ぼっちの王様たちの怒り②
こめかみを抑えながら、声も出さずに絶句している森の女王を、いちおは気遣う仕草をみせながら、鬼神の王は落ち着いた声で話を続けた。
「……なんだ、やっぱり気づいておらなんだか……。」
ドワーフ王は、魔物の大群との戦いで負った左腕の傷をさすりながら、鬼神王に話の続きを促す。
「ワシらは俯瞰してお前たちを見ることができる関係だったからな。お前たちが近すぎて感じられなかった事も、ワシらには見えていたってことだろうよ。」
森の女王の表情は、先程の温かみを失い、まるで氷のように青白い。
「アエテルニタスよ。お前はヒルコと念話で話せたんだろぅ? あいつはお前に何も言わなかったのか?」
力なく首を横に振る森の女王。
「彼奴は……、ヒルコは何にでも姿を変えることができた。しかし、本当の姿は、形の無いスライム。声も出せなければ、強い力も無い。正直言って、ウカ様の使徒としては役立たずだと、事ある事にフェンリルやブラド、古竜たちに責められていたぞ。」
「――そんな……。だって、ヒルコと他の使徒たちが争っている所など、私は見たことない……。」
森の女王は、腰に手を当てながら、当時の仲間たちの関係を必死に思い出そうとしている。
「……なるほど、そう言われれば、ヒルコは喋れな
い分、周りから馬鹿にされても、文句も言えなかったからな。反抗している所が見れなければ、喧嘩もなにも、しているようには見えないじゃろうな。」
未だに納得できる記憶が出てこない森の女王に、ドワーフ王の言葉は強く突き刺さる。
「そういうこった。お前以外の使徒は、仲間だ、家族だと言いながら、ヒルコを自分たちより低い立場に置き、そんなヒルコを見て安心していたんだろうよ。誰でも自分をよく見せたいもんだからな。」
「……自分をよく見せたいって、誰に対して? 私たち使徒は、ウカ様の為に集まった仲間なのよ?」
「………。」
「ちょっと?」
沈黙に、森の女王は一瞬の苛立ちを覚えた。
「……だからよ。ウカ様に良く見られたかったんだろうよ。使徒同士、少しでもウカ様の役に立ってるってよ。きっと褒められたかったんだろう?」
森の女王には心当たりがなかった。全くと言ってそんな感情はなかったから。
どちらかといえば、プロジェクトの根幹についてはウカや月神が、その枝葉やしっかりとした運用方法についてはアエテルニタスが作り上げたようなものであり、他の使徒たちとは立ち位置が違っていたからだろうか。
しかし、他の使徒にしてみても、そんな風に功績を競うような雰囲気など無かった。ドワーフ王と鬼神王の気のせいでは無いのか?
「……ねぇ? やっぱり2人の気のせいじゃないの? 私には、みんなが功績を競い合っていたようには到底思えないの。」
「――!? 違う、違う。功績を競い合うなんて事では無い。」
鬼神王は、森の女王の言葉を否定した。
「単純に、ウカ様によく思われたい、というだけだったのだと思うぞ。なんというか、大好きな相手からは一番でいたい、とかそんな気持ちではないか?」
「 ………。」
「――お前さんにはわかるまいて。夢中になれる研究がある。」
「そうだな。誰もがお前のように他人からの評価よりも夢中になれるものがあれば、そんな風には考えないだろうな。」
「 ………。」
「おそらく……。みんな仲は良かった。フェンリルやブラド、古竜たちにも、ヒルコを虐めている気は全くないだろうよ。」
鬼神王はその太い腕を頭の上で組み、天井を見上げながらため息をつく。
「……ヒルコ自身にも、そんな感覚は無かったかもしれない。だって、仲間だ、家族だ、と喜んでみんなと一緒に頑張っていたからな。」
ドワーフ王も、ウンウンと腕を胸の前で組みながら、うんうんと頭を縦に降っている。
「つまり、誰もが無意識のうちに、弱い立場の者を作り上げて、自分だちが一番下では無いと、安心できる環境を作り上げていた、って事じゃな。」
ここまで話し、鬼神王はどかっとその場に仰向けに寝転がった。
「ワシらは少し遅れて使徒になったから、お前たちの仲間から少し距離があった。それだって、正直な話、ワシらはなんとなく疎外感を感じたものだぞ?」
「ガハハッ、そうじゃな。ワシらは何というか、同じ使徒でも、家族という感じではなかったな。」
「……そんな、ウカ様はそんな風には思っていなかった。それに私だって……。」
ここまで言って、森の女王はその後に続く言葉を飲み込んだ。だって、その言葉に対して、すっかり自信が持てなくなってしまったから。
「こうやってお互いに話ができ、理解し合う事もできるはずなのにな。しかも、あんなに仲の良い仲間同士。それなのに、そんな間柄も関係無しに、自分たちを比較してしまう。意思のある生き物の悲しいサガなのかもしれないな……。」
鬼神王は、そのまま目を瞑って話を終わらせる。
ドワーフ王も、鬼神王に倣ってその場に寝転んだ。この話について、これ以上話す事は辞めようという事なのだろう。
アエテルニタスは、青白い表情のまま、ただ一人でその場に立ち尽くした。そして、考える。
(……私は、私の一族の事だけではなく、せっかくできた親友や仲間の事でも、気づいてやれなかったのね……。)
アエテルニタスは、自分の不甲斐なさに、そして、仲間たちの馬鹿げた行動に、悲しみと怒りを感じていた――
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