落ち込む少年、顔をあげる
♢
「よし、ナナシ。腹減ってないか? 先ずはメシでも食いに行こう!」
俺の涙が止まるのを待っていてくれたのか、突然、俺の頭をクシャクシャとなでながら言う。そして、俺の返事を待たずにこう続けた。
「腹が減っては冒険はできぬってな。」
満面の笑顔で俺と肩を組む。背の高さが足りない俺は、少しケインさんにのしかかられる感じだが、全然悪い気はしない。
「でも、僕、お金ないんです……。」
ケインさんの笑顔が一瞬だけ暗くなり、またすぐにもとの笑顔に戻る。
「遠慮するなと言ったところで、お前は遠慮しそうだな……、ならどうだろう。俺とお前の初の冒険で、お前が荷物持ちのポーターをしてくれるという事で、その報酬の前払いってことにしよう。食事のついでに無くしたリュックの代金分も付けてやる。これでどうだ??」
――嘘でしょ!?そんな幸せなことってある!?
また、俺の目から涙が溢れた。こんなに泣いてばかりいたら、ケインさんを困らせちゃうのに……。そんな俺に対して、優しい剣士は落ちついた声でもう一度確認した。
「どうだナナシ? ダメか?」
――ダメなんかじゃないです……
声が出ない。ダメだ、ちゃんと、言わなきゃ。
「ぜ、全然ダメじゃないです!」
それを聞いたケインさんは、心底安心したという感じの満面の笑顔で、また大袈裟に親指を立てた。
安心したのは俺の方だと言うのに、この優しい剣士はどこまで俺の事を思ってくれているのだろう。
「おっ、やっとまともに喋ってくれたなっ。よし、そうと決まればまずはメシ! そしてその後、装備品を揃えに行こう! 明日やろうは馬鹿野郎ってな!」
さぁ、行くぞと、俺の手を引いて歩き出す。
俺がケインさんの顔を見上げると、彼は得意げに笑いながら言う。
「どうだ名言だろ? 俺が考えたんだ。ニシシっ」
おそらく彼なりの気遣いなのだろう。
いつまでも遠慮がちな俺に、一生懸命話しかけてくれている。こんなにも俺に気を使ってくれた人が、ナナシのこれまでの人生の中でいただろうか。
いつでも、嫌われ、嫌がられ、蔑まれ、疎まれて………、ありとあらゆる人を貶める言葉が当てはまるような人生だったのだから。
俺は、中身は大人だけど、今の世に存在している、本来のナナシとして子供らしく、この優しい剣士に甘えても良いのだろうか。きっと、甘えて良いのだろう。そう、彼は俺を、ナナシを孤独で辛い闇の中から連れ出してくれようとしているのだ。
明日やろうは馬鹿野郎……確かに名言かも!