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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
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狐の葛藤①


 完全に結界は消えた。


 しかし、今までなら吾れ先にと押し寄せる魔物たちは、先頭に立つ狐面の人間を先頭に、その者より前に出ようとはしなかった。



「………ヒルコ……なの? 」


 森の女王が声を絞り出した。

 突然現れた友とも家族とも思っていた相手。

 いや、正確には違う存在。あくまでも氷狼が彼と()()()()だと証言しただけであり、確かなことはわからない存在。


 しかし、対峙した3人の使徒には、おそらくその存在がヒルコであろう事を確信できていた。


 氷狼が言う、ヒルコの匂いなんてものはわからない。だが、その者の雰囲気というか、その者の色と言えば良いのか、3人にそう確信させるのだ。



「……ったく、お前さんは何を考えてこんな事をしておるんじゃ。」


「 …………。」


「此奴、ワシらのダンジョンを奪い取り、ウカ様の魔力核を集めとるんじゃぞ。良いことをしようとしてるとは思えんな。」


「 …………。」


「ねぇ、あなたがヒルコだと言うなら、ちゃんと私達に理由を教えてちょうだい。このままじゃ、あなたの事を嫌いになってしまう。」


「 …………。」


「――だって、私たちは仲間でしょ? 家族でしょ? 私にあなたの事を嫌いにさせないでよ……。」


「 …………。」


「無駄じゃ、アエテルニタス。此奴、まるで反応がないわい。ヒルコであって、ヒルコでは無いのじゃろう。此奴が本物のヒルコなら、優しい彼奴が、お前の言葉に反応しないなんて事ありえんはずじゃ。」


「そうだぞ、アエテルニタス。現にワシらは問答無用に襲われ、また一番仲のよかったお前さんすら、魔物たちに襲わせているんじゃ。例え此奴がヒルコだとしても、もう許せる範囲を超えとるわい。」


 ドワーフ王と鬼神王は武器を構えて、ジリジリと狐の仮面との距離を詰めていく。



「――でも、ダンキルもギルも生きてる。こんな魔物の大群が押し寄せたというのに、あなたたちはここまで逃げて来れたのよ? よく考えてみたら、とんでもなく不思議な事じゃない? 」


 森の女王は、召喚した風の精霊王ジンを無に返しながら2人の使徒に、狐面へと飛びかかろうとするのに待ったをかける。



「ヒルコっ! あなた……、あなた、本当はこんな事したくないんじゃないの!? 」


 戦闘体制で狐の仮面と対峙していたドワーフ王と鬼神王は驚きの声をあげた。


「――なにをしているアエテルニタスっ! ジンを返しちまったら、大群に囲まれて終わりじゃぞっ!」


 しかし、その叫び声を右手で制し、森の女王は狐の仮面に向かって呼びかけを続けた。


「ヒルコっ! もうやめなさい。あなた、本当はこんな事したくないんでしょ?」


「 …………。」


 身動きしない狐面。ふと、森の女王は、その動かない狐面の右手に、その者が被る狐の仮面と同じものが握られている事に気づいた。

 

( ……何故、同じ仮面を握っている? )


 森の女王は、武器にもならない仮面を握っている事に疑問を感じた。その意味はなんだ? その訳はなんだ? しかし、その答えに辿り着く前に、突然その場の状況が変わってしまう――


 

「――避けろっ! アエテルニタスっ!!」

 鬼神王の叫び声が響いた。

 


 ドカーーーーンッ!!



 爆音が響き、煙が舞う。

 なんとか周囲が見渡せるようになると、その場には何が起きたのかわからないで立ち尽くす森の女王の姿と、床にうつ伏せに倒れこんで動かないドワーフ王の姿があった。


「 ……なにが……。」


 森の女王は、必死に頭を働かせて、何が起きたのかを理解しようとするが、目の前に倒れ込んで動かないドワーフ王の姿に動揺し、まるで考えの整理がつかない。


「――しっかりせんか!」


 大声で森の女王に呼びかけながら、鬼神王がその前に武器を構えて駆け寄った。

 倒れ込んだまま、ドワーフ王はピクリとも動かない。


「アエテルニタスっ! 正気に戻れっ! 新手の狐面じゃ! 突然現れた彼奴が火の魔法を放ったのじゃっ! ダンキルはお前さんを庇って魔法を受けたんじゃっ! アエテルニタスっ! いつまで惚けておるっ!」



 新手の狐面?

 ヒルコは一人じゃない?


 ふと前を見ると、魔法を仕掛けた2人目の狐面が、先程から対峙していた1人目の狐面に押さえつけられ、何故か仮面を外されそうになっている。

 さしたる抵抗もせずに2人目の狐面は押さえつけられているが、その手の平はこちらに向けられ、再び火の魔法を放とうとしていた。


 しかし、魔法が完成する前に狐の仮面が外されると、こちらに向けられていた右手は力なく床に投げ出される。そして、左右の手に狐の仮面を握った1人目の狐面が、こちらを見ながら立ち上がった。



( ……なに? 何が起こっているの? 仲間割れ、してるの? でも、どちらもヒルコだとしたら、仲間割れするなんておかしいじゃない!? )


 森の女王は益々混乱した。

 何か、答えに辿り着けそうで辿り着けない。

 倒れているドワーフ王の姿が目に入り冷静さを保つことも難しいのだ。森の女王は、いつものように、深く考察することができないでいた。



 すると、突然、目の前に立つ狐面が、握っていた2つの仮面を森の女王に向けて放り投げた。


 カランッ!


 乾いた音が鳴り響き、森の女王の足元に二つの狐の仮面が転がる。

 

( ……なにを……。)


 

 あれほどの爆音が鳴り響いたというのに、ダンジョンに押し寄せていた魔物の大群は動いていない。目の前に立つ狐面を先頭にして、そこから前にはでようとはしていないのだ。


 その場に立ったまま、こちらを見つめている狐面。その姿を見て、森の女王はある事に気づいた。



投げられた狐の仮面と表情が違う――



 森の女王は、足元に転がる仮面と、目の前に立つ狐面の仮面を何度も見比べた。

 

 転がる二つの仮面が不敵に笑っているように見えるのに対して、目の前に立つ狐面は、悲しげに泣いているように見えるのだ。

 

 気のせいか? いや、確かに表情が違う。

 ならば、これは何を意味している?


 思考に没頭し、先程まで動揺していた森の女王に冷静さが戻ってきた。考えろ、考えろ、考えろ、考えろ……。


 何かが、必ず見えるはず――


 

 

みなさん、評価やコメントなど、ぜひぜひよろしくお願いします!

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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