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精霊使いであるという事


 額を軽く握った右手で小突く。

 これは、前世の時からの俺の癖だ。

 コンコンと額の真ん中を人差し指の第二関節で軽く叩くと、鼻がすうっと通るような、目元の重みが軽くなるような、そんな感覚がある。



 水球の【操作】をしながら、剣を振るう――


 俺は、二つの事を同時にやろうとして、見事に失敗した。


 【操作】に集中する行為は、俺の脳にかなりの負担を強いたようだ……。ん? 機械人形=ゴーレムの身体に封印されているのに、脳なんてあるのか?


 実際、今回の戦闘が終わった後から、ズキンズキンと脈打つような頭痛を感じている。これは、あれだ。魔力切れを起こしたときの頭痛に近い。もっと思い起こせば、偏頭痛のあの痛みだ。



 改めて考えてみると、機械人形なのに痛みを感じたり、食べ物を食べたり、なんでだろう。

 呼吸はしていない。排泄もない。

 眠くはなるが、睡眠を取らなくても大丈夫。

 およそ人の持つ『欲』を感じる。性欲については……、もちろん、女性に対して様々感じるものはあるが、まぁ、この身体ではね……。


 森の女王曰く、


 「魂というものはそういうものだということよ。」――言ってる意味がわからない……。それって、どういうことなの?


 「そこに魂があることが大事なのよ。」――魂が入る事によって、身体は機械人形=ゴーレムだとしても、俺は生きていると言えるってこと?


 「だって、そうなったからこそ、あなたはあなたでしょ?」――俺が俺であるという事は、そりゃ、そうなんだけど……。でも、だから魂ってなんなのさ?


 「つまり、機械人形という取り替えの効く身体を持った人族だということよ。」――取り替えが効くって……。まるで玩具じゃないのか? それって生きてる内に入るの? ましてや、人族って言えるわけ?


 「おめでとう。あなたは私たちと同じく、長命種と呼ばれる存在になったのよ。」――おめでとう? それって……。



《  いったい、どういう事なの!?  》



 師匠たちと、何度言葉を交わしても、まったく腑に落ちない。この世界、『魂』の在りどころが、人としてのアイデンティティだというのか――



           ♢

 

 

 ヘルハウンドの死骸を前に、呆然と天井を見上げながら考え込む俺の首にすっと冷たい腕が回された。

 青透明の透き通った腕は、答えに辿り着くことができず、ネガティブな思考のループに陥りかけた俺の意識をその場に戻してくれた。


「ありがとう、ミズハ。大丈夫だよ。」


 波の乙女のヒンヤリとした体温が、考え込んで熱くなった頭を冷やしてくれる。

 後ろから心配そうに覗きこんだ彼女に、感謝の言葉を預けながら、今、最優先に考えなくてはならない事に集中しなおして、改めて自分の立ち位置を整理し始める。


 ふと気づけと、火蜥蜴も土小鬼も嘆きの妖精も、リュックで休んでいた霜男まで、俺の顔を心配そうに覗きこんでいる。


「――ごめん、ごめん。つい、色々と考えこんじゃったな。大丈夫だよ。みんな。」


 

 パチンっ!


 気合いを入れようと両手で頬を張る。

 すると、その音に反応して、また精霊たちが不安気な表情になった。そういえば、いつもであれば、あの凛とした聖職者がこうやって気合いを入れてくれていた。

 虐められ、蔑まれ続けた二度の人生だが、今はあんなに優しい仲間たちが居てくれる。

 俺はそんな仲間たちの為にも、しっかりと強くならなくては。

 

 決意を新たに、防御方法を考え始めた俺の周りを、ミズハが作ったウォーターボールが回り始めた。


「あれっ!? ミズハ、上手だね――」


 彼女を褒めるとニコりと笑った。そして、浮かんだ水塊は、2個、3個と増えていった。

 その様子をぼぉ〜っと眺めていると、今度は水塊と共に、石塊が俺の周りを周り始める。


《 ご主人様。ハニヤスも出来る。 》


 三角帽子を揺らしながら、土小鬼が器用に波の乙女が動かす水塊とリズムを合わせて石塊を動かした。

 しかもその石の塊は、上手いこと四角い板状に形が整えられており、これもまた2個、3個と数を増やしていった。


「――ハニヤス……、君も上手だねぇ……ん!?」


 精霊たちがとった行動を見て、俺は自分自身がなんと大馬鹿者だろうと頭を抱えてしまった。

 


――精霊たちの力を借りて強くなる。それが、【精霊使い】としての正解に違いない――


 

 そう、ついさっき、戦闘中に思っていた事を思い出したのだ。俺を助けてくれる精霊たちの力を借りて強くなるという考えに。


「――そうか!? そうだよな!? 全部を一人でやろうと考える事ないんだよな! 君たちの力を借りればいいんだよな!」


 ソーンやアリウムたちパーティーメンバーだけじゃない。俺には頼もしい精霊たちが居てくれているじゃないか。

 思えば、攻撃だって、行動阻害だって、そして防御だって、大概の事を精霊たちの力を借りて行っているのに……。

 あまりに自然に彼らが力を貸してくれていたから、それに甘えてすっかりと自分自身の力であるかのように勘違いしていたのだ。


 パーティーメンバーと離れて行動し、自分一人で全部やらなくちゃいけないと頑なに思い込んだ挙句に、精霊たちの力を自分の力と勘違いしていた。


 そうだよ。俺は【精霊使い】。

 精霊たちの力を借りて戦う。

 それが俺の戦い方だ――

みなさん、評価やコメントなど、ぜひぜひよろしくお願いします!

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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