表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
285/456

語った後で……②


「うるさいわい! ワシより長く生きとる性悪エルフに言われたくないわい! ところで……。」


 使徒同士の口喧嘩に、無理矢理区切りをつけて、ドワーフ王は、突然俺たちに頭を下げた。


「……アエテルニタス。お前さんのさっきまでの態度、ありゃなんじゃ? この子らがどんな思いでここまで来たのかわかっていたのじゃろう? それをあんな突き放すような物言いで追い詰めおって。 この子らが、途中でお前さんの言葉に心折られて、諦めてしまっていたら大変な事になっていたじゃろうに。」


 俺たちに頭を下げた後、かけられた言葉に、明らかに不貞腐れている森の女王に向かって、ドワーフ王が続けた。そして、再び俺たちに向かって頭を下げる。


「……みんなすまんかったの。此奴も長いダンジョン生活で、元々捻くれていた性格が、もう一周捻くれてしまったんじゃ。本来、此奴は仲間思いのお節介焼きなんじゃ。許してやってくれ。」


 おそらく、魂の封印作業を見守っていたのだろう。

 その際の森の女王による、ヒロの仲間たちを責める言葉の数々は、確かに彼ら彼女らの深く残り続ける心の重しを刺激して、危うくヒロの魂を霧散させてしまいかねない状況だったのだ。


「ちょっと! 何を勝手に謝ってるのよっ! 私の半分も生きていない根暗の穴倉爺が、私の保護者みたいなこと言わないでっ!」


 森の女王は大袈裟なくらいに大きな身振りでドワーフ王に抗議する。それは、まるで親に怒られた子供のようで、側から見ていれば、見た目そのままに父と歳頃の娘のように見える。


「だいたい、あんただって私と同じ事を思ってるはずでしょ!? 浅はかな短命種たちが、テラの誤魔化しを信じ込み、ウカ様を悪なる神だなんて訳の分からない神話を本当の歴史として伝え続けているのよ?」


 目を三角にして、ドワーフ王に思いの丈をぶつけ続ける森の女王。その相手が、目を瞑ったまま反応しないのをいい事に、どんどん強い言葉を投げかける。


「だいたいね、この子たちだって、初めて会話を交わした時、私になんて言ったと思う? 『あの悪なる神の使徒、ハイエルフのアエテルニタスですか!?』って言ったのよ!? フェンリルから少しは話を聞いていたはずなのに、それでも私を悪なる神の使徒って呼ぶなんて、失礼極まりないと思わない? 」


 ソーンは、その言葉を発した時と同じくハッとして胸を抑えた。あの時はなんでもないようなやり取りで流してくれていたが、実際には自分の浅はかなやり取りが、目の前で騒ぎ立てているエルフの少女の心象を悪くしていた事に、改めて気付かされたのだから。



「……それは、その……、申し訳ありませんでした。」



 慌てて頭を下げる聖職者の姿に、森の女王は一瞬口を一文字に閉じる。しかし、その封印は一瞬で解かれ、今度はチーム『アリウム』全員に向けて、口撃が始まった。それは、魂の封印があと少しで完成するという時に投げかけられた言葉の数々。まさに、ドワーフ王に嗜められたやり取りの本質の言葉であった。



「――散々、そこのヒロ君に嫌な思いや辛い思いをさせてきて、それなのにそんな思いをさせたあなた達は、それを忘れてヒロ君に依存して。やった方は忘れても、やられた方は忘れない。あなた達、本当にヒロ君に許してもらえたと思ってるわけ? ほんとお笑い種だわ!」



「――アエテルニタスっ! もう辞めんか!!」


 息をするのも忘れてキツイ言葉を連発するエルフの少女に、ドワーフの男が一括する。


「お前さんだってわかっているだろう! ワシら長命種と違い、短命種はその子供たちに歴史を託し、引き継がれていくのじゃ。親が子に、子が孫に、それぞれ自分で経験していない事を伝え、歴史が紡がれていく。だからこそ、新しい経験が継ぎ足され、歴史も変わって行くのじゃ。」


 ドワーフの男は、その不自由な左手をエルフの少女の右手に重ねながら話を続ける。


「本当の歴史かどうかなど、短命な運命にある者たちが確かめられるわけがなかろう。ワシらのように、その歴史の当事者であるわけではないのじゃ。真実が上手く伝わらない。嘘が真実になっている。しかし、それを彼らに証明させるなんてことは、それは無理なことじゃろ。なぁ、アエテルニタス。」


 エルフの少女の口撃を遮った際の大声から一転。静かに子を諭すような口調で話すドワーフの男は、今度は硬い表情で言葉を発する事が出来ずにいたソーンたちに笑いかけた。



「ガハハっ、この娘っ子がすまんかったの。此奴も長い長い人生の中で、色々と嫌なものを見てきているからの。お前さんたちのやり取りが悔しくて、悲しくて、そして嬉しくて、羨ましかったんじゃろうよ。のう、アエテルニタス。」


「 …………。」


 ドワーフ王の問いかけに、「ふんっ!」と、ドワーフ王に手を添えられたたまま、ソッポを向いてしまう森の女王。その姿を見てドワーフ王はもう一度豪快に笑った。


「ガハハハっ! まぁ、此奴も悪い奴ではないんじゃ。許してやってくれ。」


 そう言って三度一向に頭を下げる。

 正直、魂の封印作業の時は夢中で過ごしていたチーム【アリウム】の面々にとっては、なんとも気持ちの沈むやり取りとなってしまった。


 森の女王から語られた歴史と、森の女王から責められた人族としてのあり方。そして、ヒロとの関係について、自分たちの中に燻り続ける懺悔の気持ちが、彼らの心を重くしていた――

楽しんで頂けましたら、ブックマークや評価をしていただけると励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