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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
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語った後で……⑤


「……不思議なんですが、ヒロさんの記憶が戻っていたとして、その時、アリウムさんはどうしていたのですか?」


 年長組の二人が落ち着きを取り戻し、やっとのことで涙を拭き終えた頃、ヒルダが冷静に質問した。

 常に控えめな彼女からの質問に、いかにもといった感じで、皆からの視線が白髪の少年に集まる。



「……えっと……、僕は……、実はよくわからないんです。なんか、いつの間にか、深い穴の中から世界を見るような感じになっていて……。」


 見た目は全くもって疑いなくチームのリーダーであるが、中身は、馴染みのないアリウムという名の少年。

 チームの皆からすれば、なんとも違和感ばかりの情景ではあるのだが、自分たちのよく知っているはずのヒロという人物は、対角にすわる中年の男なのだ。



「あの時……、崖に突き落とされて意識を失った時、多分、僕は一度生きるのを諦めてしまったんだと思います。諦めて、自分の殻に閉じこもって、もうこれでいいのだと……。」


 孤児院でいじめられ、街でいじめられ、挙句、冒険者の荷物持ちの仕事中に、クライアントに裏切られたのだ。

 理不尽で救いの無い人生に、絶望してしまった事を誰が責めることができるだろうか。



「じゃあ、アリウム君は、ヒロ君がナナシ君として活動している間、その自分の殻の中から見ていた感じなのだろうか?」


 白髪の少年は、森の女王の質問に対して、静かに頷いて肯定する。



「はい。ずっと、ヒロさんの活躍を見続けていました。僕等への理不尽ないじめや嫌がらせに対して、一生懸命抗って乗り越えていく姿を。僕は、正直なところ、辛い毎日を生き抜くことが嫌になっていたので、僕の代わりにナナシとして生きてくれるヒロさんに、感謝していた気がします。」


「……ごめんなさい、あなたの辛い気持ちに気付いてあげなくて……。」


 先のやり取りから幾らか立ち直ったソーンが、またもや申し訳なさそうに首を垂れる。


「いえ、あの時辛い思いを僕の代わりに引き受けてくれていたのはヒロさんです。僕は、ナナシとして生きることから逃げたんですから……。だから、もしあの時のナナシを慮ってくれるというのならば、それはヒロさんに。」


 俺はアリウムから投げかけられた言葉に、慌てて両手を振って誤魔化した。


「いやいや、だから俺はなんも怨んだりしてないから。もう、頭を下げないでくれ。それに――」


 アリウムの腰に括り付けられている精霊箱を見つめて、今はここにいない友、あの賑やかで優しい妖精の事を思い出す。


「――いつも、ベルさん……。あの優しい妖精が俺を支えてくれましたから。悲しい時も、苦しい時も、いつもいつも、俺の側で勇気づけてくれたから。だからこそ、こうやってみんなとも出会えて、チーム【アリウム】という家族が出来たんだ。」


 いつでも寄り添ってくれた。

 いつでも励ましてくれた。

 いつでも進む先を照らしてくれた。

 そう、いつだって彼女が俺の道標だったんだ。



「……ベルさん……。」


 誰もが等しく彼女から元気を貰っていたと言えるだろう。

 そして、あの喧しくも愛らしい、元気印の妖精が消えてしまった事こそ、今度はヒロが自らの殻に閉じこもってしまうほどのショックを与えたのだ。

 あの小さくて優しい妖精が、いかに彼にとって大きな存在であったのか、口に出さずとも皆んなが理解している。



「――なんだい? その妖精って? 」


 いかにも軽い雰囲気で質問を繰り出した森の女王は、一度済んだ話沈みかけた雰囲気から皆を引き戻した。おそらく、当の本人には、そんな自覚はないだろうが、兎にも角にも、止まりかけた時間は進み始める。


「ベルさん。俺たちには、もう一人。妖精族の仲間が居たんです。ただ、彼女は無理に力を使い過ぎて消えてしまった……。」


「へぇ〜、力を使い過ぎでね〜……。ふ〜む、ねえダンキル。そんな話聞いたことある?」


「うむ。ワシは聞いた事はないのう。妖精といえば、風の少女=シルフの中でも力のある存在が進化すると言われているがの。」


 2人の使徒が、妖精族に関する言い伝えについて語り始めた時、今まで存在を消し、アリウムの召喚に応じてこなかった3人の精霊が姿を現した。

 

 火蜥蜴=サラマンダーのサクヤ、土小鬼=ノームのハニヤス、水の乙女=ウンディーネのミズハの3人は、何故かアリウムの精霊箱に群がる。

 その様子は、一生懸命精霊箱を指差していて、どうもこちらに何かを呼びかけているようだった。



( ――ここ―― )



 突然俺の頭の中に呼びかけられような感覚。

 しかし、その言葉たらずの呼びかけだけでは、いまいち要領を掴めない。


「………。」


 精霊たちが騒ぐ様子に、チームの皆んなが騒つく。そんな中、森の女王がそれまで座っていた席を立ち、ゆっくりとアリウムの隣に移動した。


「ふふっ、なるほど――。」


 森の女王は、精霊たちに微笑みかける。

 そして、精霊箱を見て、すぐにその視線を俺へと向けた。


「ヒロ君、まだ気付かないのかい? 精霊たちが、君に教えたいことがあるようだよ? 」


 投げかけられた問いに、なかなか答えられないでいると、ドワーフ王が大きな声で笑い始めた。


「ガ〜ッハッハッハッ! なるほどのうっ! アエテルニタスよ、意地悪せんで早く教えてやれ。精霊たちの言葉がわかるのはお前さんだけなんじゃからの!」


 精霊たちの言葉がわかる?

 精霊たちを隣人と呼び、古くから彼らの力を借りてきたハイエルフの女王、アエテルニタス。

 彼女は、出会った時の機会じみた笑顔ではなく、おそらく本来の笑顔。柔らかく、他を包み込むような優しい笑顔で微笑んだ。



「ふふっ、ヒロ君。君の友達は、()()にいるようだよ――」


 


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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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