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木の魔物④


 ヤバいっっっ――



 身体も思考も体勢を崩したままの為、アリウムは未だに【アンチバリア】を張ることができていない。

 俺自身も、何の対処もできないままで、凍った床を滑っていく。

 

 戦闘中の僅かなミスがパーティーの連携にも綻びを生み、重大なピンチに陥る。


 よくある失敗の物語……。



 ( もうダメか!? )



 そう覚悟した瞬間、俺たち3人を大きな水塊が包み込んだ――


 

「「「 ぶほぉっ!? 」」」



 いきなり水の中に飛び込んだアリウムとソーンは、肺の中の空気を一気に吐き出してしまう。

 息を止める余裕もなかった為、苦しさのあまり2人は口を押さえた。

 


 俺は冷たい水に包まれ漂いながら、なんとか冷静さを取り戻していく。

 熱くなった思考を冷やすには良い冷たさ。

 なにせ水の中だ。

 頭から水を被せられるどころか、丸々全身水の中にいる。

 機械人形=ゴーレムという、呼吸を必要としない身体であるとうことが、自分にとってこんなにも有利に働くなんて……。


 毒ガスの中で平気だったり、水の中で平気だったり……。そんな事、今まで考えた事などなかったな。


 冷静になった俺は、今の状況を理解するため、急いで周囲を見回す。すると、水筒から身を乗り出して、両手を高く掲げる波の乙女が、ちらりと俺の顔を見た。



( ――ミズハか! )



 その表情には、確かに呆れの感情が見てとれる。

 俺の下手くそな指揮によって、パーティーメンバーを重大な危機に陥れたのだ。

 波の乙女からの厳しい視線……、甘んじて受けるべきだろう。


 状況を整理し、水の中で体勢を整えた俺は、アリウムとソーンの二人を水塊の外に強引に押し出す。そして、同時にハニヤスに土塊を生み出させてそこに捕まらせた。


 アリウムとソーンが土塊に捕まり、なんとか呼吸を整えようと肩を上下させている。


 「ゲホっ、ゲホっ……。」


 水から抜け出し、肺に酸素を取り込もうと咳込むアリウムとソーン。全身びしょ濡れになってしまったが、窮地に落ちるところを波の乙女の咄嗟の判断によって救われたのだ。彼女に文句は言うまい。



――というか後で怒られるのは、俺か………


 

 俺は頭を切り替えて、ミズハに水塊の()()を指示する。

 パンッ、と水塊が弾けると、大量の水が足者の床に広がっていたトレントの残骸を一気に洗い流す。



「 まったく、何をやっとるかっ! 自分たちで勝手に苦境に落ちおって……。冒険者失格だぞっ!」


 冒険者ギルドの最高責任者にこう言われてしうとなかなか反論しづらいのだが、今はまずこの崩れた体勢を立て直すのが優先。



「――すまんっ! アリウム平気か? 障壁張り直してくれっ! ヒンナはサクヤに変身してニールとサクヤと共に後方のトレントを焼き払ってっ!…………それからグラマスっ!」


 偉そうに説教をしながら、なおも前方のトレントを自慢の幅広剣で砕き続ける鬼神王にひとこと物申す――


「――あなたがそうやって撒き散らしたトレントの残骸から新しいトレントが生まれてるんですっ! もう少し状況を考えてトレントを倒してくださいっ!」


 思ってもみない俺からの苦言に、「ムムム……」、と渋い顔で唸る鬼神王。

 ちょっと言いすぎたか、と不安が過るが、その不安はまったくの杞憂に終わる。



「――カッカッカッ! なるほど、すまんかった! まさかトレントの残骸からトレントが生まれるとは思わんかった! 機械人形よ、何かいい策はあるかっ?」



 鬼神王は、俺の嫌味を込めた苦言を盛大に笑い飛ばした上に、この後の作戦を一任してきた。


 俺はハニヤス、フユキと共に足下に散らばったトレントの残骸を障壁の外へと蹴り飛ばしながら考える。

 トレントを完全に消しきらなければ数が増えるとなると、燃やし尽くすかないか、ならば……。


 

           ♢



《 ちょっと、変なとこ触らないでよっ! 》


「おぉ、すまんすまん、嬢ちゃんが可愛らしくて、ついな。」


《 ――!? 可愛らしいって……。そんな事言われたって、嬉しくないんだからっ! 》


 

 満更でもなく顔を赤らめるサクヤ。

 鬼神王の掌にスッポリと収まり、前方のトレントに向かって炎弾を撃ちまくっている。


 その隣ではサクヤに変身したをヒンナが、ソーンに抱えられながら、同じように炎弾を放ち、鬼神王とソーンの間には、古竜のニールが、その小さな羽で空中に浮かびながら、自慢のブレスを撒き散らしていた。


「 ぴぴぃーーーっ! 」


 ブレスの合間に、ニールの絶叫が混ざる。

 ニールなりの気合いの入れ方なのだろう。

 精霊たちと共に、進む先に湧き出るトレントを、見事に焼き尽くしていた。


 

 砕いてしまうと、その破片から新しいトレントが生まれてしまう。

 ならば、燃やし尽くす。

 炎による攻撃を全面に集中させて、トレントを焼き払いながら前進する。

 少し時間はかかるが、先程のような挟み撃ちなどにはならない、安全策だ。



「 ……ヒロさん……、なんかこれ、軍隊蟻との戦いを思い出すんですが……。 」


 ブツブツ文句を言っている者がひとり。

 最後尾で、ヨロヨロと後ろ向きに歩くアリウムである。


 彼は通路いっぱいに障壁を張って、挟み撃ちされた際に燃やし損ねた大量のトレントたちを足止めしていた。

 砕かれバラ撒かれた大量の破片は、通路を埋め尽くす数のトレントを生み出してしまったようで、アリウムの張る魔法障壁には、相当な圧力がかかっている。

 

「階段までたどり着いたら、3人に焼き払ってもらうから、そこまで頑張ってくれ。」


 汗なのか、それとも先程水塊に飛び込んだ際の水なのか、足下を濡らしながら後ろ向きに歩くアリウムは、どんどん強まる圧力に悲鳴を挙げている。


「めちゃくちゃ重いんですっ! 早く進んでくださいっ!」

 

 その悲鳴は、殺到するトレントがぶつかる音と、精霊と古竜の撃ち出す炎の爆音で、掻き消されてしまう……。

 なんて、実はみんなには聞こえてはいたんだけどね。すまん、アリウム、しばらく頑張ってくれ。

 


 心の中でサムズアップした俺とソーンだった――

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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