中年人形、成長する
機械人形=ゴーレムに封印された存在――
元の世界で、会社での上司や仲間からの執拗な虐めに悩み、心身共に疲れ果てた末に仕事を辞めて自由になろうと決心した矢先、会社からの帰り道で交通事故を起こし、家族を残して死んだはずの俺……。
何故か違う世界の違う人間の中に転生して、その違う人間の中に間借りして生きることになった。
前世の人格、記憶は眠ったままだったのだが、間借りしていた人間も、なんの因果かいじめの対象っあり、白髪、白瞳、白肌という容姿を見ると、人々は魔物の子供と蔑み、石をぶつける理不尽な扱いを受けていた。
周囲の人間に憎悪を抱きながらも、荷物運び=ポーターとして活動し、憧れの冒険者を目指して頑張っていた白髪の少年。ある時、悪辣な冒険者の行為によってダンジョンの裂け目と呼ばれる崖から突き落とされてしまう。
普通ならば命を失うはず。しかし、白髪の少年の不思議な才能により、転落死のピンチから生き残った。その際、人格の奥深くで眠っていた前世の記憶と人格が目を覚まし、元の少年の人格と入れ替わって活躍し始める。
2つの魂を持つ稀有な存在であった少年は、辛い人生をもう1人の魂に押し付け、自分自身は全てを拒絶する壁の中に引き篭もってしまう。
名無しのナナシと呼ばれていた少年は、世界からのあまりに酷い扱いに耐えかね、いい加減、この世界に絶望してしまったのだ。
もう1人の魂、俺は、いつからかこの世界の理を受け入れ、新しい人生を歩むことになる――
♢
紆余曲折を経て、今、俺は間借りしていた少年の身体から引き抜かれて、今度は機械人形=ゴーレムという不思議な人形の中に間借りしている。
間借り、というのはちょっとおかしいかな。そう、今、俺は機械人形=ゴーレムの中に封印されているのだ。
封印……、なんかそう言われると、なんか悪霊とか悪魔とか、そんなイメージが浮かんでしまう。
もちろん、俺は悪霊とかいわれる存在ではないと声を大きくして宣言する。絶対に、悪さをする存在ではあり得ない……はず。
なんとも確信を得ないのは、どうしても前世の記憶をそのまま持っている為、この世界の常識、理と見比べてしまう部分があるからだ。
『才能』と『スキル』。
この二つの概念は、元の世界ではあくまでもその本人が身につけた能力であり、数字で表せるものではなかった。
しかし、この世界では、『才能』はどこからともなく授けられた上に、調べれば石板に文字で表され、『スキル』はその熟練度がレベルで表示されるという。
こんな事、元の世界ではあり得なかった。
ただし、個人の努力によって様々なスキルを得られるという事は、元の世界と同じである。
熟練度がレベルで表されようが、表されまいが、元の世界っだって、努力すれば大なり小なり、結果として身についていたはずだ。たとえその技術が拙いものだったとしても。
と、いうことはだ。
今、俺がやる事も、元の世界でやっていた事と同じ。必要なスキルが、冒険や戦闘に必要なものである事だけの違いなのだ。
『努力』してスキルを身につける事――それこそが、成長し、この世界で生き抜く為の指標。
ところで、今現在、俺が封印されているこの機械人形=ゴーレム。とても不思議な人形である。
悪なる神ウカの使徒である、森の女王アエテルニタスとドワーフ王ダンキル。発想豊かな研究者と卓越した技術をもつ技術者という2人の合作であるこの機械人形は、封印した魂に姿を変えるという不思議な人形である。
結果、機械人形の姿は、前世の中年おじさんに変化した。
おかげで、ファミリーの皆んなには、俺が中肉中背の平凡なおさじさんだという事がバレてしまった。
別に隠していたわけではないけど、白髪の少年の中の人が、実は中年おじさんだなんて、たぶん、みんなショックを受けたんじゃないだろうか……。
ところで、先に述べた『才能』と『スキル』は、魂に刷り込まれているらしい。
らしい、というのは、確かめようがない事が一つだが、実際に機械人形に封印された俺が、今までに身につけた『才能』や『スキル』を使用できている事こそが理由だ。
俺が間借りしていたナナシ改めアリウムは、元から自分に宿っていた『才能』、『スキル』だけが使用でき、俺が入れ替わって覚えたものは消えているらしい事からも、『才能』も『スキル』も、それぞれの魂に帰属している事がわかる。
「まぁ、魂が二つ存在するなんて事、まずありえないからね。魂を封印したのも史上初めての事だろうし、これからもしっかりと研究させてもらうよ。」
根っからの研究者である森の女王の言葉に、歴史学者であるライトも目を輝かせて同調していた。
訓練場所が分かれてしまった時も、森の女王に対して、必ず後から研究資料を見せるようにと懇願していたし。
そんな稀有な存在になってしまった俺だけど、この世界で自分という存在を思い出してから、全く変わらない目標がある。
――英雄になりたい
そう、アリウムの記憶にあった、数々の歴史上の英雄。そして、自分をドン底の不幸から救い上げてくれたあの優しい英雄。
まずは、理不尽な神々の虐めの犠牲者である、悪なる神、いや、豊穣神ウカを不幸な立場から救い出してあげたいと、本気で思っている。
不安な点がひとつ。何故か森の女王とドワーフ王からは、混沌王ヒルコも救ってほしいと懇願されている。
俺には、ヒルコは悪役にしか思えないのだが、2人は、ヒルコが悪の部分と善の部分に分裂を繰り返していて、悪と善の間で迷い続けていると考えているようだ。だからこそ、ヒルコの悪の部分を倒し、善の部分を救ってくれと……。
なんとも本当かどうかもわからないし、解決するにしてもとんでもなく困難な問題だけど、上手くやれるだろうか。
とにかく、この機械人形の身体であっても、『才能』も『スキル』も使えるし、成長もできることはわかっている。
頑張って、中年の星になってやろうじゃないか!
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