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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
290/457

中年人形、頭を下げる


            ♢



「ちょっと、うちをヒロ兄と同行させてくれないなんて、どういう事っ! 」

「うちもよっ! なんで一緒にいさせてくれないのっ! 」


 2人の少女の叫び声が響き渡るのは、ダンジョン=インジブルシーラのエントランス。

 困った表情でソーンが2人を宥めるが、まるで聞く耳を持とうとしない。


「ソーン姉とライト兄だって納得できるの? やっとヒロ兄を助ける事ができたのに、また危ない所に行かせるなんてっ!」

「ナギの言う通り! どうしてもヒロ兄を行かせるんなら、うちが手伝うって言ってるのっ!」


「ちょっとナギっ!? あんたがってどういう事!? それを言うなら、うちらでしょ!」

「うるさいわねっ! あんたなんかヒョロヒョロの白瓢箪なんだから、かえって迷惑かけるでしょ!」

「――はぁぁぁ!? あんたみたいなガサツなバカ女に言われたく無いわよっ! あんたが一緒じゃ、ヒロ兄がストレスで倒れちゃうわよっ!」



 なんとも際限のない口喧嘩が繰り広げられているが、その様子を困った表情を浮かべながらも、愛おしく感じている中年の男の姿をした人形。

 人形といっても、その姿は人間そのもにかなり近いのだが、服に隠れた関節などの所々に、機械人形=ゴーレムである事を連想させるように、継ぎ目が見てとれる。


 そんな機械人形と仲間たちに見守られながらつづけられているナミとナギの口喧嘩。

 しかし、何故こんな口喧嘩が勃発しているかと言えば、先刻告げられた、森の女王とドワーフ王からの要求が大きな原因であった。


 

――豊穣神ウカとともに、混沌王ヒルコを助けて欲しい



 2人が語った豊穣神ウカと使徒たちの物語。

 そこで語られた混沌王ヒルコは、紛れもなくウカを奉じ、共に苦労した愛すべき仲間であった。


 試練のダンジョンに封じられた後、仲間であるはずの他の使徒を狐憑きの少年少女を使って攻撃したことについても、2人からは不思議な説明がなされた。


「ヒルコはその特異な身体と能力を使ってウカ様を救い出そうとしている――」


 それまで語られた物語を聞いただけの皆んなには、まったくもってそんな話を信じることは難しい。しかし、森の女王とドワーフ王には、こんなにも無理がある説を確信を持って語った。



「ワシらを攻め殺そうとした狐憑きを、何故か後からやってきた狐憑きが倒したんじゃ。そいつらは何も言わず、倒した狐憑きの仮面を剥がして去って行ったが、当初、無表情だと思っていた狐憑きの仮面なのに、後から来た狐憑きには悲しみの表情が宿っていたんじゃよ。これは、確かにワシの気のせいなんかではなかった。」


「そう、おそらくヒルコは分裂を繰り返し、その本体から自分に都合の悪い部分を切り離していたんじゃないかと思っているの。もしくは、ウカ様を取り込んで核から救い出そうと……。」


 捲し立てるように話す2人が、些か冷静さを欠いているように感じたライトは、ゆっくりとした口調で話の疑問点を整理する。


「なんでそんな突飛な発想が産まれたのですか? それに、どう考えるとそれがヒルコがウカ様を救い出そうとしているなんて考察に結びつくのですか?」


「ふむ、魔術師殿がそう感じるのはもっともじゃな。だが、すまんが確固たる根拠は無い……。しかし、確信はある。ワシらとギル、3人の使徒で話し合った結果じゃ。ワシらの勘としか言えん……。今の時点ではな。」


「これは私たちの我儘。もし、私たちの言ったようにヒルコがウカ様を助けようとしている訳ではなかったのなら、彼を滅してもらって構わない。ただの悪なる存在になんか容赦はいらないもの……ただ――」


