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業火②


 ドゴーーーーーンッ!!



 アリウムが支える【アンチバリア】に振動が走り、少し遅れて爆風が吹きつける。


 ニールが吐き出した特大のドラゴンブレスと、サクヤが撃ち出した特大のファイアボールが、【小天守】と同化している巨木トレントに炸裂し、業火がその全身を包み込んだ。


 しかし、身体に火が点き燃え始めているというのに、巨木トレントは【アンチバリア】を殴り続ることをやめない。

 それどころか、叩きつけている枝にまで火が回り始め、【アンチバリア】に枝がぶつかる度に、火の粉が【大天守】に向かって飛び始めた。


 パチパチと音をたてながら、風に乗った火の粉は、【大天守】の屋根に落ちると、所々から煙を登らせる。まだ、完全に飛び火したわけではないが、このままではいずれ【大天守】が焼けてしまう。



 ドゴーーーーーンッ!!


 

 再び精霊と古竜の最大火力による攻撃が巨木トレントの身体に直撃した。


 古竜のドラゴンブレスは同じ場所を寸分違わず直撃し、2度目のブレスによって貫通した。

 さすがの巨木トレントも、最強種とも呼ばれる古竜の、それも成長著しいニールのドラゴンブレスの直撃に、堪える事はできなかったようだ。


 もう一方、特筆すべきが進化した火蜥蜴の特大炎弾である。

 小さな太陽を連想させるその炎弾は、都合二カ所に大きなクレーターのような穴を穿ち、そこからは業火が溢れ出していた。

 その火は巨木トレントの外皮を這うように広がり、全体を覆って、巨木トレントを火だるまへと変えていた。



 さらにもう一人――


 精霊と古竜が派手な大技を繰り出している為、目立ちにくいが嘆きの妖精が変身した火蜥蜴も、【小天守】の壁に向かって根気よく炎弾を放ち続けていた。

 コツコツ、壁の一点を目掛けて炎弾を当て続け、とうとう【小天守】に火をつける事に成功していた。

 

 かつて鬼族を排斥から護り続けた【鬼ヶ島】。

 その最後の砦――


 おそらく攻め辛くする工夫が存分に詰め込まれた施設であったのだろう。

 なかなか、壁に火をつける事が出来なかったが、ヒンナの地道な反復攻撃が身を結んだようだ。


 【小天守】は火に包まれ、壁が崩れ落ちる。

 木の根は壁の中にまで侵食しており、所々にヒビを入れていたようだ。

 固い岩盤も、蟻の一穴。僅かな綻びから崩れるもの。まさに、諺を字でいく現象に、ヒンナの我慢強い真面目な性格を感じる。


 事実、巨木トレントの絡み合った根っこに火が点き、壁もろとも燃え出した。

 そのおかげで、巨木トレントの根っ子が丸見えになる。

 


《 ご主人様、作戦成功です―― 》



          ♢



 焼き尽くす――


 

 俺は炎のオーラの紅い残光を残しながら、ヒンナが壁を崩し丸出しとなった巨木トレントの根の元へと走った。


 ニールのドラゴンブレスに貫かれ、サクヤの炎弾にクレーターを作られながらも、未だに枝を振り回し、抵抗を続ける巨木トレント。


 しかも、燃やした先から枝がばら撒かれ、棒人形が補充される。


 どこからでも発芽するトレント。

 やはり完全に燃やし尽くさなければ、この戦いの勝利は得られない。



「グラマスっ! ソーンさんっ! アリウムと精霊たちの事を頼むっ! サクヤ、ヒンナ、ニールはそのまま攻撃を継続っ! 遠慮なく、いくらでも魔力持っていけっ!」


 

 走りながら右下段にブリジットを構えると、紅いオーラが一層厚みを増した。

 俺の魔力に反応したのか、オーラが剣の周りを波打つように跳ね回る。

 


 巨木トレントとの距離はまだ剣の届く距離ではない。だが、ブリジットが『剣を振れ』と伝えてきた………気がした。



「しっっっ――」


 俺はその感覚に逆らわずに、下段から剣を切り上げた。



 業火――それは凄まじい炎のオーラ。生きた龍の尾のように振り回された業火は、無防備な巨木トレントの根に向かって波打ちながら進んでいく。

 

 アリウムの【アンチバリア】に向けて枝を振り落としていた巨木トレントも、火蜥蜴と古竜の会心の一撃に動揺したのか、攻撃が分散し始めている。


 元から足元への警戒は薄かったが、【小天守】が燃え落ちていても、それは変わらなかった。

 おそらく空から牽制を続けるニールと、炎弾をばら撒くサクヤに注意が引きつけられて、巨木トレントにとっては小さな火でしかないヒンナは無視を決めこんでいたようだ。



ドッパァァァーーーン!!!!



 無警戒の足元から湧き上がった業火が巨木トレントを包む。

 凄まじい炎に包まれた巨木トレントは、虚から業火を吹き出し、叫び声をあげる代わりに火を吐き出した。


 しかし、巨木トレントは、火だるまになりながらも戦う気持ちを途切らせる事なく、怒りに任せて枝を振り下ろしてくる。


 さらに、燃え上がるその枝を弓のようにして、周辺一帯にばら撒いた。



 剣を振り上げ、残心をとったまま動きを止めていた俺は、振り下ろされた枝にこそ反応できたが、降り注ぐ火の矢を防ぐ事はできない。

 何本かの火の矢を受ける事を覚悟し、腕をクロスさせたまま前に走り出る。



「―――!?」


 

 火の矢が目の前に迫り、身体を固くしたその時、青く澄んだ水の塊が現れた。

 都合3個の水塊は、次々と降り注ぐ火矢の勢いを見事に削ぎ、すっかりと包み込む。


 水塊は、アリウムのサポートにつけたミズハが飛ばしてくれたもの。かなり距離があるというのに、見事にコントロールされた水塊は、火矢を包み込んだまま、俺の脇を並走した。


 

「――ミズハ、助かったっ!」


 その姿を見る余裕などない。

 彼女に言葉だけを返し、そのままクロスした腕を横に払うと、右手に握られた精霊剣から、再びの業火が巨木トレントに向けて踊り飛ぶ。


 今は、目の前の大仕事に集中するのみ――


 走りながら剣と炎を操ると、今度は土盾が俺の周りに浮かんだ。


 水塊と土盾。2種類の防壁がなおも降り注ぐ火矢を防ぎ切る。

 なんと頼もしい仲間たちか。

 俺は吸い続けられる魔力に目眩を感じながら、全く抑えることなどしない。


 剣を握る手に力が入る。


 

 絶対に焼き尽くすっ――

 

 


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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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