成長実験中……
「ほぉ〜っ、素晴らしいじゃないか!ハニヤス、お主、上位精霊になれたのか!」
森の女王は、笑いながら俺たちの前でパチパチと手を叩いている。
「ふぅむ、人族の身で精霊を上位精霊にまで育て上げるとはな。いや、今は人族ではないのか……。じゃが、精霊たちとの親和性といい、その魔力総量の大きさといい、お前さんのような人物、儂も出会った事がないの。」
ドワーフ王が、車椅子に寄りかかりながら感心している。人でない……との発言には些か傷つく所が無いではないが、まぁ、実際、今の俺は機械人形=ゴーレムなわけだから、否定もできないか……。
「このダンジョンでの訓練方針は間違ってなかったってことね。これは精霊の成長に関するセオリーとして確立できるかしら。でも、ヒロ君みたいな企画外の魔力の持ち主なんかそうは居ないからね〜……。しかも、人間でも無いわけだし……。」
「――師匠!? もしかしてですけど、俺たちで実験してません!? てか、訓練方針は間違ってなかったって……、もしかしなくても当てずっぽうで訓練させてるじゃないですか!?」
森の女王のあまりにも杜黙詩撰なやりように、中年人形は不満を漏らした。
「あははっ! あのね、ヒロ君。君みたいに、複数の精霊と契約したり、古竜を育ててるような存在、そうそういないから。普通はね、契約する精霊は自分と属性の合致した精霊のみだし、古竜みたいに馬鹿でかい魔力を必要とする存在に、自らの魔力を分け与えて育てることができるような、そんな魔力を持つ人間なんかいないの。」
呆れたように俺に説明する森の女王。そこに乗っかるようにドワーフ王も説明する。
「この性悪女のいう通り、お前さんのような存在は他に居ないんじゃよ。だからこそ、基本を大事にしながらも、大袈裟なまでに基礎を底上げする特訓をやらせて、お前さんたちの得意分野を伸ばしとるんじゃ。この性悪女の知りたがりは、まぁ今更直せないから我慢せい。それに、確かな成果も出とるんじゃろ。此奴を信じて頑張るべきじゃろうな。」
長命種の王であり、それこそ長い時間を研究に費やし、様々な知識を蓄えている二人からこんな話をされてしまうと、どんな反論もできないよ。
大体にして、自分自身、今以上に結果を出せるような訓練のアイデアがあるわけでもないのだし。
「……穴蔵爺はよくもまぁ、人の悪口をペラペラ、ペラペラと……。それにしても、進化できたのが土小鬼=ノームだけか……。他の精霊たちも、同じ時期に契約したのだろう?」
確かに、霜男=ジャックフロストのフユキと、嘆きの妖精=バンシーのヒンナについては、だいぶ後からの契約した為、時期がずれるのはしょうがないとは思うのだが、火蜥蜴=サラマンダーのサクヤ、土小鬼=ノームのハニヤス、波の乙女=ウンディーネのミズハの3人については、ほとんど同時に契約している。
ベルの話では、土小鬼=ノームのハニヤスだけは、少し前から勝手に俺の麻袋に住み着いていたらしいが、それ程契約期間には差がないだろう。
「……ふぅむ、あれかの。もしかして、今回の特訓場所が軍隊蟻の巣穴だったからかもしれんの。」
「あぁ、なるほどっ! 土の性質の強い場所だった事が影響していたからか。」
俺たちの知らない知識で納得し合っている。
師匠2人だけで話さないで、その知識を俺たちにもしっかり教えて欲しいのだが……。
そんな俺の心の声が聞こえたのか、師匠たちが精霊たちの特性について教えてくれた。
「ヒロ君は精霊使いなのに、精霊の事をよくわかっていないからな。普通は、精霊使いが必死に精霊に頼み込んでやっと契約関係になるものなのだが、君たちは、そういう事は経ずに仲良くなっているからね。しかも、どちらかと言うと、精霊たちの方がヒロ君に惹かれて契約関係になっているようだし。」
確かに、精霊たちとの契約については、ベルさんが仲立ちしてくれたり、氷狼と吸血鬼王から譲渡されたようなものだから、精霊たちとの契約に苦労したことはないんだよな。
「ふむ、それも珍しい関係じゃな。精霊が術士に興味を持ったということも面白いの。精霊ってのは、自然の中に常に無自覚に存在しているものじゃからの。」
「そう。ダンキルが言うように、本来なら精霊たちは自由な存在。私たちエルフが契約している精霊たちは、私たちがお願いをして力を貸してもらっているの。」
ふむふむ。まぁ、俺も精霊たちに手伝いをお願いしているわけだから同じだよな。悲しいかな、俺には敵を倒す為の力が足りなさすぎるから。
「力を貸してくれる精霊たちには、それぞれ属性というものがあるの。自然の中に存在しているという事は、本来、精霊たちはその属性の強い場所に存在しているという事になるわ。」
「サクヤならランタンの炎、ハニヤスなら麻袋の中の石、ミズハなら水筒の水という風に、それぞれが心地良く微現できる場所が有るじゃろ? それは、それぞれの属性が強い場所だからなんじゃ。」
あまり考えた事は無かったが、俺も感覚的にそういったものを用意していたようだ。ケインさんに貰った精霊箱以外では、基本的には精霊が微現し続けるのは難しいっていうのは、教えてもらっていた気もするし。
「まぁ、お前さんが過保護なくらい精霊たちに魔力を与えてやっている事もあって、属性物が無くとも、元気に微現しているようじゃかの。」
「そうね。私の契約している精霊だって、普段は微現なんかしていないのよ。」
そういうものなのか。
いつでも精霊たちが俺の周りに居てくれたから、それが普通だと思っていたよ。
「改めて話をすれば、今回、ハニヤスだけ先行して進化できたのは、軍隊蟻の巣穴という、土の属性が強い場所での特訓だったからだと思うわ。」
「つまり、ハニヤスにとって居心地が良い場所だったという事じゃの。」
「だから、他の精霊たちが進化しやすくする為には、それの属性が強い場所での特訓が有効だといえるわね。」
この話を聞いた精霊たちが、俄かに騒ぎ始めた。
次は自分が、と言った感じでアピールしているようだ。
「わかった、わかった! 順番に回るからっ! みんな落ち着いてっ!」
中年人形が困った表情で精霊たちを諭す。
機械人形だというのに、しっかりと表情を変える能力があるのは、本当に凄い性能だと思う。
「ふふっ、これは良い実験になりそうね――」
何やら不穏な言葉が聞こえた気もするが、自分たちの力を上げる為にも、契約している精霊たちの進化に向けて、今後の計画を練ることになった。
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