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小天守と巨木トレント①


「ふー……、疲れた……。」


 

 岩山を削って通された通路と上の階を繋ぐ階段室を5階登ると、やっと開けた場所にたどり着いた。

 そこにトレントがひしめいていないのを確認すると、挟み撃ちの危機の際からずっと【アンチバリア】を貼り続けていたアリウムは、仰向けに倒れ込んだ。



「 ……ふむ。曲輪を守る門も壁も見当たらない。全て朽ちてしまったか。大量のトレントは脅威だが、砦としての脅威は皆無だな。」


 鬼神王の呟きに、俺は同じ感想を持った。

 山城とは、まさに敵に攻められる事を想定し、いかに攻めにくくするかに重点が置かれているものだ。

 居住性など二の次。何重にも防御の為の仕組みを試行錯誤し、攻め手の心を折ることを主眼に置く。


 城を囲む広大な空堀。

 一階に張り巡らされた迷路のような通路。

 上へと繋がる通路は狭く、九十九折りになっており、登った先の曲輪には敵を押し留める門と壁。


 単純ではあるが、効果的。常に四方に気を配っていても、防衛にあたる兵士の攻撃を全て防ぐのは困難であろう。

 本来、砦というものは、その他の様々な工夫を含め、簡単に攻め落とせる者ではないのだ。


 ただ、それも工夫を凝らした仕組みとして備え付けられた壁や門などが現存していてこそ、充分な効果を発揮するのだ。この忘れられたダンジョンのように、その仕組みの一部でも無くなってしまえば、防衛施設しての価値は格段に落ちてしまう。



「――まぁ、魔物の大群に襲われたた時、すでにこの砦はボロボロにされていたからな。修復する者が居ないのだから、当たり前だな……。」


 元来、城を攻め落とすには、守備兵の3倍の兵力が必要だと云われる。

 この砦を守る兵力が鬼神王以外に居なかったとして、目の前で天守を見上げている暴力的に強すぎる赤鬼が、そう簡単に負けるとは思えない。

 数の暴力とは、個の強さを遥かに凌駕する。

 よほどの大群だったのだろう。

 

 リンカータウンの防衛戦の際もそうだったが、ヒルコはどうやってあの膨大な数の魔物たちを操ったのだろうか。

 吸血鬼王が襲われた際は、狐憑きが魔力の糸で直接冒険者たちを操っていた。あの実力者のケインさんたちでさえ、その力に抗えなかったのだ。いかに強力な支配術かが判る。


 しかし、膨大な数の魔物たちを糸で操るなんて事は、あまりに荒唐無稽な話である。何か他に大量の魔物を操る技術があるのだろうか………。



          

「 ……機械人形よ、あれを見てみろ。」


 鬼神王の後ろ姿を見ながら、過去の砦の襲撃について考えていると、唸るような低い声で鬼神王が話しかけてきた。


 その声に従って、鬼神王が指差す方を見ると、それはこの砦の櫓――日本の城でいう天守であった。


 その造りは、所謂、連結式と呼ばれるもので、手前に入り口のある【小天守】、そこから渡り廊下でのみ繋がっている【大天守】の二つの構造物でできていた。

 これも、見事な防衛の為の技術である。

【小天守】を落としても、更にその本丸である奥の【大天守】を攻略しなくてはならない。

 しかも、そこに至る為には、唯一の通路である渡り廊下を使わなくてはならず、通る際には【大天守】からの猛烈な攻撃に晒される事になり、挙句の果てには、渡り廊下を落とされる危険もあるのだ。


 砦の最終防衛拠点な訳だから、様々な知恵が注ぎ込まれているのは間違いないのだが、見上げた天守には、更に厄介な事が起きていた。



「 ――櫓がトレントに取り込まれておる――」


 

 そう、【小天守】が、完全に巨大なトレントに覆われているのだ。屋根から突き抜けた巨大な幹からは枝が無数に伸び、櫓を包み込んでいる。

 まるで櫓そのものが大きなトレントになったかのようだ。



「 ……これは厄介だな。櫓ごと焼き尽くすしかないか……。」


 

           ♢



 天守に至るまでの通路は、それまで同様、破片を残さぬようにトレントを焼き払いながら進んだ。


 九十九折りの通路をまた五階分。

 砦の防衛力がまともに働いていたなら、常に上の段から狙い撃ちにされながら進まなくてはならないが、立ちはだかるのはトレントばかり。

 連携を取るでもなく、ただただ特攻してくるトレントに対し、俺たちもすっかり対処できている。

 当初、相手の情報が無い状態で侵入し、不意を突かれたりしなければ、このメンバーでトレントたちに遅れを取る事はなかった。


 常に【アンチバリア】を貼り続けるアリウムも、精霊たちとニールに魔力をガンガン吸い取られている俺も、かなりの魔力の消費量ではあるが、老王たちに鍛えられた事もあり、残りの魔力量には充分な余裕はある。


 

 入り口であるはずの正面扉は傾き倒れており、そこからは太い木の根が顔を出している。

 あの様子では、【小天守】の中は巨木トレントの幹で隙間も無いだろう。とてもじゃないが、【小天守】を通って【大天守】に行くことはできそうもない。


 

「これは不味いな。あれじゃあ、直接【大天守】の中に入る方法を探さないとだな。だが――」


 岩山の頂上に立った俺たちを、【小天守】と同化した巨木トレントが見下ろしていた。

 その幹に穿たれた木の洞は目、口、鼻のような形に歪んでいる。

 今まで灰にしてきたトレントたちには、そんな物は無かったはず。

 俺が感じた視線のようなものは、おそらく巨木トレントからのもので間違いない。



「――あいつを倒さなければ、【大天守】には近づく事は出来そうにないですね。」


 さあ、ボス戦だ――

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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