剣士、怒る
みんなと別れたあと、なんとなく重く感じる足を無理やり動かし、孤児院へと向かっている。
頭の中がモヤモヤしている。
――信頼しているパーティーメンバーが1人の少年の悪口を言ったから?
子供だぞ? 大人が差別するのか?
――見ず知らずの街の人々の悪意に少年が晒されていると知ったから?
ちょっと見た目が他と違うからって、魔物の子供とか言うのか?
――お前も俺たちと同じ気持ちなんだろ?
誰もが同じ方向に向くわけじゃないのに、誰もが同じ方向を向くのが当たり前だとてま思われているのか?
そんなことを言われたような気がした。
人は同調する事を求める。そして、人と違うことに不安を覚える。その結果、自分と違う容姿や違う考え方、ましてはその対象が自分より弱いものであれば、それを攻撃して従えようとしたりする。
そして、同調した自分の達の考えが正しいと証明できると承認欲求を満たすことができる……
――自分が気持ちよくなる為に、少数派や弱者をイジメるなんて、おかしいだろっ!!
俺は俺の英雄を目指すという生き方に誇りを持っている。この信念は、他人を貶める事によって達成するものでは決してない。実績を積み、周りから認められて達成するものだと思う。
人を不幸にして、なにが英雄か――
▲▽▲▽▲▽▲▽▲
程なくして孤児院へと到着した。孤児院の入り口から中をを覗いてみると、あまり質の良くない服を着た子供達と世話人であろう2人の大人が見えた。
(なんか、それでもナナシの着ていた服はもっと酷かったような気がする。)
いや、実際にそうなのだろう。どう見ても、ナナシの服はボロボロだったから。魔物に襲われたせいかもしれないけど、怪我もしてなかったし……。
「なにか御用ですか? ここは孤児院です。冒険者の方が立ち寄るような場所ではないとおもいますが?」
孤児院の責任者らしき初老の男性が、俺を見つけて訝し気に話しかけてきた。
なんとも上等な服を着ている。子供達は、あんな見窄らしい格好なのに…
「あ〜、いや、怪しいものじゃありません。俺はケイン。お察しの通り冒険者です。実は、こちらにナナシという少年が居ると聞いて会いにきたのですが、会うことはできますか?」
ナナシにあってどうするつもりなのか…。何を話したら良いのか…。命を助けたとはいえ、一度会っただけの関係だ。俺は何も考えていなかった。でも、会わなきゃいけないような気がしたんだ。
でも、男性から返された言葉に驚いた。
「ナナシ? あ〜、『名無し』のことですかな?
あいつには名前なんてないんですよ。親に孤児院の前に捨てられてまして、その時に名前の札も無かったので。ましてや、白い髪に白い瞳などと、まるで魔物の子供ですし。」
――その言葉に俺は絶句した……
「ふむ、あの子が何か悪さでもしましたか? 生憎ですが、あの恩知らずは、育ててやった恩も忘れてここを飛び出していきましたよ。まぁ、実はあの子は、一週間も無断でここに帰ってこなかったので、あの子のベットは、とっくに他の子供に使わせていたんですけどね。」
――君はこんな所で暮らしていたのか!?
俺は、今にも振り上げてしまいそうな右腕を、左手で無理矢理抱きかかえ、怒りを相手に悟られぬように、震える声でもう一度尋ねた。
「ナ……ナナシは何処に行ったかご存知ですか?」
「さぁ? こちらには碌に礼も言わず、さっさと出ていきましたからね。私共にはわかりかねますな。あぁ、もし、借金とか、弁償とか、そんな類いの事なら本人に請求してくださいね。 あの化け物は、こちらの孤児院とはすでに関係ありませんので。では、悪しからず。」
――怒りで頭が爆発しそうだ。ナナシが化け物だと!? どこまであの少年の事を貶めれば気がすむのか…。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲
このまま此処にいたら、自分がどんな行動に出てしまうかわからない。さっさと孤児院を後にして、街の中でナナシを探すことにした。
ナナシを化け物と言った男性の顔が脳裏にチラつく……、人間はこうまで残酷になれるのか……?
――あんたの方が、よっぽど化け物に見えるよ
孤児院での話を聞いてから、俺はずっと拳を握りしめていた。とてもじゃないが、あの男性の言葉を受け入れる事はできない。
「ナナシ……どこにいる?」
俺の声は虚しく街の喧騒に消えていった……
楽しんで頂けましたら、ブックマークや評価をしていただけると励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!