ぼっちの王様たちの怒り③
ピーーーーッ!
お互いの無事を確かめ合い、今後について話し合いを始めようとした矢先、北のダンジョン、インジブル=シーラの使徒の部屋の中に、大きな機械音が響いた。
「……あら、どうやら此処にも侵入者がやってきたようね。」
「なんと、一番仲のよかったお前さんにも攻撃を仕掛けるってのか!?」
「……何はともあれ、ここまで落とされては堪らん。ここのウカ様の魔力核は何としても守り抜かなくてはの。」
「大丈夫よ、ここは。」
武器を持って立ちあがろうとした時、森の女王は落ち着いた仕草で2人を制した。
「どういう事じゃ?」
「どうって、何というか……、まぁ、このダンジョンの入り口を外界から切り離したのよ。」
「――なんと、そんな事ができるのか?」
「まぁ、切り離したと言っても、物理的にでは無いわよ。木の精霊=ドライアドの力で、結界を張ってあるの。その結界に誰かが触れた合図が、さっきの警戒音ってわけ。」
「……なんと……。しかし、ワシらや冒険者たちはダンジョンに入れたではないか?」
「それは、私がダンジョンに入る相手を選んでるんですもの。あなたたちを追い返すわけないじゃない。」
木の精霊=ドライアドとは、森の中にテリトリーを作り出し、方向感覚を麻痺させる力を持つ。そして、疲れ果てた侵入者を森に取り込み、森の栄養にして森を育てるという。
「木の精霊=ドライアドの力とは、それほどまでに強いものなのか。」
「まぁね、テリトリーの中であればだけど。しかも、本人たちは攻撃する力があるわけでは無いから、強いというのは違うかもね。」
あくまで森を彷徨わせる能力である為、直接、侵入してきた魔物の大群を始末できるわけではないため、持久戦という事になるようだ。
こちらはただただ、相手が諦めるのを待つ。
しかし、これはこれで、なかなか精神的な負担が大きい戦術である。なにしろ、常に敵の攻撃によって結界を破られるかもしれない不安と戦わなくてはならないのだから。
「ゴブリンやコボルト、オーク程度の魔物なんでしょ? なら、木の精霊の結界を破ることなんて、絶対にできないわよ。2人とも、安心して。」
そう宣言する森の女王に向けて、まだ手当もそこそこである鬼神王が、先に立ち上がったドワーフ王に手を借りて立ち上がった。
「アエテルニタスよ……。魔物の大群を舐めたら痛い目にあうぞ――」
「なに? 木の精霊の結果だけじゃ、頼りないとでも言うわけ? 」
「……あぁ、あ奴ら、一匹一匹は大した事はない。しかし、とんでもない数なんじゃ。そうでなければ、ワシらだってそう簡単にはダンジョンを落とされたりせんわい……。」
「――大群って……。まだよく話を聞いていなかったけど、そんなに多いの?」
傷だらけの2人の王は、しっかりと自分の得物を握りしめて頷く。
「……あぁ、あ奴ら、一番後ろが見えない程の魔物の列じゃった……。とてもじゃないが、数なぞ数えきれんほどのな。」
「木の精霊の結界……。どの位の数入れるもんかの? まさか、無限ていう事はあるまい?」
「……そりゃ、この世の中、無限なんてありえないわ……。」
「「 ガハハっ!! 」」
鬼神王とドワーフ王の2人は、大きな声で笑い出す。それは、自分たちが言うようなピンチを迎えての悲壮感のカケラも感じさせない。
「アエテルニタスよ。ワシらをダンジョンの入り口に配置して、少しずつダンジョンの中に魔物を入れるがいい。ワシらで数を減らしてやろう。」
「そんな……、いくらあんた達が強くたって、その怪我した身体で耐えられる訳がないわ……。」
「おいおい、普段の性格の悪い性悪エルフのアエテルニタスはどこに行ったんじゃ? ワシらに気を遣って、ダンジョンに魔物の大群が雪崩れ込んでしまったら、それこそ始末に負えんぞ。ガハハっ!」
普段強気な森の女王が、急に悲しげな表情をした事に対して、豪快に笑いながら、ドワーフ王が軽口で馬鹿にする。
しかし、この状況でその軽口に対して反応出来るほど、森の女王の心は割り切れない。
「……アエテルニタスよ。ワシらにダンジョンを落とされた事に対する復讐の機会を与えてくれんか……。ヒルコの奴にギャフンと言わせてやらなくては、悔しくて大好きな酒すら不味くて叶わんのだ。なぁに、これでも、戦闘狂と呼ばれた赤鬼ギルよ。簡単にやられはせんわい!」
元から赤い顔をしている鬼神王であるが、気合いの入ったその顔は、ますます赤味を増しているように見える。
「……わかったわ。私も行く。あと、私の配下もね。ただ、私は結界の調整をしなきゃないから、積極的な援護はできない。戦いは任せるからね。」
「「 おうよ!! 」」
豊穣神ウカの使徒であり、元長命種の王達は、同じくウカの使徒であり、仲間であるはずの混沌王ヒルコが差し向けた魔物の大群との戦いに挑む。
すでにドワーフ王と鬼神王が管理していた2つのダンジョンは魔物の大群に襲われ、ダンジョンの魔力源である、ウカの核が奪われてしまった。
それをどういうつもりで行い、どういう使い方をしようというのかもわからない。だが――
「――もう、負けるわけには行かんからの――」
巨大な戦斧を持つ小柄な男と、幅広の長剣を持つ大柄な男。そして、絶世の美女ともいえる色白の女がその2人の後に続く。
北のダンジョンでの戦いの火蓋が降りようとしていた――
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