小天守と巨木トレント③
《 うひゃあ!? 》
健気にも巨木トレントに向かって炎弾を連続で撃ち込み続けるサクヤに棒人形が襲いかかってきた。
ヒンナに抱きついて怖がるサクヤに、思い切り腕をしならせて殴り掛かる。
《 やらせないっ! お嬢たちは炎弾撃ちまくって! 》
高速で飛び回る土盾が、サクヤたち攻撃陣と棒人形の間に割り込んでくる。
土盾は鞭のような一撃を見事に受け切り、さらに殴り掛かってきた棒人形をしっかりとバッシュした。
ハニヤスは、10個の盾を巧みに操っていた。
三角帽子を深く被り、まるで指揮するマエストロのように、指先で土盾の次の動きを確定させる。
サクヤとヒンナを護る盾と、こちらに走ってくる棒人形を弾き飛ばす盾に分け、あくまでも防衛と進行を邪魔することに専念している。
進化した今は、自らの力で土塊を生み出し、成形することができるようになった。その気になれば、石礫の雨を何もない空間に降らす事もできるだろう。
ただ、今は自分の契約者の指示通り、土盾によって仲間を護る事こそが三角帽子の小人に課された仕事。それだけに集中する。巨木トレントを燃やし尽くすには、サクヤたちの火の力が必要なのだから。
( ……土には土の良さがある…… )
精霊とは、力の根源こそ魔力に頼るが、自らが象徴する属性の物質や現象に起する存在。その起する属性以外の力は使えないが、自分の属性に合った力に関してはプロフェッショナルである。
つまり、今のハニヤスは、進化した土小鬼=ノームとして、土属性のプロフェッショナル――
「 ナイスだハニヤスっ! よくやったっ! 」
巨木トレントが繰り出した先制攻撃をやり過ごせば、我が契約主はしっかりと駆けつけてくれる。
ハニヤスは、目深に被った三角帽子のしたで、ニヤリと笑った。
( ……ナイスやで、ご主人様…… )
♢
走り寄った俺が剣を横凪に振るうと、土盾に押し返された棒人形の胴体を鋭く断ち切った。
別の位置ではソーンが棒人形を肩口から叩き伏せている。
「 サクヤ、ヒンナっ! 【小天守】に向けて炎弾を撃ち続けてっ! ハニヤスは土盾の半分をニールの防御にまわしてくれっ! 」
走り寄ってくる棒人形を切り伏せながら、俺は精霊たちに指示を出す。返事は無いが、しっかり指示に反応し、精霊たちはそれぞれの仕事を全うするべく動き出していた。
「 ヒロ君っ! 不味いわっ! このトレントの片割れも、壊した先から増えてるっ!」
切り裂かれ、砕かれた棒人形。
倒れた後、しばらくは動きを止めていた為、素直に倒せたと思っていたが、少し考えが甘かった。
ここまでの道中と同じく、トレントは全て燃やし尽くさなければ、その破片からでも数を増やしてしまうらしい。
このまま剣で切り続けたら、そのうちこの広場が棒人形でいっぱいになってしまうだろう。
「 ……くっ!? こいつらも増えるのか!?」
アリウムの支援に向かった鬼神王からも、同じような悲鳴が上がった。
「 ――機械人形よっ! 此奴らも砕けた先から増えよるぞっ! どうするっ?」
サクヤ、ヒンナ、ニールによる攻撃を棒人形に割くことは明らかに悪手だ。
棒人形を増やす元。その根源である巨大トレントを倒さなくては、たとえ今いる棒人形を殲滅させたとしても、再び枝をばら撒かれれば同じくことの繰り返しになってしまう。
さりとて、棒人形を切り伏せても、キリがないどころか益々増えてしまう。
( ……これは相当まずいかも……。 )
妙案が浮かばず、しばらく棒人形との小競り合いを続けていると、つんざくような爆音が鳴り響いた。
ドガーーーンッ!
ドンッ! ドーーーンッ!
その爆音の発生源を見ると、【大天守】を延焼から護るためにアリウムが張った【アンチバリア】を、巨木トレントの野太い枝が、何度も何度も叩きつけられていた。
複数の枝が叩き込まれる度に、頂上広場に地響きが走る。一撃一撃がとんでもない威力であることは、障壁を支えるアリウムの必死な表情からもわかった。
いつもなら、真っ先に泣き言を叫び出すアリウムが、歯を食いしばったまま、叫び声すら出せずにいるのだ。
( ……ヤバい、ヤバいぞ!? どうしたらいい!? )
人族であった時ならば、おそらく身体中から汗が吹き出している。機械人形の身体である為に、緊張が身体に変化を及ぼすことはないだけだ。
考え続けながらも、剣を振るう事を止めるわけにはいかない。しかし、その一撃ごとに棒人形は増え続け、炎の攻撃を受け続けている巨木トレントも、まだまだ火がつく気配が無い。
サクヤもヒンナもニールも頑張っている。
俺から魔力が流れ続けているのがその証だ。
数の暴力――いつも、この理不尽で圧倒的な力には苦労させられてきたが、なんとか切り抜けてきた。しかし……、
( ……どうする、どうする、どうする〜〜〜っ!? )
棒人形も燃やすしかない
もちろん、巨木トレントも
考えろ、考えろ、考えろ……。
「――ガァーっ!? 浮かばないっ!」
本来なら口に出すべきではないだろう。
パーティーメンバーを不安にさせるなんて、リーダーとしてあってはならない行為。
( ――やっちまった!? これじゃ、リーダー失格だろっ!?)
口にだしてしまってから、後悔が頭を巡る。
( ――ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、何やってんだ、俺はっ!? )
しかし、そんな大失敗と思える俺の発言にたいするみんなの反応は、俺が思ったものとは違ったのだ。
仲間たちは、こちらを気にするでもなく、淡々と今自分たちに課せられた役割をこなし続けている。
「――ヒロ君っ! 慌てないでっ! 大丈夫、みんなちゃんとやれているわっ! みんなで力を合わせて切り抜けましょうっ!」
振り向きもしない仲間たちのなんと頼もしいことか。それこそが、ソーンの言葉がパーティーの全員の代弁していることを示している。
信頼――言葉で表すのは簡単だけど、実際に信頼を寄せるのも、信頼に応えるのも、意外と難しい。
だが、この場でそんな哲学的な議論はまさに場違い、やるしかないのだ。無条件に信頼を寄せてくれる仲間に対して、その信頼に無条件で応える為に。
その時、名前も無い魔法剣、正確には、魔法剣に嵌め込まれた赤い魔晶から、赤いオーラが漏れ出した――
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