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契約という名の呪い


――ん? なんだって?



 身体を縮こまらせ、か細い声を発する少女の提案に、俺は思わず聞き返してしまった。



「――たのむ……、ワシをここから連れ出しておくれ……。もう……、一人は嫌なんじゃ……。」


 ブリジットは顔を両手で覆いながら、声を噛み殺し、肩を振るわせながら泣いている。その顔は大粒の涙でグシャグシャだ。

 


「……連れ出してくれって……、俺が? か? 」


 それまで話していたダンジョンを解放する為の内容とは違う方向に話が変わってしまい、ブリジットからの唐突な願いに、俺は驚きで声が裏返ってしまう。


 俺のなんとも情けない返答に、目の前で泣きじゃくる少女からは明確な返事は返ってこない。

 しかし、長い長い年月を一人孤独に過ごしてきた寂しさが、彼女をどれだけ苦しめていたのか……。 今の短いやり取りと、弱弱しく縮こまる彼女の姿を見れば、鈍感な俺にだってはっきりと解る。

 


 どうにかしてあげなくては――



 彼女の悲しみの時間をどうやったら終わらせてあげられるのか。

 正直な話、俺の知識では解決策はまったく考えつかない。

 どうすれば彼女を救ってあげられる?


 このダンジョンを解放してこいとの師匠たちの言葉なんて、この時にはすっかり頭から抜けてしまった。

 とにかく、目の前で苦しむ少女を救ってあげたい……。



「……なぁ、ブリジットさん。どうしたらいい? どうしたら君を連れ出してあげられる? 」


 少女の肩にそっと手を置き、俺は話を切り出した。


「……ワシを連れて行ってくれるのか? 」


 俺は少しでも安心してもらえるように、ニッコリと笑いながら頷く。

 機械人形=ゴーレムであっても、しっかりと表情を作ることができた事がありがたいと思った。

 

 方法は思いつかない。


 しかし、何とかやってみるしかない。



「――そうか! そうか! ありがとう! ありがとう! …………! 」


 ブリジットは、何度も何度も感謝の言葉を紡ぐ。

 俺の頷きを見た少女は、涙の跡もそのままに、一気に明るさを取り戻す。

 感情豊かなその表情に、思わずつられて目尻が下がる。

 

 しかし、そう思った瞬間、またしてもブリジットの表情が曇ってしまい、唸るようにして、その悲しみの原因を語り始めた。



「……すまん、やっぱり無理じゃ。ワシはこの部屋にある鍛治用の大かまどに括り付けられておる。この契約は、ワシからは解くことはできん。できるのは、この契約を実際に行ったダンキルだけじゃ……。」


 それならば、彼をここに連れてきて契約を解除させればいい。……そう口に出しかけて、俺はその考えが難しい事に気がつく。


(……この地獄のような環境に、生身の人間が入って来る事などできやしない……。)


 それは、ソーンやアリウスを置いてきた俺が一番わかっている。

 そう、高温の温泉が所々から吹き出し、硫化水素が充満しているこのダンジョンに、ドワーフ王を連れてくる事はできないのだ。

 機械人形である俺と精霊たちだけだったからこそ、この環境の中でもここまで辿り着く事ができた。できてしまった。


(……俺たちが来れてしまった事が、彼女に叶わない希望を抱かせてしまったのか!? これでは、ただただ彼女の孤独を大きくしてしまっただけではないか!? )

 


 契約により、精霊たちはこの世界での微現を許される。

 それは、自然と一体であったころの自由を捨てる代わりに、契約者との新しい日常を手に入れる事ができるというもの。

 この関係は、精霊と契約者双方の合意があって、初めて結ばれる信頼関係であり、もちろん、ブリジットも納得してこの契約を結んだはずだ。


 しかし、契約者と物理的に切り離され、干渉しあう事が出来なくなった精霊はどうなってしまうのか。

 ブリジットのように、場所や物に紐づけられ、その場から動く事ができない精霊は、いくらその契約によって力を増し、半神半精霊にまで存在の格を上げたとしても、不幸そのものではないか。


 

――そんなの、【契約】という名の【呪い】でしかないじゃないか!



           ♢



「……せっかくワシを連れ出してくれると言ってくれたのに、ワシの考え足らずですまんかったの……。」


 ブリジットは、また切なげに笑みを浮かべながら、俺に頭を下げた。



 ( 違うよ!? 君が悪んじゃない!? くそっ! 何か良い方法がないのか!? )


 しばらくの間、頭を悩ませてはみたが、俺の乏しいこの世界の知識ではまったく良い方法など思いつかない。もちろん、前世の世界の記憶なんぞ、まったく役に立たちやしない。


 俺は自分の足りなさすぎる知識に、悔しさと悲しさで、頭を抱えたまま声をだすことができずにいた。



「……なあ、ワシはもう一人でここに残されるのにはもう耐えられそうにない。お主らに出会ってしまったからの。」


 唐突にブリジットが話し始める。


「……見たところ、お主が連れている火蜥蜴=サラマンダーは、もう少しで上位精霊になれるようじゃ。」


 突然自分が話題に挙げられて、サクヤは目をクルクルと回して驚いている。


「上位の存在になれば、ワシを吸収して取り込むこともできるじゃろう。じゃから、お願いじゃ。ワシを吸収して、この契約から解放して欲しいのじゃ――」


 

 かつて女神とも呼ばれて崇められた少女は、弱弱しく頭を下げた――


 


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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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