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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
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ぼっちの王様たちの怒り⑤


――都合、60回目。


 

「 …………。 」


 魔物の大群を調整しながらダンジョンに引き入れ、体力、魔力を節約しながらここまで全てを森の養分にしてきた。


 しかし、流石に少数で他勢、いや大群を相手にし続けるなど、やはり至難の業。徐々にに一回の征伐にかかる時間が増え始めてきた。


 武器を持つ腕は鉛のように重く、武器を振るう度に身体がよろめきそうになる。それを下っ腹に力を込めてグッと堪えて、次の相手へとまた武器を振るう。


 身体に受ける魔物からの攻撃も増え始め、治療もそこそこにこの戦いに身を投じている2人の戦闘狂も、さすがに喋る余裕が無い。



「……ちょっと、あんた達、もういいからここから逃げなさいっ! あとは私が上手くやるから。」


 傷だらけの2人を見兼ねて、いつもは憎まれ口が先に立つ森の女王から素直な言葉が紡がれる。



「あんた達を封印していたウカ様の核はもうないんでしょ? だからこそダンジョンから抜け出してここまで来れたはず。もう、縛られるものは、ないのだから、あんた達は逃げなさいっ!」


 そう、彼らが管理していたダンジョンは、既に魔物の大群に落とされ、守り続けていた豊穣神ウカを封じた核はヒルコに奪われた。それは、核に封じられていた使徒が、核から解放された事でもあるのだ。


「いい加減、もうウカ様に義理立てなんてしないで、自由に生きなさいよっ! 誰もそれを責めたりしないわ。」


 森の女王は、木の精霊=ドライアドの結界を閉じたまま、疲労の為に肩を大きく上下させて、なんとか呼吸を整えようとしている2人の戦闘狂に向かって叫ぶ。


「――あんた達は生きてっ! 」



 長い長い付き合いだ。今更、友人面するのも恥ずかしいし、憎まれ口を叩き合うくらいが丁度いい。 相手の心に踏み込みすぎず、かと言ってお互いの事は気になる。ただ、確信的な話をしようとはして来なかった。

 自分たちにあるのは、心から尊敬し、神奉した豊穣神ウカを盛り立てる仲間同士の絆のみ。ましてや、ダンジョン毎に振り分けられ、顔を会わすことも無くなった()()()()仲間なのだ。



そう思っていたんだけどね――


 

 いつでも自分の研究に明け暮れ、自分が導くべきハイエルフの一族の凋落にも気付かず、率いる一族の数を大きく減らしてしまった。

 そんな森の女王が、友と呼べる仲間の無事を願う事に、なんの不思議があるだろうか。

 不思議な事なんてない。

 だって、もう、大切なものを無くしたくない……。


 

「――馬鹿もんがっ! 何を弱気になっておるんじゃ! いつもの太々しい生意気なエルフの娘は何処に行ったっ?」


 弱気になった森の女王に、そんな事歯牙にも掛けないドワーフ王の素太い声が響いた。


「ワシらが逃げたらお前さんはどうする? ウカ様の魔力核を持って逃げるのか? 封印が消えていないお前さんでは、ここから離れられないではないか。」


 いつもなら強気に受け応えする森の女王が、口を真一文字に結んだままで動かない。



「だいたいじゃ。()()を置いて逃げ出す者など、高潔なドワーフ族の中にはおらんわい。」


 太い腕を組み、胸を張るドワーフ王。そして、今の言葉に呼応するように、何本目になるのか、折れた棍棒を投げ捨て、落ちている別の棍棒を拾い上げ、鬼神王がゆっくりと二人の目の前に差し出す。



「……鬼神族にもな。アエテルニタスよ。ワシらを逃がそうなんて馬鹿な事を考えるな。()()を捨てて逃げだし生き延びるなんて、ワシらにできる訳がないだろ。そんな事するなら魔物に殺された方がましだ。」


 赤鬼の赤い顔は魔物の返り血によって赤黒く染まり、角だけが白く光を反射している。その表情は、疲労を滲ませながらも、この不利な状況の中、光を失わないその目には、不退転の決意を伺わせている。


「そういう事じゃ。だからの、お前さんも性悪エルフらしく、いつもの調子で行こじゃないか。のう、アエテルニタス。」

 


 仲間――

 


(……ちぇっ、まったくもう……おっさんたちが格好つけちゃって。仲間だなんて宣言されたら、もうこれ以上、何も言えないじゃない……。)


 森の女王は、深く深呼吸をして呼吸を整える。


「ほれっ、日和ってないで、次を呼び込まんかいっ!」


「その前に、二人ともこの棍棒の強化を頼む。流石に素手では戦えん。」


 疲労は確実に使徒らの身体の自由を奪っている。しかし、ほんの少しの会話が僅かながらも疲労の重石を減らしてくれたようだ。


「……わかったわよっ! さぁ、棍棒を出しなさい。強化するから。」


 土の精霊=ノームを呼び出し、棍棒を硬化させながら、森の女王は笑った。


「――ふふっ、全く馬鹿は死ななきゃ治らないってことよね。あんた達、最後まで付き合ってもらうわね。」


 ドワーフ王も鬼神王も、ニヤリと笑う。


「まあ、ダンキルの場合は、死んでも馬鹿は治らないだろうがな。」


「それは、ワシの台詞じゃわい。ギルよ、お前さんも死んでも戦い続けそうじゃからの。」


 ガハハと大声で笑い、拳をつか合わせてから武器を構える2人。まだまだ気力は充実している。



「――じゃあ、次呼び込むわよっ! 準備はいいっ?」


「「 おうよっ!! 」」」



 ダンジョンの入り口に作られた空間に大きな声が響き渡る。

 そこには2人の戦士と、1人の精霊使い、それと戦闘用に作られた数体の機械人形。

 魔物の死体はすっかり木の精霊=ドライアドたちに片付けられて、血溜まりこそ残るが、障害物はない。


「――61回目っ! さぁ、ぶちのめしてやるわよっ!」


 



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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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