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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
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ぼっちの王様たちの怒り①


「あら、こんなガラクタだらけの部屋に、続け様に2人もお客さんとは珍しいじゃない。」


 森の女王、アエテルニタスは、自分の管理する北のダンジョン、インジブルフーサに、旧知の友人が尋ねて来たことに対して、少し意地の悪い言葉を使って出迎えた。



「……ったく、口の悪い女じゃな。頭と口が別々に働くようじゃ。これだからエルフの女は性悪だと言われるんじゃよ。」


 先に到着しアエテルニタスに治療を受けていたのが、北西の【試練】のダンジョンの管理者であるドワーフ王ダンキル。

 小柄ではあるが、大戦斧を軽々と振り回す怪力の持ち主であり、また物作りに長けたドワーフという長命種族の元王様である。

 


「……はっは、お前さんも大概に口が悪いがな。」


 そして、遅れて到着し、今、アエテルニタスに嫌味を言われている男が、北東の【試練】のダンジョンの管理者、鬼神王ギル。


「――しかしな……。お前も来ているという事は、お前のダンジョンも落とされたか……。」


  

 やりきれない雰囲気が漂うが、そこは長い年月を生きてきた同士。達観した精神の持ち主たちは、自分たちの力の無さを嘆きながらも、それ以上の感情を露わにはしなかった。

 


「……ったく、なんて様だい。戦闘狂とも言われた鬼神族の王様が、そんな情けない顔してるんじゃないよ。それより、私が送った機械人形=ゴーレムはどうなったんだい? もしかして、魔物たちに壊された?」


 アエテルニタスは、わざとらしく話題を変えた。


 実際には、魔物の大群に襲われ、行方のわからなかった二人の友人が無事であったことに安堵したのだが、へんなプライドが邪魔をして、素直な気持ちを表に出せないでいるのだ。


「……すまんな。あの粘土人形、すっかりと壊されちまった……。」


 頭の角をさすりながら、申し訳なさそうに鬼神王が頭を下げる。それに対して、森の女王の返事より早く、ドワーフ王が豪快に笑いだした。


「――ガハハッ! お前のとこもか! まぁ、気にするな。ワシがもっと良いものを作ってやるわい。エルフの性悪の作った粘土細工よりも、もっと性能の良いものをな!! 」


「――何言ってるのよ。私よりも良い物を作るですって? まったく身の程知らずの炭鉱人には呆れるわ。」


 ドワーフ王の宣言に反応して、悪口の応酬に乗り出した森の女王。しかし、その顔は笑顔だった。



「――ま、二人とも、とりあえずは五体満足。無事でよかったわ――」



           ♢



「……うむ。ワシが此処に辿り着くまでの途中、東側の街道沿いの村は、全て魔物たちに破壊し尽くされていたわい。」


「西側の街道沿いの村々もじゃ。道すがら、村の様子を見ながら歩いてきたが、どこの村も酷い有様じゃったわ。」


「……てことは、二人の話を総合すると、この国の北側には、人の住む街や村は、このフーサタウンだけってことになるわね……。」


 かつての王と女王が、今回の惨劇の被害を整理している。

 3人が話せば話すほど、今回起きた魔物の大群によるダンジョン襲撃は、その周辺の村にまで影響を及ぼし、悲しい程の犠牲を出した事がわかる。

 

「……しかし……、魔物の大群を操っているのが、ヒルコというのは本当なのか? ワシには信じられんのじゃか……。」


 ドワーフ王の言葉に、鬼神王が頷く。



「まぁ、私だって信じられないさ。でも、フェンリルが言うには、あの狐憑きの連中からは、ヒルコの匂いがプンプンするそうだよ。」


 森の女王は、表情を変えずに淡々と答えた。

 こんな時、絶世の美女とも謳われるエルフの女王は、その美しさ故か、逆に冷酷な印象を受ける。

 

「プラドの遣いによれば、狐憑きをアイツの血操術で眷属にした際、狐憑きの中にヒルコの分身と思われるスライムが入り込んでいたらしい。」


 森の女王の説明に、2人の王が深く溜め息をつく。



「……アエテルニタスよ、お前さんの見立ても、ヒルコの仕業だってことじゃろ?」


「……えぇ……。ただ、なんであの子がこんな事をやり出したのかは、正直わからないわ……。」


「ふんっ、悪人の気持ちなんぞ、わかるわけがなかろうよ。」


「……だが、わかってやれなかった事が、ヒルコを暴走させたのかもしれんぞ?」


「……どういう意味?」


「そのまんまだよ。ワシ達2人はだいぶ後からウカ様の手伝いをし始めたが、アエテルニタス、フェンリル、ブラド、ゴズ、そしてヒルコはかなり早いうちからウカ様の使徒となっていただろ?」


 森の女王は深く頷いた。

 鬼神の王からどんな話が聞かされるのか、正直な話、検討がつかなかった。


「お前さん達は、まぁ、ワシ等から見ても仲良く見えたよ。後から加わったワシ達には、それが羨ましくも感じられたもんさ。」


 鬼神王の言葉に、まさか自分たちがそんな風に思われていたとは、と、森の女王は驚きを隠せなかった。


「――私たちは、使徒の間に差など作ってはいなかったと思うが……。」


「ガハハッ、別に責めたりしてる訳じゃない。ただ、お前さん達が仲が良かったと言っているだけだよ。」


 鬼神王はまた豪快に笑うと、ドワーフ王もそれに続いて大きな声で笑った。


「確かにの。ワシらはどちらかと言えば、別のグループって感じだったな。」


「……そんな!?」


「だから、責めてる訳ではないと言っているだろう。ワシらも別に気にしていた訳じゃない。」


 森の女王は顔を顰めた。先程の冷たい表情が、今度は悲しげな表情へと変わっている。



「性悪エルフも、意外と表情豊かじゃの。まぁ、気にするな。本当にワシらは気にしていた訳じゃない。」


 ドワーフ王の気遣いに、森の女王もひとつ小さな溜め息をつく。


「まさか、ガサツなドワーフに気を遣われるとわね。フフッ――」


 森の女王の精一杯の強がりに、普段強面の2人の王がまた豪快に笑い始め、それに合わせて森の女王も笑いだした。


「――まあ、その話は終わりにしよう。それよりもじゃ、ギル。早くヒルコの気持ちって話の先を聞かせろ。アエテルニタスが困っているじゃろ。」


「――あぁ、すまん。それなんだが。アエテルニタス、お前はヒルコと特別仲が良かっただろ?気づかなかったか?」


「…………。」


「あいつ、いつも他の使徒から馬鹿にされていたんだぞ。」


「――!?」



 突然の鬼神王の告白は、森の女王は金槌で頭を殴られたような衝撃だった――


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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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