落ち込む少年、気合いをいれる
ケインさんに連れられて、行きつけだという『英雄の家』という食堂に向かった。そして、そこで大盛りの朝ごはんを食べさせてくれた。
店主は、連れられた俺の姿を見て、やや不満そうに見えたけど、常連であるケインさんの勢いに負けたのか、俺にもしっかりと美味しい料理を作ってくれた。
普段、孤児院では少ない量しか食べさせてもらっていなかった俺は、次々とご飯を勧めてくる彼にちょっと困ってしまったのだが、ケインさんが真剣な面持ちで……
「冒険者は体が資本! 食べなきゃ強い体にならないぞ! さぁ、食え食えっ!」
なんて言いながら、眩しい笑顔で僕の目の前に料理をどんどん置くものだから、無理矢理、普段食べたことがないくらい、たくさん食べすぎてしまった。
これでもかというくらいに満腹になった後は、ケインさんに連れられて雑貨屋へ。
荷物持ち用の大きなリュックだけでなく、ダンジョンを歩くならば、足元はしっかりしなきゃだめだからと丈夫な革製のブーツを、ポーターは色々な素材を触らなきゃいけないからと厚手の革製の手袋を、そして、何故か俺の身体にサイズがピッタリな、動きやすそうな上下揃いの服まで買ってくれた。
こんなにたくさんの品物代、一回や二回の荷物運びで貰える報酬では賄えない。
それなのに、「いいから、いいから」と、俺が断る言葉を言う間も与えずに、ケインさんは、強引に全部買ってしまった。
そんな風に買ってもらった装備品を見つめながら、俺は、荷物運びの仕事はもちろんの事、どうやったらケインさんに恩返しできるかを考えていた。なんとかして恩返ししなければならないと――
「すっかり見違えたじゃないか。ナナシ。似合ってるぞ。」
着ている俺よりも嬉しそうなケインさんにそう言われ、俺もちょっとその気になってしまった。
上下揃いの服に、新しいリュック。履いたことまなかった皮のブーツに、手には皮手袋。なにか、不思議と自分が立派な冒険者になったように思えたのだ。
「じゃあ、行くか。俺とお前の初冒険だ!」
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽
街の広場の真ん中に、『リンカーアーム』、別名を『魂を掴まえて離さない左手』と呼ばれるダンジョンがある。ナナシも荷物持ちのポーターとして、何度か潜った事のあるダンジョンだ。
でも、ケインさんとの初冒険だなんて言われたから、いつもと違って、とてもワクワクしていた。こんな気持ち、今まで感じたことなんてない。
「いくぞ、ナナシ。準備はいいか?」
「はい! よろしくお願いします!」
俺の人生変を変えてくれた優しい剣士との、初めての冒険に向かった――
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