

 ナーガの後ろには水の渦が立ち上がり、2本、3本とその数を増やしていく。最終的には8本の渦巻が古井戸から溢れ出した。


 古井戸の広さいっぱいに渦巻が立ち上がった為、精霊剣を抱えたまま、古井戸の中にいたハニヤスが弾き出された。

 俺はなんとか渦巻を避け切り、飛ばされてきたハニヤスを受け止める。そして、彼から精霊剣を返してもらった。

 


《 まったく不快な奴等じゃ。不遜にも神と呼ばれた我に向かって刃を向け、さらに我に説教するなど、無礼極まりないっ! この水龍にて跡形もなく消し去ってくれるわっ! 》


 渦巻の先端が、まるで大蛇の頭のように口を大きく開けると、8本の渦巻が一斉に俺たちに襲いかかってきた。



 バキバキバキバキバキバキッ!?



 ハニヤスが咄嗟に張り巡らした土盾は、簡単に潰されてしまった。

 ナーガは半神半精霊まで進化したと確かに言っていた。やはり川の神は精霊、鍛治の女神ブリジットと同じ存在なのだろうか。

 そうだとするならば、(オヌ)族が信奉し、崇めていたのは進化した精霊たち。自然そのもの――



 8本の渦巻は、土盾を砕いた後もその首を振り続け、俺に体当たりを繰り返している。

 俺から魔力を引き出して作り続けてはいるが、ハニヤスの土盾も普段通りに作り出していては、一瞬で砕かれ役に立たない。

 更に強固な土盾を作り出そうと力を振り絞っているが、何度も土盾を砕かれ、作り直すを繰り返し、ハニヤスにはかなり負担がかかってしまっていた。



《 グヌヌヌ……。姐さん、まだっすかっ!? 》


 唸り声をあげながら、ハニヤスはひたすらに土盾を作り続ける。しかし、ナーガに操られた8本の渦巻は、まるでそれぞれの渦が意思を持っているように俺たちに襲いかかってくる。

 縦横無尽に動き回るその姿は、まるで俺の記憶にある八岐大蛇のようだ。


 時間とともに、とうとうハニヤスの土盾では捌ききれなくなった。すべての土盾を砕き、8本の渦巻の首が同時に俺の目前へと迫ったその時だった。


 俺が握る精霊剣から、ハニヤスがやったそれ以上の大きさの炎のオーラを吹き出し、8本の渦巻を直前で押し留めた。

 そして、その炎は徐々に姿を変えていき、なんとそれは精霊剣と魔晶に自らの力を詰め込んで消えた、鍛治の女神ブリジットの姿と変わる。

 揺らめく炎でできたブリジットは、その肩に、三日月の形をした銀色の煌めきを乗せ、怒りの表情で八岐大蛇を睨んでいる。


 巨木トレントとの戦いの際には、こんな現象は起きたりはしなかった。



 いったい何が起きているのか――



 古井戸から溢れた八岐大蛇のような渦巻と、まるで炎の魔神のようなブリジットの間で、魔力の干渉が起きている。

 バチバチと音を立てながら、押し合いへし合いする水のオーラと炎のオーラ。

 


《 大層な蛇精霊かと思ったが……。カエルの面に水とは正にお前のことだなっ! 》


《 誰がカエルじゃっ! 我は蛇精霊ナーガじゃと言っておろうかっ! 》


《 なに、人の話をまったく聞き入れようともしない恥知らずは、蛇ではなくカエルじゃろうよ。 》


《 我を馬鹿にしよるかっ! お前、魔晶に収まる程度の力しか無くした精霊の分際で、神と呼ばれた我に勝てると思ったら大間違いじゃっ! 》


《 何が神と呼ばれただ。すでにお前を敬う民など皆無であろうっ! 忘れられた神にどんな意味があると言うのだっ! まさに井の中の蛙、外の世界を知らぬ、カエルの顔をしたしれ者だろうがっ! 》


 力比べをしながら、二人の半神半精霊が罵り合う。まるで怪獣大戦争のような現象に、俺自身は理解が追いついていけないでいた――

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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