開かずの精霊箱
「やるなぁ、ハニヤス、フユキ。しっかりと射線を工夫できていたぞ。」
俺を扇の要にして、左に土小鬼のハニヤス、右に霜男のフユキを配置。この配置によって車線の無駄を無くす精霊たちの用兵術『十字砲火』。今回は初めての運用で上手く機能できた。
俺の構想では、この『十字砲火』の戦術に、変身能力のある嘆きの妖精=バンシーのヒンナを加わってもらうつもりでいる。
もう一本の射線を加えて、さらに射線の死角を減らせば、撃ち込む弾幕を無駄なく当てる事ができるのでは、という考えだ。
賞賛の言葉に気をよくしたのか、ハニヤスとフユキはコミカルに動き回っている。三角帽子をリズミカルに揺らすハニヤスと、雪だるまのような頭が転がり落ちるのではと心配になるくらいに頭を揺らすフユキ。
それは、とても楽しげで、こちらまで嬉しくなってくる――、と、あれ? フユキ大丈夫? なんか、本当に頭が落ちそうなんだけど……?
なんと!? そういえばフユキは雪だるま……。この蒸し暑いダンジョンの中では、普通に存在するだけでも負担が大きかったみたい……。
フユキ、ごめん。気づいてあげられなかった……。
本人は機嫌が良さそうではあるのだが、徴現させているだけでも余計に魔力を使うようなので、背負いリュックの中に入ってもらった。
本来なら、ケインさんたちに貰った精霊箱に入っていてもらうのが一番なのだけど、その中にはあの優しい妖精が――未だになんの変化も無いけれど、いつかはきっと……。
♢
「――さて、サクヤ。」
ビクッと全身を緊張させ、俯き加減にこちらを伺う火蜥蜴。指示する前に勝手に動いた事に、一応のうしろめたさは感じているようだ。
こんな時、直接会話ができないもどかしさ。
俺の言葉は理解してもらえても、彼女の言葉は俺には理解できない。しかし、そこは俺の才能の力でなんとかするしかないのだ。
《 ……………。 》
「……気持ちはわかるよ。サクヤ。俺たちは一人一人別の個人だ。だけど、チームでもある。君の独断先行で他の皆んなを危険に晒してしまうこともあるんだ。もしかしたら、逆に上手くいく事もあるかもしれない。けど、それでは個人の成功であって、チームの成功とは言えなくなってしまうんだ。」
サクヤが負けず嫌いの性格なのは、よくベルさんとやり合っていた事からもわかってる。俺と一番最初に契約したという自負もあるのだろう。実際には、サクヤ、ハニヤスは同時に契約したようなものだけど、彼女は、精霊たちの中にちょっとした序列を作っていたのかもしれない。
森の女王がこう話していた。
『 本来、精霊使いが契約する精霊は一人だ。契約していない精霊にも力を借りる事はできるが、契約して魔力の繋がりが無い精霊は、100%の力は発揮する事はできない。ヒロ君。複数の精霊と契約できた君は、ほんとに稀有な存在なんだよ。』
おそらく、俺が持つ才能のおかげなのだろう。
あの森の女王ですら、契約している精霊は1人だけ。彼女が契約した精霊は、最上位の力を持つ精霊ではあるが、他の精霊とは契約する事はできていない。
複数の精霊と契約できたのも、言葉を交わせない精霊とコミュニケーションがとれるのも、俺の第一の才能【エンパシー】が影響している。
冒険者ギルドで石板で調べた時、【共感、同情】といった説明書きが確かについていた。
反面、複数の精霊と契約が出来ている。この特殊な状況が、精霊が他の精霊に嫉妬や妬みを抱かせてしまっているのだろう。普通、精霊たちの世界では、あり得ない状況なのだから。
もう一ついえるのは、精霊箱の主人が俺の為に一生懸命になって俺と精霊との仲を繋いでくれた事も大きかったのだろう――
「サクヤ。君が早く進化したいという気持ちはわかっているから。でも、だからといって、自分勝手、好きに行動されるのは困るんだ。わかるね?」
サクヤは項垂れながら俺の肩に座っている。
チロっと炎の舌を俺の頬の前に伸ばすと、棒人間を形作って、頭を下げさせた。上手に舌を操るもんだ。
「――わかってくれたのなら大丈夫だ。サクヤ、これからもよろしく頼むよ。」
♢
ハニヤスが真っ先に進化できたのは、軍隊蟻の巣穴が土の属性の非常に強い場所であり、そこで長く活動した事が要因だと森の女王とドワーフ王に教えられた。
精霊が進化する為には、大量の魔力の吸収と属性の力を強める事が重要で、本来ならば、長い時間をかけて成長していくところを、俺の豊富な魔力総量が功を奏して成長を促し、強い属性に晒されることによって急激に上位の存在へと進化できた、という事らしい。
つまり、複数の精霊が1人の精霊使いと契約できたことも、短い期間に若い精霊が進化できたことも、俺という変わった才能を持つイレギュラーな存在が、精霊たちに大きな影響を与え続けている為なのだそうだ。
『 魂が一つの身体に収まっていた事といい、精霊たちとの関係といい、本当に君は面白い。ましてや、今は世界でただ一人の生きた機械人形=ゴーレムだからね。興味は尽きないよ。』
森の女王はニヤニヤと、ドワーフ王はガハハと笑い、俺はなんとも言えない気持ちになったものだが、虐められ、蔑まれ続けた二度の人生を考えれば、仲間や精霊に囲まれ、憧れの冒険者生活ができているのだから、まぁ、悪いことばかりでもないだろう。
ただ、前世に残してきてしまった家族と、この世界で初めて家族になってくれた精霊箱の主人に対する複雑な思いだけは、なかなか割り切る事ができないけれど――
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