老王たちの呟き
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キコキコ……。
ダンジョン=インビジブルシーラの奥、使徒の部屋に車椅子の車輪の音が静かに響く。
「――なんじゃ、ワシに声もかけずに一人で作っておったのか。」
森の女王は、作業台に乗せられている何かに向かって魔力を流し込んでいる。そんな彼女に向かって、ドワーフ王は抑えた声で話しかけた。
「――あら、起きていたの? 年寄りの睡眠不足は寿命を縮めるわよ? 長命種とはいえ、私たちと違って、ドワーフ族には命に終わりがあるのだから。」
話しかけたドワーフ王に視線を向けることもなく、森の女王は魔力をその両手に纏わせながら、優しく形を整えるように動かしている。
「 ……ふんっ、そんな心配はいらんわい。ワシは充分に長生きしたからの。ワシからしたら、お前さんのように寿命の限りが無い者たちこそ、不幸だと思うがの。」
「ふふっ、あなたは優しいからね。普段からそんな風に優しい言葉をかけてもらいたいものだわ。」
「 ……まったく、性悪エルフの減らず口は、まさに減らぬ口じゃの。」
青白い魔法の光を見つめながら、ドワーフ王は大きな溜め息を吐いた。
「しかし、なんじゃ。機械人形=ゴーレムを作るのなら、ワシにも声を掛ければよかろうに。」
脇目も振らず、作業台に寝かされた物に向かって魔力を流し続ける森の女王の隣に車椅子を止めると、ドワーフ王は不自由な身体で無理矢理に背伸びして、魔力の流れ先を覗き込んだ。
「う〜ん、だってさ。魔力核が無いからあんたの出番はないでしょ? だから声をかけなかったのよ。」
「確かに……。このダンジョンに使われていた魔力核は、あのにいちゃんを封印した機械人形に使ってしまったからの。あれはダンジョンの管理を放棄までして、ウカ様の魔力核を埋め込んだ特別製の機械人形じゃ。あのにいちゃんには、しっかりと働いてもらわにゃ。」
「そうね。ただ、私としては、あの機械人形には馬鹿ヒルコを封印しようと思っていたからね。だから、代わりの封印先を作っておかなきゃと思ってね。」
「ふむ……。それで機械人形を作っていたのか。しかし、封印する為の魔力核はどうする? 他の使徒たちは、ウカ様の魔力核なんぞ、絶対に使わせてはくれんと思うぞ?」
「そうなのよね〜……。あの連中は、ウカ様の想いを叶え続けるのが生き甲斐だから、たぶん無理よね。ましてや、ヒルコの事を恨んでいるし。」
「ワシやギルにしたって、ヒルコにはかなりの恨みがあるがの……。じゃが、どうするんじゃ。人形のガワだけ作ったところで、ヒルコの封印には使えまい?」
「うん、まぁ、最悪、あの子には犠牲になってもらって、ヒルコをあの機械人形に封印するつもりよ……。だからまぁ、この機械人形は、今のところは予備ってとこね。」
「……まったく、師匠とまで呼ばせて、あの子らの面倒を見ていると思えば、あのにいちゃんを人身御供にするつもりとは……。随分と薄情なことじやな。さすが性悪エルフじゃわい。」
森の女王から出た、あまりに冷酷な言葉に、付き合いの長いドワーフ王も、流石に顔を顰めて非難する。
「……だって、しょうがないじゃない? 成功を遂げる為に取れる方法が一つしかないなら、私はその方法を選ぶわ。まぁ、あんたのダンジョンやギルのダンジョンの魔力核が残っていれば別だけどね〜……。」
森の女王は、機械人形の形を整えながら、手を止めずにドワーフ王の苦言に言い返す。
青白く発光する魔力は、森の女王のがざす手からどんどん機械人形へと吸い込まれていく。機械人形と記されながら、これだけの魔力を注いで作り出している事こそが、これら機械人形をゴーレムと名付けた理由であった。
「ふんっ……。それはワシとギルに対する皮肉かの? ヒルコに襲われた時、ウカ様の魔力核は粉々に砕かれたわい。」
もとから厳つい顔をしたドワーフ王が、顔を顰める。何百年も後悔し続けた心の傷を抉られたようで、その後の言葉を紡ぐことは出来なかった。
あの機械人形=ゴーレムは、ダンジョン産の魔物を作り出す事を放棄し、信望したウカの志を引き継ぐことを放棄してまでして作り出したのだ。
おかげでこのダンジョンには、ダンジョンが作られてからヒルコに襲われるまでに作り出された魔物をわずかに残して、外部から侵入してきた魔物たちが闊歩している。
だからここには冒険者はほとんど訪れない。
まるで廃墟のようなダンジョンになってしまっている。
それはそうだろう、魔石を落とす魔物の数が少なければ、生活の為に魔物を狩る冒険者にとって、旨みが少なすぎるのだから。
「まぁ、とりあえず、あの子たちには馬鹿ヒルコに対抗できるように強くなってもらって、私の計画に協力してもらうわ。それまではしっかりと面倒をみるつもり……。」
機械人形の造形を終え、魔力もしっかりと注ぎ終えた森の女王は、両手を腰に充てながら身体を逸らす。凝り固まった身体をほぐしてから、ドワーフ王に向かって笑いかけた。
「だって、付き合いの長さ、深さが違うもの。出会ったばかりの連中と、長い間一緒に過ごした仲間となら、私は後者を選ぶわ――」
陰を感じさせない笑顔を見せる森の女王を見ながら、ドワーフ王は独りごちる。
(……まったく、お前さんが凝り固まっているのは、身体ではなく、その思考かもしれんの……。)
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