剣士、落ち込む
あの少年の行く宛などわかるはずもなく、俺はパーティーメンバーの待つ酒場へと向かった。
『英雄の家』の扉を開けると、一番奥の馴染みの席で『アイリス』のメンバーは楽しげに酒を煽っていた。
「よぉ、遅かったな〜。こっちはすっかり出来上がってたよ。」
「何処に行ってたの?ケインが居ないから盛り上がらならなかったじゃないの。」
すっかり顔を赤くしたライトとユウが、盛り上がってたのにも関わらず、俺に軽口をたたく。
「あぁ、すまなかったな。でも充分盛り上がってただろ?」
なんとか不機嫌がバレないように、こちらも軽口で誤魔化した。
なのに、運ばれて来たエールを見つめたまま、動きを止めてしまった。
「お前、あの魔物の少年に会いに行ってたんだろ?その面白くなさそうな顔からすると、あの少年になんかされたか?」
「ほんとに?なんであんな魔物の子供に構ってるのよ。あんなのに関わってもロクな事ないわよ。」
(パーンとソーンは、またナナシの事を魔物と言うのか……ナナシの事なんか噂でしか知らないはずなのに!)
冷えかけていた頭が、また熱を帯びる。
英雄に憧れ、みんなで一緒に英雄を目指して頑張ってきた。
――英雄はそんな言葉言わないだろ……。弱いものをイジメるなんて、そんなのおかしいだろ……。そんなのは、俺が目指した英雄の姿じゃない……。
「ごめん、みんな。一週間の休みの間、俺は別行動させてもらう。ちょっとやらなきゃならない事ができたんだ。しばらく、連絡取れないかもしれないが、よろしく頼むな。」
頼んだエールを一気に飲み干し、勢いよく先に席を立つ。
突然の俺の行動に口を開けたままの4人に食事代を預け、一週間後の昼に冒険者ギルドに集合という約束だけ言い残して、店を出た。
今にも仲間に怒鳴り声をあげそうだった。
(いくら仲間でも、ナナシを魔物とか、冗談にもつかない話で盛り上がるのなんて……。とてもじゃないが一緒に酒なんて飲んでいられないだろ……。)
仲間への信頼と仲間への失望が入り混じり、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
青白い月を見上げ、やりきれない思いを思うように言葉にする事ができず、誰にも聞こえないような小さな声で、俺は静かに唸り声をあげていた――