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隠と仇③


           ♢



 今、鬼神王は、火蜥蜴サクヤの炎によって、俺たちの目の前で荼毘に付されている。

 


「――鬼神族は、死んだら火葬する習わしだ。そして……、角を残す……。」


 鬼神王はそこまで言うと、静かに息を引き取った。

 つい先程まで大きな笑い声を響かせていたというのに。

 最後は呆気ないほどに、静かに。


 

「――お疲れ様でした。」


 俺は長い長い年月、苦しみと悲しみを抱えながら生き抜いてきた偉大な先達に対し、労いの言葉をかけて送り出した。


 ソーンが、聖職者らしく祈りをささげ、アリウムは言葉なく燃やされる故人を見つめている。



『 ワシら鬼神族は、魔力を肉体強化にしか使えないが、常に角の中に魔力を蓄積している。必ずお前たちの役に立つはずだ。機械人形の身体の一部に取り入れる事ができるかもしれんし、その魔法剣の強化に使っても良い。そうだ、精霊たちに取り込ませても良いかもしれんな――。』


 今際の際という言葉があるが、鬼神王はボロボロの身体だというのに、様々な話を語り続けた。

 鬼神族の角についても、色々と教えてくれた。

 鬼神族は仲間が死に火葬するが、必ず角だけが燃え残るのだと云う。そして、その角は形見として家族が引き継いでいく。


 しかし、『楽』プロジェクトによる無気力で死んだ者たちは、何故か火葬すると角まで燃えて無くなってしまったそうだ。

 望めばやりたい事ができてしまい、肉体強化をする必要もなくなった為、角に魔力を溜め込む事を無意識にしなくなっていたのだろう、と鬼神王は悔し気に話していた。


『 ……なぁに、怠惰に流されなかったワシの角は特級品だぞっ! 必ずお前さんたちの役に立つはずた。カッカッカッ! 』



 サクヤは、仲間の死体を焼くという仕事に涙を流しながらも粛々と取り組んでいる。

 途中、熱硬直により鬼神王の骸が動き出した際、驚きと恐怖で炎を消してしまったが、古竜のニールと嘆きの妖精ヒンナの手伝いもあり、鬼神王の骸は骨も残らないほど綺麗に燃やし尽くした。

 そして、鬼神王が話していた通りに、跡には2本の角だけが焼け残った。


 俺は角を拾い、それを布に包んでリュックのポケットに仕舞う。

 正直、この角をどうやって使えば良いか、全くわからない。

 鬼神王が話していたような使い方ができるのか、それとも何か他の使い方があるのか。

 老王たちと仲間たちに相談しながら、良い使い方をさせてもらおう――



           ♢



「 ……さて、悲しんでばかりもいられない。ここに来た目的を果たさなくては……。」



 俺は気合いを入れ直す為、両頬をパチンと叩く。

 そして、雰囲気を変える為にもハッキリと大きな声で指示を飛ばした。



「俺はミズハの為に一階の古井戸に行く。ソーンさんとアリウム、ニールは【大天守】に入ってウカの魔力核のカケラを探して集めてくれ。」


 祈りを捧げ終えたソーンは、スックと立ち上がり、アリウムとニールを促して【大天守】に歩きはじめた。何も言わずに、アリウムとニールはソーンに続いていく。



「サクヤとヒンナはソーンさん達の手伝いを。もし、カケラを繋ぎ合わせて鍛錬しなおす事が出来そうなら、やってみてくれ。ハニヤスは俺と一緒に来てもらう。まだトレントが残っているかもしれないから、石盾での防衛頼む。みんな気をつけて――」


 俺は鬼神王の亡骸があった場所に、彼の愛用していた特大の幅広剣=ブレードソードを突き立てた。

 ここに彼がいるわけではないし、墓標にしたいわけでもない。

 だが、いずれここに連れてこなければいけない仲間の為に、今は剣はここに置いておく。

 ひとつ、ひとつ……、まずは出来ること、最優先でやらなくてはならないことに気持ちのベクトルをあわせて進んでいくしかないのだ。



           ♢



 僅かに残る水が、水筒の中でチャプチャプと音を立てている。道中、水をこぼすわけにはいかない。

俺は水筒の蓋を閉め直して、一階の古井戸を目指して歩き出した。

 

 俺とミズハの間の魔力の繋がりは消えずに繋がったままなので、ミズハがこの世界に存在している事は確かである。

 だが、呼びかけに応じる余裕が無いのか、宿り場である水筒から顔を出してはくれなかった。


 

『 早くその水筒に水を足してやってくれ。波の乙女に少々無理をさせすぎた……。』


 鬼神王が話していた通り、ミズハは自らの身体を犠牲にして、業火の中に取り残された俺を救ってくれた。


 あの時、鬼神王は機転を効かせて水筒を俺に投げつけ、またその意図を組んだミズハが、俺をその澄んだ水の身体で包み込んでくれたのだ。

 鬼神王が自分の身体を盾にしてくれた事と、ミズハがその身体を犠牲にして俺を水で包んでくれた事。この2人の身体を張った献身によって、業火に包まれた中、俺は助かった。



「――川の神が、ミズハを救ってくれればよいけど……。グラマスの言葉を信じて、行ってみるしかない……。」


 道中、僅かに残っていたトレントに襲われはしたが、魔力が回復した俺の振るう精霊剣ブリジットの炎で全て焼き尽くした。

 一度魔力が切れたと思ったあの時から、もう一つの核からの魔力の流れを感じる。

 単純に魔力総量が上がったのではなく、2つの魔力核が並列して存在していると言ったら良いだろうか。

 とりあえず今は、精霊剣ブリジットの力をしっかりと使える事が重要なので、俺の魔力核のあり方について考えるのは、落ち着いてからかな――



「あれか……。」


 一階まで降りる階段。その後ろに設えられた小さな部屋。

 その部屋の壁が窄まった先に建てられた社は、最初に見た時と変わらず、ボロボロの格子戸が嵌め込まれ、中には古い井戸がある。



 これが川の神の社――


 かつて、鬼族――(オヌ)族が崇めていた、自然神の一人。

 鬼神族として生きる為、信仰を辞め封印した川の神の社……。


 俺は覚悟を決めて、格子戸を外し、封印された古井戸に被せられた重い蓋をずらした――


 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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