語った後で……③
「――あ、あの……。」
そこまでの話が一段落した所を見計らって、俺は話を切り出した。
今までずっと沈黙を続けていて、森の女王の話もドワーフ王の話も、ただただ聞いているだけで、なんの反応もしてこなかった俺が話を切り出した事で、その場にいる全員の視線が、一気に俺に注がれる事になる。
「アエテルニタスさん、ダンキルさん、俺の魂の封印作業に協力していただき、ありがとうございました。そして、こんな不甲斐ない俺の事を全力で呼び戻してくれた【アリウム】ファミリーの皆んな。ありがとう。」
俺は部屋を見回しながら、深く頭を下げた。
「俺は、ベルさんが消えてしまった事への責任に耐えきれず、そんな自分の不甲斐なさが許せなくて……。それで、やり切れない思いでいっぱいになって、勝手に独りで自分に絶望してしまって、逃げるようにアンチの壁の中に閉じこもってしまった。それなのにみんなは……、そんな情けない俺を新しい身体を用意までしてくれて、この世に必死に呼び戻してくれた――」
先ほどまで騒ぎ立てていた森の女王も、他のメンバー同様に、静かに俺の話に耳を傾けてくれている。
「こんな俺を、みんなが必要としてくれた事に、改めて感謝を。そして、俺に挽回のチャンス……、いや違うな。俺がしっかりと目標をやり遂げることができるように、無理矢理にでも立ち上がらせてくれて、本当にありがとう。」
しっかりと俺の言葉を受け取ってくれる仲間に対して、もう隠し事はできない。そう、これからの俺たちが関係を続けて行くためにも、しっかりと今、現実を整理して話すべきなのだ。
「もう、みんなも気づいたはずだから告白します。俺たちが、なんで魂をふたつ持っていたのか――」
そう、俺自身のルーツをみんなに話しておかないと。
今、機械人形=ゴーレムが俺の魂に反応して変化したこの姿こそ、この世界で、この記憶を思い出す前の自分の姿であるということを。
「まさか、俺自身、アリウムとは別の身体に、こうやって移されるなんて思ってもみなかったから――」
しかしどうしてだろう……。せっかくこうやって自分自身の元の姿でみんなの前に立つことができたというのに、ここまで話して突然、この先を話すことが怖くなった。
( 別の世界で一度死んで、何故かこの世界の、アリウムの中に魂だけ転生しただなんて、信じてもらえるのか……。例えば信じてもらえたとして、みんなはこんな不思議な存在の俺を受け入れてくれるだろうか……。)
急に黙り込んだ俺の様子を訝しむでもなく、チームのメンバーも、2人の使徒も、しっかりと視線を俺に向けて待っていてくれている。それなのに、口はなんとか開けるのだが、ただパクパクと口を動かすだけで、何故か思うように声を出すことができない。
すると、そんな俺の姿を横からじっと見つめていたソーンが、隣に座り、テーブルの上で震えてい俺の手を強く握りながら、毅然として声をあげた。
「ヒロ君っ! いえ、ヒロさんっ! 私たちを信じて。大丈夫。あなたを拒絶する者なんかいないわ。あなたを否定する者もいない。あなたを信じている私たちの事を、あなたも信じてっ!」
ソーンの宣言を皮切りに、俺を囲むメンバーたちから次々に言葉が投げかけられた。
「ヒロ兄っ! 何を今更悩んでるのよっ!」
「そうよ、ヒロ兄っ! ウチらに散々不思議な体験させといて、今更私たちに何を隠す必要があるってのっ!」
ナギとナミが笑いながら俺の背中に飛びついてきた。
「そうだね、ヒロ君。君のおかげで、僕の知らなかった歴史を知ることができてるんだ。今更、驚かせる事に躊躇することもないだろう?」
ライトが俺の肩をポンっと軽く叩く。
「そうですな。竜人族として、ゴズ様に仕えていた私ですら、こんなにも驚かされ続けました。今更、一つや二つ、驚きが増えたところで、大したことはありますまい。」
「いや、俺はかなり驚きすぎて、何が何だかわからなくなっているがな……。しかし、ケインがそうだったように、お前の頑張りを見てきた俺が、お前を否定するなんて事はありえないさ。」
ギースもハルクも、寄りかかっていた壁から背中を離し、両手を腰に当てながら笑った。
「……あなたが私たちを許さない事はあるかもしれないけど、私たちはあなたを受け入れます。私たちは、あなたに心を救ってもらったのだから。」
ソーンとは反対の手を握るアメワは、何故か涙を流していた。
「ヒロさん。こんなに皆んながあなたを思ってくれているんだよ。大丈夫。みんなにヒロさんの事を話してあげて……。」
数刻前まで、魂を同居させてもらっていたアリウムが親指を立ててポーズをとる。それは、尊敬してやまない、優しい剣士がいつもやっていたポーズ。
「……あぁ、そうだね。俺には、こんなにも信頼できる仲間がいるんだからな。」
「ガハハっ! 良いの〜。みんなの信頼に応えて、ワシらにその秘密を話しておくれ。」
アエテルニタスは態と横を向いたまま。ダンキルは俺を見つめながら、大きな声で先を促した。
「ピーっ、ピピーっっ!」
自分を忘れるなとばかりに、ニールが鳴き声をあげた。そんな古竜の子供をだき抱えながら、ヒルダが俺に無言でうなずいた――
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