 森の女王とドワーフ王は、ここで深く頭を下げて中年の姿の機械人形とその仲間たちに懇願した。


「ここから離れられない私たちに変わって、真実を確かめて……そして、ウカ様とヒルコを救い出して欲しい――」



 根拠はないが、確信はある。

 そんな事を言われても、正直なところ簡単に納得できるものではない。もし、2人の使徒が話す通り、ヒルコを善の存在としたとしても、今まで自分たちを襲ってきていた、悪なるヒルコという存在もいることは確かなのだ。

 

 ナミとナギもヒルコの行為による被害者だ。

 そんな不穏で危険な相手に、仲間たちを巻き込んでもいいのだろうか。中年人形自身はヒルコを倒す事を目標としていたのだから、勿論、首都にあるダンジョンに挑むつもりだ。その目標に2人の願いも追加して挑めばいい。

 しかし、使徒の眷属になったとはいえ、ナミやナギのようにまだ若い少女や、アメワやソーンのような女性を危険なダンジョンに連れて行くのは気が引けるのだ。

 ライトやハルク、ギースにしたって、彼らの人生に重荷を背負わせて良い訳がない。今回は、なんといっても、今までの騒動の大元。一番の敵の元へ乗り込むのだから。


 こんな考えを巡らしていた中年人形に向かって、突然の宣言をぶち上げたのは、ソーンであった。



「ヒロさん……、いえ、ヒロ君っ! 貴方は私たちを危険に巻き込まないようにとか考えているようだからはっきりと言わせてもらいます。今回、貴方をこうやって助け出したのは、いったい誰だと思っているの?」


 凛としたよく通る声で、真っ直ぐに中年人形に対して宣言する。


「私たちの誰が欠けても、こうやって貴方を救うことは出来なかった。貴方一人で出来ない事も皆んながいれば大丈夫。これからだって、私たちが貴方を助けます! あなたが嫌だと言われても助けます! 決戦には必ず私たちも着いていきますっ!」


 反論を許さない、その強い言葉に反応したのは、狼狽えた様子の中年人形ではなく、傍に立つ森の女王であった。



「――そうだね。今回の魂の封印作業は本当に見事だったよ。この場にいる君の仲間たち、誰が欠けいたとしても、上手く行かなかった気がするよ。だから……、たがらこそ、ぜひ君と君のその仲間たちにお願いしたいんだ。頼む……ウカ様とヒルコを救ってやってくれ。」



 こんなにもド直球に、自分たちを信じろと言われてしまって、それでも仲間を信頼しないなんてこと、言えるわけがない……。

 ここまで言われて初めて、覚悟を決めた中年人形は、自分の仲間たちに頭を下げる。


「――俺はウカ様とヒルコを助けてあげたい。みんな、俺に協力してもらえるかい?」


 この言葉を待っていたとばかりに、チーム【アリウム】の面々が揃って右拳を突き出す。全員、親指を立ててサムズアップ。その姿を見て、ヒロは笑いが込み上げてきた。


「――まさか、このポーズがこのチームの共通の合図になるなんてね!」



           ♢



 こんなやりとりの後、二人の使徒から今後の方針の提案が出されたところから、件の少女たちの口喧嘩へと繋がる事になる。


「もう少し力をつけなくては、首都にあるダンジョンの最奥には辿り着くことなど出来ないだろう。だから、それぞれに自分たちの能力を向上させなくてはならない。だから……。」


 そこで、ナギとナミにはもう再度、氷狼と吸血鬼王の元での訓練が提案されたのだ。

 ヒロはこのダンジョン=インビジブルシーラで訓練をする予定のため、一緒に行動する事ができなくなる。それで2人の少女からの突き上げに、なかなかうまい言い訳が見つからないでいたのだ。


「あなた達っ!いい加減にしなさい。あなた達がしっかりとヒロ君を助ける為の訓練なのよっ? 目の前の木だけを見て、全体の森や山を見るのを忘れては駄目よっ! しっかりと訓練して、みんなでヒロ君を支えられるようにならなきゃっ!」


 さて、どうしたもんだ――

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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