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隠と仇①


「 ……機械人形よ……。お前さん、強くなったな。あの剣から火のオーラを出した時は驚いたぞ。だが、まだまだ力を使いこなせていないし、状況判断にも難があるようだ。しっかり頭も鍛えないとな。」


 ソーンは必死に回復魔法を行使しているが、明らかに鬼神王の生命力は減り続けている。



「 精霊たちを束ね、魔法剣を操り、心強い仲間も多い。さらに、望んだわけでは無いだろうが、機械人形=ゴーレムの身体を手に入れた。それは、ワシら長命種と同じく、無限の時間を手に入れたようなものだ。だから――」


 ハッキリと、しかし優しい声で、俺にアドバイスをしてくれる姿は、まさに冒険者ギルドのグランドマスター。尊敬すべき先達。



「 ――自分の力を過信せず、常に未来を考えろ。失敗を失敗で終わらせず、成長し続けろ。昔の我々のような失敗をするんじゃないぞ……。」


 鬼神王は、開かない瞼を閉じたまま、深く息を吐き出した。そして、回復魔法を繰り返し唱えるソーンの手を握り、詠唱をやめるように促す。



「――ワシら鬼神族は、元々鬼族と呼ばれ、魔族として蔑まれていた。鬼という文字はな、(オヌ)という文字から転じて記されるようになったと云われていてな。その字が表す通り、原初の頃、(オヌ)族は山の奥で静かに隠れて暮らしていた一族だったそうだ。」


 欠損した箇所を復活させる事ができない現実に己の無力さを感じたのか、ソーンは身体から力が抜け、その場にへたり込んだ。

 そんなソーンに、優しく礼を言いながら、鬼神王は話を続けた。



「しかしな、隠れて生きていた我らは、何故か恐れられる存在とされていった。他の種族と交流を全く持たない我らのことをだ。何故か……、それはな、姿を見せない存在に対する恐怖だったようだ。相手からすると、得体の知れない(オヌ)族は、怖くてしかたがない存在だったらしい……。」


 大量の砂が被せられ、やっと周囲の火の勢いは弱まり始める。いつの間にか、その場にはアリウムも、ニールも、そして精霊たちも集まっていた。



「――さらにだ。ワシら一族は、今、お主らが知る神々とは違う神を信奉していた。それは、自然そのもの。自然が信奉の対象であり、それらに宿る高位の精霊を我らの神として敬っていた。」


 精霊を神として敬う。

 まるで、ドワーフ族が敬っていた、鍛治の女神ブリジットのよう。半神半精霊の存在がたくさんいたということなのだろうか。



「――姿も見せない。崇める神も違う。他の種族はワシらの一族のことを、自分たちとは相容れない存在として恐れ、種族を表す名前を、勝手に鬼などというおどろおどろしい名前に変えて呼ぶようになった。さらに魔族という、まさに奴等と『同じではない』種族として、ワシらの一族を滅ぼそうとしたのだ。」


 ソーンの手にグッと力が入るのを感じる。

 太陽神と狐神の間に起きた、一般には知られていない歴史について聞かされた時と同じ。

 魔族という種族は無いのだ。

 当たり前だけど、自分の事を『魔』、つまり災いを成すものだなんて呼ぶわけがない。

 自分と違うものを恐れ、自分と違うものを蔑み、精神的に下に置くことによって、自分に価値があるように感じて悦に入る。

 まさに、自分たちが世界の中心であるという、自分たちにだけ、都合の良い考え方。いじめっ子の論理である。



「――常に一族滅亡の危機に瀕していたワシらが、ワシら一族の身を守る為に作ったのがこの砦だ。昔のここは、難攻不落の砦でな。無限に増えるトレントも強敵だったが、ワシら鬼神族の強靭な肉体と、工夫を凝らしたこの砦のおかげで、他の一族に後れをとる事は一度もなかったよ。」


 特大の幅広剣を右手一本で振り回す鬼神王のような存在がたくさんいて、この強固な仕組みを持つ砦に篭っていれば、それを滅ぼすなんて考えの浅い俺にだって難しい事だったとわかる。



「――しかしな。長く戦い続けているとな。消耗してしまうのだ……。何度退けても、また攻めてくる。自分たちと違うのが気に食わないのであれば放っておいてくれればよいものを。何度も何度も、繰り返し繰り返し、攻めてくるのだ……。」


 鬼神王は指の無くなった手で顔を覆った。

 波立つ心を沈め、落ち着かせている。

 俺には、何故か鬼神王の気持ちがわかった気がした。

 それは、いじめられっ子がいじめっ子に対して感じる怒り、悲しみ。ごちゃごちゃに入り混じった悔しさと言えば良いのか。



「ある時……。一族の王は、周りと違うから蔑まれるのであれば、周りと同じ事をやって、周りと変わりがない者になっていけば、今とは立場が変わっていくのではないかと考えた。」

 

 顔を両手で覆ったまま。

 声もどんどん小さくなっていく。

 しかし、鬼神王は話す事はやめなかった。



「――ワシら一族は、他の種族に阿ることに決めた。それまで敬っていた考えを捨て、お前たちの知る神々を信奉する事にしたのだ。山の神や川の神、ワシらが祀っていた祠を閉じ、(オヌ)族という名も捨て、鬼族の名を受け入れた。」


 パチパチッ……。

 消えたと思った巨木トレントの火が、燃え残っていた木の枝を弾く。鬼神王の語る言葉に文句でもあるように、何度も音が弾けた。



「――太陽神を初めとする神々は、自分たちを崇め奉る事を決めたワシら一族に、神の字を加え、神々に祝福された一族であると宣言した。それこそが、今のワシら一族の呼び名、鬼神族という訳だ。」

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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