中年人形、反省する
ドサっ!!
俺の左脇では、分厚い水の壁に頭を包み込まれ、必要な酸素を取り入れられなくなった2匹のヘルハウンドが力無く倒れ込んだ。
「ミズハいいぞっ! そのまま壁を維持していてくれっ!」
声を出さずに、コクリと頷く波の乙女。
地味な攻撃に見えるが、相手を確実に無力化している点で、俺の攻撃力よりも断然格上である。
土小鬼と嘆きの妖精が、石礫を連射してヘルハウンドの群れの後列を牽制してくれている為、今、俺が対峙しているのは1匹。
最初の刺突で、1匹は仕留めたが、2匹目のヘルハウンドは俺が魔法剣を引き抜く前に襲いかかってきた。
なんとか仕留めたヘルハウンドを盾にして、2匹目の体当たりを堪えたが、続け様に鋭い爪で薙ぎ払われた。
「――ぐっ!?」
アリウムがいれば、【アンチバリア】で完全防御してくれるのだが、今、ここには居ない。合わせて、いつもは怪我を素早く【ヒール】で癒してくれるソーンさんも居ない為、少しの怪我でもダンジョンの中では命取りになりかねない。
「……アリウムに頼りきりで盾を持つ発想がなかったな。俺自身はマルチに動かないといけないわけだし、無事に帰れたら考えないと……。」
先程のヘルハウンドの一撃は、掠っただけで4本の爪痕を俺の太腿に残した。皮を切り裂かれただけなので大した傷ではないが、アリウムとして活動していた時に慣れてしまった俺個人の戦い方を改めて今使用に構築しなおさないと……。
《《《 ――― !? 》》》
俺が傷を受けた事に、精霊たちが動揺したようだ。こうやって、しっかりと心配してくれるあたり、精霊たちが俺たち人族となんら変わらない『心』を持っていると解る。
「――大丈夫だっ! みんな、魔物に集中してっ! 」
自分の無事をしっかり伝え、精霊たちに役割に集中させる。
「サクヤっ!俺がヘルハウンドと斬り合ったら、ヘルハウンドの目を狙って炎の鞭を頼むっ!」
初戦で焦って動いてしまい、俺から注意を受けた火蜥蜴のカグヤだが、今はじっと気持ちを抑えて俺の指示を待ってくれていた。
《 ―――! 》
私に任せろと言わんばかりに、俺の肩に位置したサクヤは俺が切り掛かったと同時に、その炎の舌をヘルハウンドの顔目掛けて打ち出した。
属性的にダメージを与えづらいとはいえ、急所めがけた攻撃に、ヘルハウンドは思わず反応してしまう。
「――おりゃ! 」
気合い一閃。
―― 上段から右袈裟斬り――
技術はまだまだ達人には届かないが、気を削がれた目の前のヘルハウンドに袈裟懸けに剣を振り下ろすと、剣は見事に首の付け根に吸い込まれた。
「――サクヤいいタイミングだっ! 次もたのむっ!」
頚動脈を切り付けられた目の前のヘルハウンドは、首から血を吹き上がらせながら勢いあまって俺の後ろに倒れ込む。しかし、その後ろから、ハニヤス達の石礫をその身に受け、身体のそこかしこに血を滲ませながらも2匹のヘルハウンドが飛びかかってきた。
――左から薙ぎ払い――
身体に染み込んだ基本の型で自然に身体が動く。
――右下段から逆袈裟斬り――
続け様に2匹のヘルハウンドに剣を振るう。
ハニヤスとヒンナの攻撃によって傷ついたヘルハウンドは、普段よりも動きが鈍っている。さらにサクヤが上手く牽制攻撃を仕掛けてくれた事により隙ができた。
俺の身体能力は並である。しかし、精霊たちのフォローのおかげで一撃ずつでヘルハウンドを倒した。
「ミズハっ! 残りの2匹にウォーターボールっ!」
俺は飛びかかってきた2匹のヘルハウンドを切り伏せ、その勢いのまま、最後列の2匹に向かう。
波の乙女は、俺の意図を汲み取り、最後列の2匹のヘルハウンドの顔に破裂しないウォーターボールをぶつけた。
後方からはハニヤスとヒンナの援護射撃。
俺は肩にサクヤを乗せたまま、最後の2匹に飛びかかった。
サクヤは俺の切り掛かりに先駆けて、炎の息吹を吐きかけ、ウォーターボールで呼吸のできないヘルハウンドをのけ反らせる。
――正面からの突き、上段から左袈裟斬り、右からの薙ぎ払い、左下段からの逆袈裟斬り、正面からの突き――
身体は自然に動いた。
サクヤの攻撃で無防備に晒されたヘルハウンドの腹に向けて、魔法剣を振るう。
鈍色の剣線を残しながら、最後の2匹も切り裂いた。
「……ふぅ〜……。」
残心を心掛け、反撃が無いか、他に魔物はいないかを確認してから、剣の構えを解いた。
太腿は軽く切り裂かれたが、大した傷では無い。
大きく息を吐き出して、魔法剣についたヘルハウンドの血を振り払った。
「みんなありがとう。助かったよ。」
俺のクラスは【精霊使い】。
契約した精霊たちの力を借りて、冒険者として活動することになる。
アリウムだった時の絶対防御は、今は無い。
心の中で作っていた【アンチバリア】は、外の世界に出てからは使えていない。
剣術に至っては、レベルが上がっていない。
精霊たちに頼り切るのではなく、自分自身の立ち回り方をしっかり考え直して、足りないことを無くしていかなくては。
それこそ、憧れの英雄への道――
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