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業火の番犬


 タタっ、タタっ、シュタっ――


 

 業火の番犬=ヘルハウンド――羊や仔牛ほどの大きさの黒い犬型の魔物。

 その真っ赤な目は地獄の業火の如く揺らめき、鋭くこちらを睨んでいる。口からは硫黄の臭いのする黄色い煙が漏れ出し、チロチロと炎が吹き出している。

 その姿を見るだけで、弱者は恐怖に震え、その場で身体を硬直させてしまうかもしれない。

 もし、そうなってしまえば、その吐き出す炎に焼かれ、鋭い牙に引き裂かれて簡単に命を失うことになるだろう……。


 明らかに、今までに出会った魔物の中でも、強者だとわかる。ゴブリン、コボルトなどの数を頼みに押し寄せるような魔物とは比べ物なならない。オークの様な体の大きさの圧力ともまた違った威圧感を感じる。



《 ご主人っ! 魔物はニ匹です! ご指示を!》


 戦闘に立つ土小鬼=ノームのハニヤスは、進化して大きくなった身体を半身に構え、前までは大きな尖り帽子に隠れて見えなかったその口は、僅かに口角が上がり、笑っているように見える。自分から指示を仰ぐなんて、本当に驚きだ。


 しかし、最初に動いたのは、俺の右肩から頭へと移動した火蜥蜴=サラマンダーのサクヤであった。


《 ―――! 》


 彼女は、その長い炎の舌を業火の番犬に向けて撃ちだした。しかし、業火の番犬と呼ばれるだけあるのか、「火」の属性に耐性があるようだ。サクヤが撃ち出した炎の鞭では全く傷をつける事が出来なかった。



 あれ!? 俺、まだ指示してないけど!?

 精霊って、自ら考えて行動する……のか。

 そういえば、普段から好き勝手に動き回っているけど、精霊ってそういうものだっけ?


「――サクヤっ! 勝手に動いちゃ駄目だってばっ! 」


 俺は精霊に対して初めて怒った。

 普段の生活の時なら気にしないが、戦闘時には精霊使いの指示に従ってもらわないと困る。それぞれの精霊たちに勝手に動かれては、思うような作戦など、取れなくなってしまう。


《 ―――!? 》


 火蜥蜴=サラマンダーのサクヤは、ビクっ、と身を固くしてこちらを伺う様に見つめている。明らかに俺に対して「つい、やってしまった」という表情をみせる。


 土小鬼=ノームのハニヤスが自分よりも先に上位精霊に進化してしまい、焦ってしまったのだろうが、そうだからと言って勝手に動かれては困る。



「サクヤ。焦っちゃ駄目だよ。大丈夫、君もちゃんと進化できるから。」


 俺はそう言って彼女の背中を撫でる。

 考えてみると、実体化している精霊に俺から触れたのは初めてかも。


《 …………。 》 


 他の精霊たちも、心配そうに俺を伺っている。

 駄目駄目。指揮官である精霊使いがしっかりとしないと。彼らとの信頼関係こそ、精霊使いとしての力の源なのだから。まぁ、ガンガン魔力を吸われているから、それだけな訳じゃないけどね。



「 さぁ、みんな! 力を貸してくれっ! サクヤ、反省は後だ。しっかり頼むぞっ!」




 ゴーーーっっ!!!



 俺たちが、少しの逡巡を見せた事で、業火の番犬たちに攻撃の機会を与えてしまった。

 二匹の黒い番犬たちは、その裂けた口を一層大きく開くと、生物を焼き殺すに充分な熱量で、一直線に俺たちに向かって炎の吐息が吐きだされたのだ。


 それはサクヤの撃ち出した炎の舌よりも大きく、威力も断然に強い。



「――ミズハっ! ウォーターボールっ!!」


 咄嗟に水筒から飛び出した波の乙女=ウンディーネのミズハが俺たちの前に2つの水球を生み出して、ヘルハウンドの吐き出した炎の吐息を打ち消した。

 炎を打ち消した後も俺たちの前に存在し続けるところをみると、ミズハの生み出す水球の方が、ヘルハウンドの炎よりも断然に強力なようだ。



「ミズハっ! よくやった! そのままウォーターボールを維持っ! ハニヤス、犬たちに向かって石礫で攻撃っ! フユキ、君は横向きに氷礫をっ!」


 

 俺の号令が響き、前衛で準備していた土小鬼が、空中に展開した石の弾丸を撃ち出す。それに合わせて、ヘルハウンドの右側から左側に向かって突き抜けるように霜男が氷の礫を走らせる。


 『十字砲火』

 

 第一次世界大戦でドイツ軍が使い始めたという自動火器戦術。所謂、『クロスファイア』と呼ばれる戦術だ。

 正直、戦争に使われた凶悪な戦術を使うことに迷いもあったが、魔物相手に効率よく殲滅する為には手段を選んではいられないと、前世で得た本の知識を総動員して考えた。


 今、俺と契約している精霊のうち、土小鬼のハニヤスと霜男のフユキは、石や氷を遠隔で放つ攻撃を得意としている。

 しかし、遠くからの直線攻撃は、着弾点が予測しやすく、避けられやすい。

 そこで、『散弾』状態で放つ事によって命中率を上げていたが、あとから仲間にフユキが加わった事により、遠隔攻撃を二手に分ける事ができるようになったのだ。


 移動できる遠距離砲台の二人。ハニヤスとフユキによる『十字砲火』。これによって、魔物は遠隔攻撃の射線から逃がれることは困難になる。

 命中率が高くなった事で、今度は礫の一発一発に込められる威力を上げる事に注力できる。そうする事によって、殲滅力を高めることが可能になった。

 極端に防御力の高い相手でなければ、この『十字砲火』を受けた魔物を倒し切る事ができる。ハニヤスとフユキによる必殺攻撃の完成だ。



 バタンっ!



 2匹の業火の番犬=ヘルハウンドは、最初の炎を吐き出しただけで、石と氷の礫に穴だらけにされ、その場に屍を晒す事になった――

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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