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終わりのない明日


 いつまでたっても誰も来ない――



 そんな時間を永遠に過ごさなくてはならないのならば――



 終わりのない明日を迎えるくらいなら――



 一刻も早く消えて無くなりたい――



 そう思ってしまうほどに独りは辛いのだ――



           ♢



「そんなことをしたら、君は消えてしまうのではないのかい? そうまでしても、ここに残される事を拒否するのかい?」


 俺は涙を流して懇願する少女を前にして、その望みを叶えるべきなのか、葛藤している。

  

 だってそうだろ?

 独りでいる事を拒絶し、その願いの為には、消えて無くなる事を選ぶって言うんだから。


 そして葛藤の中、ふと自分にも訪れる可能性に気づく。


 

『――まぁ、人として生きて死ぬ、という事はできないという事だよ――』


 機械人形に封印された後、ソーンから聞かされた森の女王アエテルニタスの言葉だ。

 彼女は、寿命という概念からもっとも遠い存在、ハイエルフである。

 そんな可能性が機械人形である俺自身を指し示した言葉。

 おそらく、機械人形が()()()()()()()()()()()生き続けるという事を言っているのだろう。

 しかし、ここに縛られて動けず、自らの存在を消し去って欲しいと懇願するブリジットを見て、俺自身の未来について想像してしまった。

 


 ()()()()()()()()()()()、俺はどうなるんだろうか――



 身体が動かなくなったら、俺という魂も力を失うのだろうか。

 それこそが、俺が迎えるべき死の姿か?



 もしかしたら――機械人形の身体が壊れて動けなくなっても、魂だけは生き続け、その場に独りで留まり続ける事になるかもしれないのではないか?



 もしかしたら――自分の周りに居てくれる仲間たちが寿命を迎えたとして、自分一人だけがこの世界に取り残されてしまうのではないだろうか?


 

 ブリジットを心配しているように見せて、実は自分の心配をしてしまっている自分に呆れ果てながらも、一度囚われた考えからは離れることは出来なかった。 


 特訓に継ぐ特訓の毎日だった為、こんな風に考えを巡らす暇がなかったからかもしれない。

 ソーンをはじめ、仲間たちがいる事に安心し切っていたこともあるだろう。


 

「――わかった。君の望みが叶うように、精一杯やらせてもらう――」



 ため息と共に吐き出した言葉は、彼女の望みを叶える約束。

 ブリジットの生き様に、自分自身を重ねている。

 自分にも訪れるかもしれない未来を見せられているのなら、今、ブリジット自身が望む未来を叶えてやるべき……。そう思ったんだ――



           ♢

 


「とりあえずさ。この部屋から出ていけるかどうか、試してみようよ。」


 もし上手くやれたらラッキーだ。

 試してみて損する事はない。


 ブリジットに着せたマントのボタンをしっかりと留め、マントから出した彼女の右手を引いて部屋の出口へと向う。


 そして、あと数歩で出口に差し掛かる所まで来ると、突然、握っていたはずのブリジット右手が無くなった。


―――!?



 なんと、今の今まで隣にいたはずの彼女は、一瞬で部屋の隅にある鍛治用のかまどの隣に移動してしまった。


 瞬間移動?


 まさか、契約というものは、こんなにも強い強制力を発揮するのか。だいたい瞬間移動なんていう現象、いかにこの世界の理が前世と丸切り違うとはいえ見たことのない現象だ。


 

「――そんな……。部屋を出ようとすると、強制送還されるのか。とんでもない制約だな……。」



 何度か試してみたが、どうにもできない。

 他に方法も思いつかない。


「――一切の活動を止めて、このダンジョンの火の属性が弱まるのを待ち、充満している硫化水素が消えるのを待つ……訳にはいきませんか……。」

 

 ブリジットは、俺の問いに寂しげな笑みを浮かべながら首を横に振る。

 否定されるのがわかっていながら、聞かずにはいられなかった。

 だって、時間さえ気にしなければ、この方法が一番リスクが無いのだから。


 わかっている。彼女にはその()()が一番の悲しみなのだ。

 もう、一刻だって、孤独な時間を過ごしたく無いのだ。それが彼女の望みなのだから……。



「 さて、万策尽きたかの? もう良いのじゃよ。 ワシの為に頑張ってくれて、ありがとう。」


 何も言えずに俯く俺に、ブリジットは感謝の言葉をかけた。



「 では、そこな火蜥蜴=サラマンダーの娘を進化させる為に、最後の槌を振るうとするかの。」


 ブリジットは俺が着せたコートのポケットから赤い魔晶を取り出した。


「あれ!? それはマレットにもらった魔晶……。」


 俺は、孤児院の仲間であったハーフドワーフの少年、マレットからもらった魔晶をいつでも使えるようにコートのポケットに入れていた。

 あの日、謝罪の言葉と共にもらった赤い魔晶には、常に魔力を溜め込み、万が一、魔力切れを起こした時の保険として持ち歩いていたのだ。



「うむ。まぁ、職人の仕事としてはまだまだじゃが、気持ちのこもった良い品じゃ。すまんが、火蜥蜴の娘を進化させる為に、この魔晶を使わせてもらうぞ。」


 鍛治の女神に評価されるなんて、マレットが聞いたら喜ぶことだろう。

 幸い、今まで一度も使う機会が訪れることはなかったが、ここで使われる事に全く問題ない。


「都合の良い事に、これは赤い魔晶。火の属性を持っておる。製作者には悪いが、いま少し、鍛えさせてもらう。」


 ブリジットが言うには、マレットの赤い魔晶を鍛え、ブリジットの魔力と俺の魔力を込めて昇華させると、火の属性力を格段に強くする事ができるらしい。

 そして、出来上がった火の魔晶を火蜥蜴=サラマンダーのサクヤに与えることによって、サクヤを進化させる事ができるだろうと言うのだ。


 上位の火の精霊となったサクヤならば、抵抗する気のないブリジットを吸収し、契約から解放する事ができるはず。そうなって始めて、ブリジットは無限の孤独な時間から解放されるだろう……。



「――それとな。お主の持つ、その魔法剣じゃが、ワシに鍛えさせてくれ。消え去るワシの最後の作品として、お主に使ってもらいたいのじゃ……。」


 鍛治を司る女神、ブリジットの遺作。

 ケインさんの遺品である魔法剣に、彼女は最後の力を注ぎ込む――


 


 


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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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