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蟻の巣


 森の女王が管理している【試練】のダンジョンには、様々な虫型の魔物が跋扈している。


 先刻から中年人形一行が探索している場所は、軍隊蟻と呼ばれる蟻の魔物の巣穴であるのだが、その数の多さに、皆一様に疲労を感じている。


 何故、少人数のチームで、こんなにも大量の魔物を相手にしなくてはならない蟻の巣に挑んでいるのか?


 森の女王曰く、アリウムとヒロの魂を引き剥がした事により、元々1人の身体に宿っていた魔力総量が、それぞれに半分ずつに分割されたと考えられるという。


 魔術師大学にある魔力総量計で確認した際、俺たちの魔力は計測不能になるほどの魔力総量であった為、半分になったとしても充分に大量といえる魔力総量である事は間違いないのだが、常に精霊たちやニールに魔力を分け与える必要があり、また、戦闘に関しても彼らの能力を使うヒロにとっては、いくらでも魔力総量は多い方が良いという事になった。


 そこで、大量の魔力消費によって魔力切れに近づける為にも、軍隊蟻のような大量の魔物と戦ってこいとの森の女王からの命令……もとい、進言であった。


 ダンジョン=インビジブルシーラでの特訓にあたり、実質、森の女王とドワーフ王が中年人形チームの師匠役になっている為、こんないかにもスパルタ的な特訓にも文句が言えなかったのだ



「はぁ、はぁ……しっかし……、あんなに自分のことをインテリジェンスの塊みたいな事言って憚らないのに、俺たちにやらせている事は完全に脳筋発想なんだもんな〜……。」


 軍隊蟻の攻撃隊との戦闘に一段落つき、中年人形は膝に手をつきながら、荒い息を整えていた。吐き出す息とともに出でくるのは、こんな命令を繰り出す師匠たちへの恨み節である。



「まぁまぁ、そんな事言わずに。師匠たちだって、最大限、私たちが成長する為に考えてくれていることだろうから。」


 ソーンが苦笑いを浮かべながら中年人形の愚痴に反応する。


「……ソーンさん、わかっちゃいるんだけどね〜。でもアリウムのあの様子を見ると、ちょっとやらされ過ぎというか……。」


 中年人形が指差す先には、ダンジョンの床に顔を埋め、うつ伏せで倒れ込んでいる白髪の少年が居る。


 ヒロに身体をあけ渡し、自身の身体を操る事から遠ざかっていたアリウムは、体捌きから魔力の使い方、そしてスキルの使い方まで、改めて修練を重ねる必要があった。

 その為、戦闘経験の数をこなす方法が、すべての能力を使いこなす為の近道である事は確かなのだが、短期間のスパルタ方式特訓である為、アリウムには、かなりの肉体的負担と精神的負担を強いられていた。



「アリウム〜、大丈夫か〜?」


「アリウム君、今のうちに回復しとかないと、次が来ちゃうわよ。」


「 …………。 」


 

 軍隊蟻の先鋒隊を退けはしたが、彼らは倒されると援軍を呼ぶ為のフェロモンを出す。おそらく、もうしばらくすれば、蟻の巣から軍隊蟻の援軍がやってくるだろう。


 魔力の回復には時間がかかるが、体力、精神力は絞り出せる。それらの回復力を高めることも、この連続戦闘の意義になるのだろう。


「 ……み、水〜……。」


 白髪の少年が声を絞り出すと、中年人形の隣に佇んでいた半透明の水の精霊が、少年の頭の上に水を発生させた。


 バシャーーンっ!


 次の瞬間、丸く浮かんでいた水の塊が少年に落ちる。おそらくは、飲み水を求めていただろう少年は、何故か頭をびしょ濡れにされてしまい、無言で顔を突っ伏したままだ。



「――すまん!アリウムっ! ミズハ、違うよ。アリウムは飲み水が欲しがったんだよ。」


 半透明の少女は、何が間違いなのと言わんばかりに不思議そうに首を傾げている。彼女なりに、早く立ち上がるように急かしたようだ。



「ギャ、ギャ、ギャーーっ!」


 ニールが蟻の巣の奥から聞こえてきた足音に反応して、俺たちに注意を促す。どうやら短い休憩時間は終わりのようだ。



「――アリウム、残念ながら蟻さんのお出ましだぞっ! さて、みんな、もう1回戦がんばろうかっ!」


 中年人形が巣穴の奥を睨みながら、戦闘態勢をとる。精霊たちとの繋がりを強く意識して、一緒に戦ってくれる精霊たちに魔力を送る。


 才能【エンパシー】によって精霊たちとの共感力はどんどん上がっている。魔力の受け渡しもスムーズになった。

 俺から魔力を多く受け取るほど、彼ら精霊たちの能力が上がることもわかってきた。


 森の女王は、精霊たちの進化はまだ起こっていないが、これについても精霊たちとの共闘をやり続ければ、近いうちに起こるだろうと話していた。


 彼らが進化すれば、イコール精霊使いの俺の力も上がるわけだから、スパルタではあるが、大量の軍隊蟻との戦闘には意味があるだろう。


 そして、いずれはあの優しい妖精も――



           ♢



「我ら、敵を祓い、豊穣を護るものなりっ! 太陽神よ、我らに希望の力をっ! 『ウォークライっ!!』」


 ソーンが両手の親指と人差し指で円を作りながら、太陽神の力を借りる魔法を唱えた。

 この魔法は、戦う者の気持ちを昂らせ、疲労を感じにくくし、恐怖などへの精神力耐性を上げてくれる。疲労に苦しむアリウムの気持ちを盛り立てる為、ソーンは新たに授かったこの魔法を選んだ。



 真実の歴史を聞かされ、太陽神への信仰に疑問を感じていたソーンだったが、不思議と太陽神から与えられる力に制限はかからなかった。


 もしかしたら、聖職者として回復魔法を使う事が出来なくなるかもしれない……。太陽神への信仰を迷っていたソーンはそう考えていたのだが、そんな彼女の不安を他所に、何故か新しい魔法を授かる事ができた。



――歴史の問題と、太陽神の信仰に対する問題は、別の問題として考えるべき事柄なのだろうか。太陽神の慈愛の力は、確かにこの世に生きる全てのものに与えられている。


 

 ウカに向けた憎悪に染まった太陽神と、世界中に慈愛の心で力を分け与える太陽神。どちらが太陽神の本当の姿なのか。



( ……どちらも太陽神の本当の姿だと言うのならば、案外、太陽神様も私たちと根っ子は変わらないのかもね……。)


 ソーンは、そんな事を思いながら、目の前に迫ってくる魔物との戦闘へと気持ちを切り替えていた――



          ▼


ソーン  ヒューマン


クラス  神官


才能1  シール

    (封印封魔)


才能2  ヒーリング

    (回復魔法)


スキル  封印   LV20

     回復魔法 LV20

     神聖魔法 LV8

     浄化   LV15

     棍術   LV15


          ▲


 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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