落ち込む少年、囲まれる
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「やぁ、いつかの荷物持ちの少年じゃないか。仕事探しかい?」
冒険者ギルドから逃げるように飛び出し、目の前にあった水飲み場の縁に腰をかけて下を向いていた所を、突然話しかけられた。
(こいつら……あの時の三人組か……!?)
俺は湧いてくる憎しみを右手に持つ木の棒を握りしめることによって耐えた。
三人組への怒りの感情と、また恐怖の感情が入り混じり、頬が強張り無表情になる。
俺が話しかけてきた魔術師風の男に返事をできずに下を向いていると、残りの2人が更に近づいてきた。
「おいおい、マジかよ。あのダンジョンの裂け目から落ちて、生きて帰ってきたのか?」
「うひゃひゃひゃ、街の噂通り、やっぱり魔物の子供だったか!」
「あの高さの崖から落ちても生きてるなんて、本格的に化け物だな!」
俺を囲み、尖った言葉で次々に捲し立てる。
そこには先日の行為に対する反省も謝罪の気持ちなど全くない、それどころか、自分たちは良いことをしたとばかりに傲慢な態度なのだ。
「どうしたんだいその格好は。木の棒なんか握りしめて、もしかして冒険者にでもなったつもりかい?」
魔術師風の男の軽口に、ギャハハと他の2人が腹を抱えて笑っている。
「そうかそうか。ならほら私たちのパーティーに入れてあげよう。冒険者の活動は危険だからね。私たちみたいな先輩冒険者は、新人を守るのも仕事なんだよ。クックック……。」
どうしても恐怖と絶望で言葉が出ない。
全部を拒絶したいのに声が出せない。
俺を守る? そんなつもりなんて更々無いことはわかりきってるのに……
(どうして俺は、こんなにも気持ちが弱いんだろう……。)
歯を食いしばり、屈辱に耐えている。
恐怖に身を固めるだけで、全く言葉を返さない俺の様子に、益々調子に乗った3人組は、強引に僕の腕を引っ張り、また捲し立てる。
「嫌われ者の魔物の子供を俺たちの仲間に入れてやるって言ってるんだ! さっさと俺たちについて来い!」
「はははっ、授業料さえ払ってもらえれば、ちゃんと面倒みてやるからよ! キシシ……。」
重心を低くし、腕を引っ張っぱる相手に抵抗する。
しかし、相手は大人で、しかも冒険者である。そんな力の差が歴然な実力者相手に、細い子供の腕の力で対抗できるわけもなく、そのまま水飲み場から連れていかれそうになる。
どうしても恐怖のせいで喉が開かない。相手の強烈な悪意に身体もこわばって動くことができない……。
――誰かっ! 誰か助けてっ!!
それでも、声にならない声で、精一杯に叫んだその時だった。
「よっ、ナナシ。 元気だったか? 今日は俺の冒険に付き合ってもらいたくてな。丁度、ポーターを探していたんだ。君に頼めるかい?」
突然、引き攣った笑顔の剣士が、三人組との間に無理矢理身体を捩じ込んできて、俺にむかって大袈裟に右手の親指を立てながら、俺の目の前に立っていたんだ――
味方が1人でもいるとわかった時、とんでもなく嬉しいですよね。