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業火①


 燃やす――



 それが我が盟友から与えられた使命。

 まだ幼いとはいえ、古竜=エンシェントドラゴンの王の系統。我が親は古竜王ゴズである。


 その秘めたる力は、まさに超級。

 連続で打ち込むドラゴンブレスは超ド級の威力。


 巨大な身体を持つ相手とはいえ、たかがトレント。

 しかし、山をも貫く威力のドラゴンブレスを受けても、びくともしない。

 トレント如きに苦戦などしていては、古竜のプライドが許さない……が、その体を燃やそうにも、火がつく様子がまったく見られないのだ。


 しかも、巨木トレントは、空からブレスを浴びせ続けている自分に見向きもしない。まったくこちらに攻撃をしてこないのだ。


(……我を無視しているのか……!? )


 益々プライドを傷つけられ、巨木トレントに対して怒りが込み上げてきた。そんな時――




「みんなっ! 棒人形は俺が燃やし尽くすっ! だから、みんなはそれぞれの役割をこなせっ! 」


 空高く飛びながらドラゴンブレスを吐き続けているニールの耳に、我が盟友の声が届く。

 突如、爆炎を引き摺り回しながらトレントの片割れを燃やしまくる盟友を目にして、自分に対して怒りが湧き上がった。

 

(……なぜ、あんな強力な炎を扱える!? あの剣の力か!? 我よりも強力な炎を発している!? )


 ニールは不甲斐ない自分の力に憤慨する。

 自分では、かなり成長したつもりだった。

 自分だけなら空を飛ぶこともできるようになった。

 リンカータウンの攻防戦でだって、軍隊蟻戦だって、自分のブレスが役に立っていた。

 この巨木トレント戦だって、自分の飛行能力とドラゴンブレスの威力を見込まれて指示された単独行動なのだ。



 なのに、今、任せられた仕事をこなす事ができていない――


 

 それどころか、ついこの間、盟友の武器として仲間になったばかりの剣が、自分よりも我が盟友の役に立っているとは……。


 我が盟友と自分とは、見えない絆で繋がっている。

 竜は親から魔力を与えられて育つが、自分は親ではなく、この盟友から魔力を貰って成長することを選んだ。

 それを嫌な顔せず受け入れてくれた我が盟友は、親であり、兄であり、友人である。


 そんな盟友から与えられた役割、こなせないでなるものか――



「ニールっ! サクヤっ! ヒンナっ! さっさと親玉やっちゃってくれっ!」



 届けられた声にニールは発奮した。

 それは頭にきたとか、そういうものではない。

 ただ、我が盟友からの純粋な期待の声。

 

 ニールは中年人形との繋がりを強烈に意識した。

 それは、我が盟友の純粋な期待に応える為。

 特大のドラゴンブレスを放つ――



 ゴゴゴゴーーーーーッッッッ!!!



 まだ幼い身体から放たれた特大のドラゴンブレスが、自分を無視し続けた巨木トレントの太い幹に直撃する。

 そして、この戦いで初めて、巨木トレントから火の手が上がった――



          ♢



《 ――嘘でしょ!? なんでご主人様が!?》


《 嘘も何も……目の前で力を力を使っているのはご主人様。》


《 そんなのわかってるに決まってるでしょ!?》


《 ……なら何故? 何が嘘だと? 》


《 ――だってそうじゃない……。あんなに強い炎を操れるなんて……どうして!?》



 【小天守】と同化した巨木トレントに向かって炎弾を撃ち続けている2人の精霊が、何やら内輪で揉めている。

 初めのうちは、巨木トレントを直接燃やしてやろうと意気込んでいたが、2人の炎弾では巨木トレントの身体には傷一つつける事ができなかった。

 そこで、当初の予定通りに【小天守】の建物部分に炎弾を集中させて、やっとのことで【小天守】に火をつける事に成功していた。


 しかし、足元が燃えているにも関わらず、本体の巨木トレントは、何の影響も無いと言わんばかりに、あの太い枝でアリウムを攻撃し続けている。



 自分が主人に期待されたのは、進化して強くなった火の精霊としての力。

 しかも、自分に変身したヒンナと2人。

 同じく炎弾を扱える精霊2人、フルパワーで炎弾を撃ちまくれば、燃やせない物など無いと思っていた。



《 ……なのに、なんでご主人様が、あたしよりも強い炎を扱ってんの!? まさか、あの子が手を貸してるの!? 》


 サクヤは自分が進化するきっかけとなった、半神半精の女神の顔を思い浮かべた。

 ご主人様と一緒に冒険がしたいと願い、自らの力のほとんどを、あの剣と魔晶に注ぎこんだあの女神。



――あたしには、出涸らしの力しか渡さなかったわけ!?


 ご主人様の剣を、あれほど強力なアーティファクトにまで昇華させたのは、紛れもなくあの女神が、膨大な力を注ぎ込んだ事が要因だ。

 それでも、彼女の力を吸収したからこそ、今、自分は進化できている。



《 そりゃ、あちらは半神にまで登りつめた存在。()()()()()でしかない私たちより、素晴らしい力を持っているのは当たり前。》


 ヒンナが感情乏しく、正論を口にする。

 わかってる、わかっているけど、納得いかない。

 だって、あたしの方が、長くご主人様を支えてきているのに――



《 そんな事わかってるわよ! でも……、でも、半神って何なの!? 》


 わかっている。

 これは嫉妬。

 かつて、あの姦しい妖精に対しても持っていた感情……。

 精霊にだって、感情はある。

 あたしだって、ご主人様の役に立ちたいの!!



「ニールっ! サクヤっ! ヒンナっ! さっさと親玉やっちゃってくれっ!」



 感情の波に押し流されそうになっていた精霊の耳に、自分たちにはっぱをかける声が聞こえてきた。

 魔力を操作する手に力が入る。



《 もう、剣なんかに負けてらんないじゃないっ! いつまでも2番手でなんかいたくないのっ! 》


 サクヤは、いつも以上に自分の力の源から魔力を求めた。

 実は未だに苦手な炎弾の操作。

 でも、苦手だからなんだ。

 あんなに的の大きな相手、外すわけがないじゃないか!


《 これでどう? 絶対にあんたを燃やしてやるっ! 》


 みるみるうちに、それまで撃ち続けていたものの何倍もの大きさまで炎弾を育ててあげた。

 それはまるで小さな太陽――



《 剣になんか負けてらんないのよっ! あの子だって、そのうち帰ってくるんだからっ! 》


 

 カッ――



 両手で支えていた特大の炎弾を勢いよく投げつける。

 隣では呆れた顔で炎弾を撃ち続けるヒンナがため息をついた。


《 まったく……、仲間同士で張り合ってどうするのでしょう……。 やれやれです……。 》



 嘆きの妖精の嘆き節。

 彼女の小さな小さな呟きは、巨木トレントと特大炎弾のぶつかった際の爆音でかき消され、誰にも聞こえない――


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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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