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木の魔物③


「 ……しかし、よく考えると不思議よね。」


 階段を登りきって2階に登り、またもや木のトレントがワサワサと動いているのを見たソーンが呟いた。


「 何がだい? 」


 俺は仁王立ちして幅広剣を構えている鬼神王の隣で魔法剣を抜き放ちながら尋ねると、俺の隣で棍を構えながら、ソーンは理由を話してくれた。



「 だってそうじゃない? この岩で覆われた砦の中、水も無い。それなのに植物の魔物であるトレントたちがこんなにも繁殖してるなんて。魔力核から生まれた魔物でもないわけだし、どうしてなんだろって思うの。」


 なるほど。

 アスファルトに咲く花の話は聞いたことがあるが、水が無ければ植物は育たない。

 ウカの魔力核から生まれた魔物でないのは、魔石を落とさないことからも明らかだ。

 どうして、この岩だらけで水の無い環境で、トレントたちは繁殖できているのだろうか。


「カッカッカッ! 難しい事をサラッと話しおるのう。」


 鬼神王は嘆きの妖精を俺の肩へと移し、幅広剣を肩に担ぎ、腰を低く構えると、足に溜めた力を一気に解放する。



「さっきは任せっきりだったからな、ここは任せよ。」


 勢いよく幅広剣を振り回すと、近くにいたトレントを全て一振りで屠る。凄まじい威力のこの豪剣、何度見ても驚かされる。

 右手一本であの巨大な剣を振るう事もそうだが、その質量に遠心力が加わってもフラつかない下半身の強さ、これこそ鬼神族という種族の優れた特徴だろう。



「変わり者の聖職者よ、ワシは考える方は苦手だからな。色々と考える仕事はお前に任せるぞっ! カッカッカッ! 」


 大きな笑い声をあげながら、あっという間に部屋にいたトレントを片付けてしまった。そして、その勢いのままに、通路を塞いでいるトレントをも粉々に砕く。


「こっちじゃ。早く来いっ!」


 勝手知ったる我が家を行くように、迷いなく通路を進んでいく。

 広い部屋と細い通路の繰り返しだった1階と違い、2階以降は露出した山肌を削って道が作られており、道幅は広いが部屋のようなスペースは階段室のみのようだ。

 通路は左右に伸びる2本のみ。鬼神王は迷わず右側の通路を進む。

 傾斜になっている通路は、急では無いがゆっくりと登っている。緩やかな滑り台を登っているような感覚だ。



「ここはな。何度も言うが元鬼神族の砦、山城だった所だ。ここから上は皆同じような作りになっておる。左右の道を間違えさえしなければ、天守までは一本道みたいなものよ。」


 なるほど、先程までとは違い、陽の光が所々差し込んでいる。

 外から見た時はわからなかったが、自然の山の地形を上手に利用した城の造りだとわかる。

 通路の片側は剥き出しの岩山、片方は人工的な建造物。

 おそらく鬼神族は、城造りに長けた種族だったのだろう。



「しかしまぁ、それでも不足の事態があってもいかん。バリア少年は、しっかりと障壁で守ってくれ。ワシ以外をなっ! カッカッカッ!」


 いちいち高笑いを響かせて、ズンズン道を進んで行く鬼神王。その足下には切り払われたトレントの残骸が転がる。

 まさに鬼に幅広剣。トレントの攻撃なんぞは物ともせずに突き進んでいく。



 トレントの残骸を踏み越えながら、鬼神王の後をついていく。

 俺は、鬼神王の豪快な剣捌きに感嘆しながら、一応は後方の警戒をしようかと後ろを振り向いた。


 すると、トレントの残骸から木を割るような音が聞こえたきがした。

 それも、通路を埋め尽くす残骸全体から……。



「――何かおかしいっ! みんな、後方注意してっ!」



 バキバキッ!

 ミシミシっ!



 俺が叫ぶとほぼ同時、トレントの残骸から一斉に新しいトレントの芽が生えてきた――


 新芽から双葉、そしてあっという間に木のトレントへと成長すると、通路を埋め尽くし、ぎゅうぎゅうの状態のまま、一気に襲いかかってくる。



「くそっ! 挟み撃ちだっ! ニールっ! サクヤっ! 後方を一気に焼き払って! ハニヤスはグラマスを土盾で援護っ! 」


 予想外の挟み撃ち。前方の警戒、撃破は鬼神王が問題なくやってくれるが援護ができない。そこでハニヤスには前方の支援に集中してもらう。

 そして俺たち他のメンバーは後方のトレントだけに集中することにした。


 突然の指示にも、頼もしい仲間たちはしっかりと対応してくれた。

 道中、まったく気を抜かずに、警戒を続けてくれていた証拠だ。



「――足下っ! 転がってるトレントの残骸からも新芽が生えてきてるっ!」


 列の中心で全体を警戒していたソーンからも声が飛んだ。ソーンは愛用の棍でトレントの新芽を潰しまくる。

 しかし、砕けた破片から再びトレントの新芽が顔を出し、次々に生まれてくる。

 きりなく生まれてくるトレントに当惑し、ソーンも俺も混乱してしまった。

 アリウムの障壁も、足元には届いていない。



「――フユキっ! 足下のトレントを凍らせてくれっ! ヒンナもドッペルゲンガーでフユキを手伝ってっ!」



 咄嗟に精霊たちに命じて足下を凍らせる。

 ドッペルゲンガーとはヒンナの変身能力。

 フユキとヒンナの精霊2馬力で、一気に足下のトレントを凍らせにかかる。


 急激に凍ったトレントの新芽。

 「上手くいった!」と心の中で叫ぶ。

 ところが、成功と思ったトレントへの対処が、大きな失敗と混乱を呼ぶ――




「ちょ、ちょっと! 傾斜のある床を凍らせたら……っ!」



 最後まで言い切る前に、ソーンとアリウムが凍った通路に足を滑らせてしまった――

 

 転んだ拍子に2人がぶつかる。さらに、勢いを消せず、一番後方でトレントに対処していた俺にまでぶつかってしまう。



「「うわっ!」」


 ぶつかり合った3人は、尻餅をついたまま傾斜のある床を滑っていく。

 アリウムは動揺し、パーティーを覆っていた【アンチバリア】の制御から思考を外してしまう。ブンっ、と音を立てて、【アンチバリア】は解除されてしまった。


 3人はもつれたまま滑っていく。

 最後尾で炎弾をばら撒いていたニールとサクヤは、滑ってくる俺たちに気づいて両脇によける。しかし、その先には、炎によって火だるまになっているトレントの群れが……



 炎に飲まれるっ――



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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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