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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
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ぼっちの王様たちの怒り④


ギャーギャーッ!

ギャッ、ギャッ、ギャーーッ!

ブフォーーッ!



 様々な魔物の興奮した声が交錯している。

 彼らはすでに錯乱状態で、目の前にある物に手当たり次第襲いかかっていく。


 ここは木の精霊=ドライアドのテリトリー。森の結界により、前後不覚の世界を作り出し、魔物たちを閉じ込めていた。

 しかし、後から後から魔物の大群は結界の中へと押し込んでくる。いや、押し込まれて来るという方が正解だろうか。


 後には戻れないのだ。隙間なく押し寄せる魔物の大群が、北のダンジョン――インビジブル=シーラの入り口へと殺到し、仕掛けられた結界の中へと入り込んでいく。



「――無限などありえない――」



 そう、先ほどの森の女王の言葉を借りれば、まさに木の精霊の作り出した結界というテリトリーにも限界があると言うことになるのだ。



「――オリャ〜〜っっっ!!」


 気合いの入った掛け声がダンジョン入り口すぐのエントランスに響き渡る。


 特大の戦斧が横薙ぎに振り回され、その衝撃は5体のゴブリンの身体を上下にきり放し、力無く床に転がる。



「――おっしゃ〜〜っ!!」


 続けて、やはり特大の幅広剣を振り翳し、魔物の集団の中に飛び込む赤鬼がひとり。飛び込むや否や、赤鬼は長剣の柄を長めに余して振り回す。


 先ほどの戦斧の一振りに腰のひけたオークが、その巨大を仰け反らせて長剣を避けようと試みるも、その大きな身体で普通なら届かない頭の位置にまで、振り回された長剣の一撃が吸い込まれる。


 同じように頭に長剣の振り回しをくらい、頭を吹き飛ばしたオークが背中から倒れ込むと同時に、今度は、その後ろの魔物の集団に向けて複数の風の刃が飛ばされる。



「ジンよ! 我が魔力を贄にその暴風の刃により敵を蹴散らせっ!」


 草色のワンピースに、濃緑のマントを纏った美女が、契約を交わした風の精霊の王に攻撃を命じたのだ。


 狭いダンジョンの小部屋にはその身体の全体を顕現することはできず、そこには薄透明の上半身のみ。しかし、その精霊王の放つ風の刃は、残る魔物を屠るに充分な威力であった。



「おいっ! アエテルニタスっ! お前は結界の出し入れに集中するのでは無かったのか! ジンなど召喚しおって、ワシらの獲物が居なくなるでは無いかっ!」



「――木の精霊=ドライアドよ。魔物たちを森の養分に。全部片付けてちょうだい。」


「おいっ! 聞いておるのかっ! この性悪エルフがっ!」


 ふふっ、と笑みを浮かべてドワーフの王へと向き直ると、森の女王は軽い悪口で応酬する。


「――聞いてるわよ。これだから穴倉の根暗爺は……。あんたがチマチマと魔物を倒している間に、結界のキャパシティがオーバーしそうなの。だから、少し手を貸しただけでしょうが。まったく、悔しかったらもっと手際よく魔物を倒しなさいよ。」


「なんじゃと! 魔物の大群はとんでもない数だと言っているじゃろうがっ! 持久戦になるんじゃ、もっと力を温存せいっ! 」


 木の精霊=ドライアドが魔物の死体を吸収している間、ドワーフの王と森の女王は、お互いに憎まれ口を叩き合っている。

 それを横目に見ながら、鬼神王が愛用の獲物を投げ捨てた。



「仲が良いのは結構だが、ワシの長剣がもう保たないようだ。何か、ワシの獲物に丁度よい武器は無いか?」


 仲など良くない、と大声で否定する2人。だが、悪口を言い合いながらも、オークの落とした棍棒をドワーフ王が差し出し、森の女王が土の精霊=ノームに硬化を命じ、棍棒を強化する。


「「とりあえず、それで我慢しろ!(しなさい)。」」


 

 ざんざん罵り合いながらも、息ピッタリの2人に呆れながら、鬼神王は次の行動を促す。


「アエテルニタスよ、調子に乗って大きな魔力を使い過ぎだ。次は機械人形=ゴーレムにでも任せて見物でもしていろ。さぁ、ダンキル、準備しとけ。」


「……ったく、金剛石より堅物じゃの、ギルは。おぃ、性悪エルフ、次はワシの大技を見せてやろう。さぁ、呼び込めっ!」


「何を偉そうに、全く。じゃあ、結界の入り口を開けるわよっ! しっかりやりなさいっ!」


 森の女王は、木の精霊=ドライアドに命じて結界の入り口を開けさせる。結界に阻まれ侵入できずにいた魔物たちが一斉に雪崩れ込んでくる。


「――アエテルニタス、今回は100匹くらい引き入れよっ! 簡単に屠ってやるわいっ!」


 

 都合36回目――


 結界を上手く利用してダンジョンに引き込む数を調整しながら、魔物を掃討した回数である。

 さすが、元々、長命種の王を務めていた実力者が3人も揃うと、不意でもつかれて数で圧倒されなければしっかりと対処していた。


 しかし、それでも終わりの見えない魔物の攻撃に、負傷した身体で戦闘を繰り返す戦士2人には疲労の色が見え始めていた。

 それ故の森の女王の戦闘への参加であったわけだが、やはり結界の調節をしなくてはならない森の女王の魔力は温存するべきなのだ。


 

( ……ったく、ヒルコの奴、本気で私たちを始末しようっていうの? 仲間とも家族とも言っていたのに、どうしたっていうのよ…… 。)


 森の女王は、【試練】のプロジェクト作りに奔走し、ウカや仲間の使徒と語り合い、笑い合った日々を思い出してため息をついた。

 あの充実していた日々――素晴らしい時間を過ごした日々に、嘘は無かったはず――なのに、ヒルコは……。


 

 棍棒を振り回しながら、魔物の群れを蹴散らす鬼神王と、先程のアエテルニタスに対抗して、土の精霊王、ベヒモスを召喚して魔物たちに突進させるドワーフ王の背中を見ながら、森の女王はもう一度深くため息をついた―

みなさん、評価やコメントなど、ぜひぜひよろしくお願いします!

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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