鬼族
この小説を書き始めてからもう少しで1年になります。
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「――!? なんだあれは!?」
特大の幅広剣=ブレードソードを振り回しながら、鬼神王は立ち昇る炎をみて叫んだ。
棒人形は発火し、燃え尽きる。
生き物のように動き回るその炎が、次々と棒人形に襲いかかり、次々と燃やし尽くしていく。
「みんなっ! 棒人形は俺が燃やし尽くすっ! だから、みんなはそれぞれの役割をこなせっ! 」
聞こえてきたのは、機械人形=ゴーレムという生の理から外れた存在になった男の声。
あの男は、なんとも不思議な事に、そんな境遇に落ちても、ただの冒険者として生きている。
いや、生きていると言うのは間違いかもしれない。しかし、あの姿を生きていると言わなければ、なんと表現すれば良いのだろうか。
まったく、大した男だ――
♢
切っても切っても、棒人形は増えてしまう。
自分には幅広剣を振るう以外、魔物と戦う術はない。
完全にトレントを消し去る事ができる能力など持ち合わせてはいないのだ。
だから、近寄る敵は全て切って、叩いて、ぶちのめす。ただそれを繰り返すだけ。
しかし、何度棒人形を壊しても、その破片から次々と新しい芽が顔を出し、また棒人形が生まれてしまう。
数の脅威――かつて、この砦を落とされた時の魔物の大群がまさにそうだった。そして、今、対峙している巨木トレントと棒人形も、同じく数を頼みに押し寄せてくる。いや、倒したら増えるという、とんでもない仕組みな分、棒人形の方が凶悪かもしれない。
あの時……、砦を落とされた時、鬼神王の心は折られた。
気持ちが切れた途端、それまで右手一本で振り回していた幅広剣が持ち上げられなくなり、足は泥沼に囚われたように動かなくなってしまった。
挙句、魔物たちは戦意を無くした鬼神王には目もくれず、【大天守】にあるウカの魔力核だけを目指して行動し始めた始末だった。
『戦闘狂』などと呼ばれ、いつでも幅広剣一本で敵を屠り続けてきたというのに、後から後から押し寄せる魔物の大群に、一人で立ち向かう事が出来なくなってしまったのだ。
このダンジョン――【鬼ヶ島】と呼ばれるこの砦は、元々、鬼族が周辺の他種族から迫害を受け続けた名残である。
鬼族――過去、魔族と呼ばれ、差別の対象の種族の中の一つとして、他の種族から蔑まれ、排斥されていた。
『神の祝福を受けた種族では無い……』という意味を持つ魔族という名前は、自分たちの信じる常識とは違う常識を持つ者たちを侮蔑して呼ぶ名前だ。
鬼族は強固な砦を作り、そこに住む事で、自分たちの身を守っていた。
今でこそ、ただの岩山となっいるが、当初、この山には泉が湧き、恵み豊かな山であった。
狭いながらも、強固な砦に守られたこの山は、鬼族にとって、晴耕雨読な穏やかな生活をおくることができる唯一の場所であった。
だが、魔族として排斥の対象になっている現実は、そんな鬼族を許すことはなかった。
事あるごとに憎悪の対象とされ、心休まる日々を過ごすことができなくなっていったのだ。
鬼族は考えた。
角があっても、皮膚の色が違くても、同じ考えを持つもの同士であれば、その相手は安心する。
鬼族は、いつからか自分たちが心棒していた神を隠し、太陽神をはじめとする神々の力に心改することで、自分たちを魔族と呼ばれ排斥され続けている歴史を転換しようと考えた。
その他の大勢を占める種族の考え方に阿り、同調する事で、差別から抜け出そうとしたのだ。
様々な種族が存在し、姿形も様々違っている世界で、同じ神を心棒しているという仲間意識を醸成する。
その一因をキッカケにして、その他の種族との融和を計っていった。すると、不思議なことに、周りとの差が無くなった……いや、縮まった。
さらに、今までは鬼族と名乗っていたものを、鬼神族と名乗るようになると、いかにも神に祝福されている種族のように扱われるようになった。
長い時の流れは、世の中から元の鬼族という名前を徐々に忘れ去らせ、初めから鬼神族という名前だったかようね歴史を紡がれていく。
勿論、神代の始まりから存在する長命種の種族たちは、鬼神族が魔族の一員とされた鬼族であったという事を忘れる事などなかった。
しかし、ある時から、鬼族という名前に興味を持つ者は急激に減ることになる。
その二つめのキッカケになったのが、太陽神による『楽』プロジェクトであった。
誰もが苦労をせずに、自分の願いが叶う。
生活に不安が無くなると、他に興味を無くしていった。
種族間の争いも無くなり、その影響で、鬼族という元の名前に興味を抱くものは居なくなっていった。
この時をもって、鬼族は完全に鬼神族となったのだ――
その後、『楽』プロジェクトに綻びが生じ、鬼神族も滅亡の憂き目にあってしまう。その為、当時の鬼神族の王であったギルは、ウカが行った『試練』のダンジョンプロジェクトに参加し、使徒として『試練』のダンジョンを守り続けてきたのだ。
つまり、鬼神族とは、自らのアイデンティティを捨て、他に阿る事によって生まれ変わり、生き続けてきた種族なのだ――
♢
「まったく……、散々周りからいじめられ、蔑まれてきた男だというに、あの機械人形は、よくもまぁああやって生きられるものだ……。」
理不尽な運命的に逆らい、必死に生きる為、鬼族は他に阿った。
あの男は、どうやってあの不幸な身の上を受け入れたのだろうか。
( この戦いを終えることができたら、素直に聞いてみるのもよいかもな。)
無駄に数を増やすとわかっていても、幅広剣を振るい続ける事しかできない鬼神王は、変わる事なく棒人形をきり続ける――
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