落ち込む少年、優しさにふれる
ケインさんは三人組と俺の間に身体をねじ込み、掴まれていた俺の腕を自由にしてくれた。
「さて。という訳なんだ。――そちらさんは引いてもらえるかな?」
ケインさんは三人組の方へ振り返り、そのまま自分の背中に俺の身体を隠した。
「おいおい、俺たちが先にその魔物の小僧と話しているんだ。脇から横入りするんじゃねぇよ!」
「なんなんだ、あんた? こいつは俺たちのパーティーで冒険者のイロハを教える予定なんだよ。あっちにいけよ!」
戦士風の男がケインさんに殴りかかろうとしたが、魔術師風の男が冷静にその手を押さえて止めさせる。
「おい、あいつの首から下げてる冒険者証を見てみろ! B級冒険者だ。退くぞっ。」
冒険者にはランクがあり、功績を積み上げ実力を認められるとそのランクが上がっていく。AからFまでの6段階あり、B級というのは上から2番目のランク。つまり、ケインさんは相当な実力者ということになる。
三人組も、ダンジョンで見せていた戦闘技量を思えば、かなりの実力はあったはずだが、それでも、Bランクという高ランク冒険者には、とてもじゃないが叶うことはないようだ。
魔術師風の男は三人組のリーダーなのだろう。彼は自分たちとケインさんの実力の差を冷静に判断し、退くことにしたのだ。実に強かな男である。
「おいっ!白髪頭っ!次は俺たちがまた雇ってやるから、逃げ出すんじゃねぇぞ!」
「B級の旦那、今回はお譲りしますよ。では。」
ケインさんは、三人組が街の裏通りへと完全に姿が見えなくなるまで、僕をその背の後ろに隠してくれていた。
♢
「いやぁ、探したんだぞナナシ! 会えて良かった。」
ケインさんは、俺の肩を抱きながら話す。
――えっ!? 俺を探していた? 何故?
なんで、俺を探していたんだろう? 俺を探していた理由が見つからない。この人も俺を騙して利用しようとしてるとか? それとも……
「なぁ、ナナシ。お前、孤児院を飛び出したんだって? 何処か行く宛てでもあるのか?」
何故かケインさんは僕が孤児院を飛び出した事まで知っている。どうして……
俺が何も話せないでいると、ケインさんは俺の格好を見て話を続けた。
「もしかして冒険者になりたいのか?」
その言葉を聴いて、年齢制限で冒険者になれなかった事を思い出し、急に涙が溢れた。泣くつもりなんかなかったのに……。
ケインさんは、俺の涙に何かを察したのか、僕にこう言った。
「なぁ、ナナシ。とりあえず、俺と冒険に行こうぜ。荷物持ちのポーターならお前の十八番だろ? さぁ、俺と一緒に行こう!」
俺は拭いても拭いても溢れてくる涙を隠しながら、声も出さずにただ何度も頷いた――
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