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中年人形、剣を振るう


 蒸し暑いダンジョンを進むにつれて、魔物の出現が増えてきた。

 出てくるのは決まって業火の番犬=ヘルハウンド。このダンジョンが狐憑きに占領された時に大勢存在したはずのゴブリンやコボルトといった魔物は全くいない。

 やはり、悪なる神の核から生み出される魔物と違って、この過酷な環境では特定の魔物しか生き残ることができなかったのだろう。



「――サクヤっ! 炎の息吹っ!」


 俺の指示で、正面から向かってくるヘルハウンドに向けてサクヤが炎を吐き出した。

 しかし、火の属性の強いこのダンジョンで生きているだけあって、ヘルハウンドに炎の攻撃はあまり効果が無い。


 それでもサクヤに攻撃を支持し続ける。

 彼女にとって、魔物を倒すのが不利な状況だとしても、この環境が彼女を成長させる為には最高の場所である事は、師匠たちのアドバイスのおかげで理解しているから。



「――サクヤ、倒せなくても大丈夫だっ! 焦らなくていいっ! 皆んなでカバーするから。」


 最初こそ焦って先走ってしまったが、何回か魔物たちを退ける事を繰り返せば、サクヤも落ち着いて攻撃を繰り出すことができるようになった。

 視界を遮ってみたり、牽制に使ってみたりと、俺たちの意図を理解して、魔物に効果が薄い攻撃ながらも上手く立ち回り始めている。



「ハニヤスっ! ヒンナっ! クロスファイアっ!」


 波の乙女=ウンディーネのミズハが作り出したウォーターボールを正面に配置し盾にしながら、今は上位精霊となった土小鬼=ノームのハニヤスの石砲弾と今は土小鬼に変身している嘆きの妖精=バンシーのヒンナの石礫で【十字砲火】を繰り出す。


 サクヤが放つ炎の息吹に気を取られた所に、死角が少ない石の弾丸が嵐の様に降り注ぐ。

 ハニヤスの石砲弾は威力が大きく、ヘルハウンドにとっての致命傷を与えてくれるのだが、威力こそ落ちるが、ヒンナが放つ石礫もかなりのダメージを与えていて、石に穿たれたヘルハウンドは、全身から血を吹き出している。

 「避ける事が難しい」と相手に思わせるだけでも、この攻撃は大きなアドバンテージになるはずだ。致命傷にならなくとも、相手は防御に徹しなければならない為、反撃を受ける可能性をかなり減らしてくれるのだ。


 このダンジョンは、属性上その身にかかる負担が大きい為、霜男=ジャックフロストのフユキにはリュックの中で休んでもらっている。彼にはまた、違った場面で活躍してもらわなければない。今は、力を蓄えていてもらおう。




《 ご主人っ! 前からまた黒犬が来るよっ! ちょっと数が多いみたいっ! 気をつけてっ! 》


 たった今、2匹のヘルハウンドを倒したばかりだというのに、すぐに新手がやって来た。


 地下5階――暑さもさることながら、湿度が、かなり高い。立ちこめる湯気のせいで、視界もかなり悪いのだが、いち早くハニヤスが気付いてくれたおかげで心の準備を整えることができた。



「ハニヤス助かるっ! このダンジョンの床では『泥沼』は使えないっ! 数が多いなら接近戦になるっ! みんな気をつけてっ!」


 俺は肉弾戦になる事を覚悟する。

 ここまでのように、距離のある内に戦いの決着をつけるには魔物の数が多いようだ。


 1、2、3、4………、ヘルハウンドが8匹。


 今までに出会うことは無かったヘルハウンドの団体さんである。

 アリウムの【アンチバリア】の無い状態での接近戦はかなりの危険を伴ってしまう。ここでの最善策は――



「ミズハっ! アクアウォール頼んだっ! なるべく厚くっ!」


 いつもは球体を維持したウォーターボールを衛星状に浮かべるのだが、隙間を無くす為に扉大の水の壁を作らせる。普段の水球よりも大きな魔力を使ってしまうが、突進してくるヘルハウンドの勢いを削がなくては、複数をまともに相手しなくてはならなくなってしまうからだ。


 正直なところ、あの優しい剣士に憧れて、一生懸命に剣術の練習を重ねてはきたが、剣術のレベルはまだ8……。まだまだ熟練の剣士と呼ばれるまでには至れてはいない。


( ……ちっ、やっぱり剣の達人とか憧れるよな〜……。才能と関連しないと、スキルなかなか上がっていかないし。しかも、最近、日課やってない……。)

 

 この世界の理、授けられる【才能】によってスキルも決まる。しかし、裏道と言ってよいのか、【才能】が無くとも、なりたい者になる事はできる。

 いや、裏道じゃないな。なりたい者になる為に努力する。これこそ、本道だろ。



「――剣の練習、しなくちゃなっ!」


 透明な水の壁にぶち当たり、動きを阻害された2匹のヘルハウンドには目もくれず、壁の右から回り込んで来たヘルハウンドに獲物の魔法剣で突きを繰り出す。

 あの優しい剣士の形見でもある魔法剣は、鈍い煌めきを残像に残しながら、飛びかかって来たヘルハウンドの喉に突き刺さった。

 羊ほどもある体格である。かなりの衝撃が突き刺した剣にのし掛かるが、俺は両脚で踏ん張る。

 そして、そのまま気合いを入れて剣を振るい、突き刺さった黒犬の身体を振り払った。


「ハニヤスっ! ヒンナっ! 後列のヘルハウンドに石礫で牽制してっ! ミズハは水壁に引っかかった2匹を窒息させてっ! 」


 矢継ぎ早に精霊たちに指示を飛ばしながら、俺自身はなるべく黒犬と一対一になりように水壁とダンジョンの壁を利用して剣を振るう。

 アニメに出てくる主人公のように、格好良くバッタバッタと敵を薙ぎ払うような実力は無いが、一対一に持ち込めれば、相当な実力の差がない限り、ある程度は戦える程度には剣術のレベルではあるのだ。


 

――上段から右袈裟斬り、左から薙ぎ払い、右下段から逆袈裟斬り、正面からの突き、上段から左袈裟斬り、右からの薙ぎ払い、左下段からの逆袈裟斬り、正面からの突き――


 心の中で、あの優しい剣士から教わった剣術の基本の型を繰り返し唱える。英雄に憧れた少年の心は、大人に戻り、機械人形となった今も、ちゃんと消えずに火を灯し続けている。




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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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