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業火の果て


        ▼△▼△▼△▼△▼



「――なんだあれは!?」



 切っても、切っても、その断片から新しい芽を出し、どんどん数を増やしていく棒人形を相手に苦戦していると、【小天守】の正面で戦う機械人形が、手に持つ魔法剣から出した強烈な炎を振り回し、棒人形を跡形も無く燃やし尽くした。


 その威力たるや、まさに業火。

 炎を纏った剣で切りつけられた棒人形は、一瞬で燃え尽き、剣から溢れ出す炎も、まるで鞭のように振り回しながら広範囲の棒人形を巻き込みながら燃やしていく。



「みんなっ! 棒人形は俺が燃やし尽くすっ! だから、みんなはそれぞれの役割をこなせっ! 」


 大声で叫びながら、まさに獅子奮迅の活躍。

 機械人形を中心にして、炎の竜巻は次々と棒人形を屠っていく。

 

 さらに、そんな機械人形の活躍に刺激されたのか、古竜と火蜥蜴が特大のブレスや炎弾を撃ち始める。土小鬼、波の乙女、嘆きの妖精も、それぞれ与えられた仕事を忠実にこなし続けており、それまでの攻撃では火をつける事が出来なかった巨木トレントに身体に火をつけ、追い詰め始めた。



「――凄まじいな。あの魔力。」


 愛剣を振り回しながら、鬼神王ギルはボソリと呟いた。



           ♢



 奇妙な気分だった。

 元はアエテルニタスが、封印されたウカ様の魂の器として作り出した機械人形=ゴーレムに、別の者の魂が封印された。

 しかも、それが急成長していた冒険者パーティーのリーダー。その魂の片割れだという。


 魂の片割れという表現は間違っているだろうか。

 ありえない事に、その冒険者には2つの魂のが存在していたのだというのだから。


 開発者のアエテルニタスは、嬉々としてその魂の受け皿に機械人形を提供する事を提案したという。

 あの堅物のダンキルも反対しなかったのだから、彼奴もこの新しいチャレンジが、これからの歴史の中の分岐点になると考えたのだろう。

 

 実際、この機械人形は素晴らしい成長を遂げている。


 精霊と契約できるのは1人だけと云われていたのに複数の精霊と契約した。

 その精霊も上位の存在へと成長しているし、手にしている魔法剣は、鍛治の女神によって素晴らしいアーティファクトへと昇華し、凄まじい力を発揮し始めている。

 さらに、古竜王ゴズの子に魔力を与え、代わりに育てているだなんて、その内在する魔力の量たるや、全く想像できない。

 魔力を自らの肉体強化にしか使えない自分にとってみれば、その利用方法、使用量ともに驚く他にないのだ。


(――此奴ならば、ウカ様を助ける事も、ヒルコを助ける事も、できるかもしれないな……。)



           ♢



 このまま続けていけば、おそらく巨木トレントを倒し切れるだろう。


 火のついた巨木トレントは、白髪少年が作り出した魔法障壁を意地になって叩き続けていて、衝撃の度に火の粉が舞い、風に乗って【大天守】へと飛んでいる。


 波の乙女が水塊を薄い水の膜へと形を変えて、【大天守】への延焼を防いでいるが、巨木トレントはますます強烈な打撃を繰り返す為、火の粉の舞う量は増え続けいた。



( まぁ、この障壁を破られる事はないだろうから、このまま慌てずトレントを燃やし続けていれば、間違いは起こらんだろ――)


 白髪少年も波の乙女もしっかり働けている。

 強力な魔物を相手にしている時は、焦ったら負け、慢心も駄目。

 根気よく安全を確保しながら戦うのが冒険者の鉄則だ。

 長く冒険者ギルドのグランドマスターなんてものをやっていると、戦いを上手に終わらせる事が出来るかどうかが、ランクを上げていける冒険者の条件のひとつである事に気づく。


 そう……生き残ってこそ、功績も重ねることができる――



           ♢



「我ら、敵を祓い、豊穣を護るものなりっ! 太陽神よ、我らに希望の力をっ! 『ウォークライっ!!』」


 それまでは守りに徹していた変わり者の聖職者が、神聖魔法を唱えた。

 

 この戦いを終わらせる為、強烈な一押し。

 精神を高揚させ、恐怖を取り除く。

 身体能力を上げるわけではないが、無意識に力をセーブしている枷をとり、その者の本来の力を発揮できるようになる。



( ………ん!? )


 鬼神王は、何か違和感を感じた。


 なんだろうか。

 この戦い……、何か行け行けの展開になっていないだろうか?


 安全を確保しながら戦うのが冒険者の鉄則。

 戦い終わらせる段階に入ってきたのに、行け行けの精神状態に拍車をかけてしまってはいないか?


 

 突然、機械人形が振るう剣から、巨木トレントを圧倒していた炎が消える。

 古竜のブレスが止み、火蜥蜴と嘆きの妖精が飛ばす炎弾も消えた。


 さらに、後ろを見ると、波の乙女が作り出していた水塊も水の膜も形を止める事ができずに地面へと落ちる。



「――なんだ!? 魔力切れか!?」



 身体を火だるまにされた巨木トレントは、一番の脅威になった機械人形目掛けて進んでいる。

 15メートルもある巨体が枝を広げ、根を自ら千切り、虚から炎を吐き出しながら倒れ始めた。

 初めはゆっくりと、しかし、身体が傾き始めるとそこからは加速し、機械人形目掛けて倒れていく。

 


 そこからの鬼神王の判断は早かった。



「少年っ! 水筒借りるぞっ!」

 

 

 白髪少年が肩から下げていた水筒を無理矢理引きちぎり、中にいる波の乙女ごと抱えて走り出した。

 愛剣を肩に担ぎ、襲ってくる棒人形は体当たりで突き飛ばしながら、全速力で駆ける。


 突然、巨木トレントの身体が中心から爆発した。

 魔力が復活したのか、機械人形が剣から炎弾を撃ち出したようだ。

 だが、質量を頼りに襲いかかる巨木トレントの勢いをまるで止める事はできない。

 それどころか、身体の中心から熱が溢れだし、いっそう激しくその身体を燃やしながら、機械人形に覆い被さっていく。



「――頼むっ!」



 右手を思い切り振った。

 走りながら、鬼神王は機械人形に向かって水筒を投げつけると、中から飛び出した波の乙女は、その身体を膨張させ、大きな水の塊となり、機械人形を覆い尽くす。


 鬼神王は、一拍遅れて機械人形の前で愛用の幅広剣の刃を盾にするようにして仁王立ち。

 巨体相手に自慢の大剣を振り下ろす。

 

 バキバキッッ!!


 気合いと共に振り下ろされた剣は、見事に巨木トレントの幹を捉えた――



 燃え盛るトレントの幹を中程までは切り込めたであろうか……。

 しかし、その分厚い身体を切り裂く事は出来なかった。

 さらに、巨木トレントはその中心に魔石でも持っていたのだろうか。

 剣の衝撃の為か、一気に炎の熱が上がる。



 鬼神王は覚悟を決めた。

 両手で剣身を支え、全力で盾になる――



 

 


 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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