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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
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狐憑き⑥


 ギャッ!

 ギャッ、ギャッ!


 魔物の声が響き渡り、狐の仮面を被った少女が杖である方向を指し示している。魔物たちは少女を追い越して、次々とその先にあるダンジョンへと殺到していく。


 どこから集まったのか、ダンジョン前の広場を埋め尽くす魔物たち。彼らが街の中心にある広場に殺到しているという事は、そこまでにいたはずのこの街の住人は、すでに逃げ出したから、それとも魔物に蹂躙されたのか。


 街を守るべき兵士の姿もなく、侵入を許した街の入り口には、後ろなど見えないほどに魔物が列を成している。


 スタンピート――


 どこかで爆発的に増えた魔物が溢れだし、その溢れ出した魔物がこの街を襲ったのか。まるで全ての物を食べ尽くす蝗害かのように、あっという間に街を埋め尽くしていく。


 魔物が押し寄せた街の入り口とは反対側からは、なんとか魔物の被害を免れた街の住民が逃げ出しいた。


 何故か魔物たちは、逃げ出す住人を追いかける事はせず、ダンジョンの中へと殺到していく。おかげで街の半分の住人は逃げ出す事に成功するが、恐怖にかられた住人たちは、ただひたすらに国の首都を目指し走り続けた。


 そうなれば、自然と弱い女や子供、年寄りが後方に取り残される。すると、それまでダンジョンしか見ていなかった魔物の中から、一部の魔物が離脱し、取り残された弱者を蹂躙し始める。


 弱いものを守るべき男たちは、吾先に逃げ出し、その場に残された者たちは、必死にその身を守ろうと足掻き続けた。しかし、


 その景色はまさに地獄。


 なす術もなく、ぐちゃぐちゃに、ボロボロに、元の姿など想像できない肉の塊が転がり、辺り一帯はドス黒い血が地面を覆っていく。


 この日、一晩のうちに一つの街が魔物の大群に襲われ、壊滅した――



           ♢

 


「――おいおい! ダンキルの所もやられたって!?」


 届けられたドワーフ王ダンキルの守る『試練』のダンジョンが魔物に占領されたという情報に、氷狼は激怒した。


 つい先日、鬼神王ギルの守る北東の『試練』のダンジョンが魔物に占領され、街ごと壊滅したばかりなのだ。


 この短期間に、二つのダンジョンと街が滅ぼされるとは、全く予想していなかった。


 最初にできた5つのダンジョン。そこに、やや遅れて作られた2つのダンジョンを含め、この国には7つのダンジョンが存在する。

 首都を中心に6方向に位置するそれぞれのダンジョンの周りには街が自然と出来上がり、どこの街にも様々な種族の人々が住み着いていた。


 そんな7つの【試練】のダンジョンが次々に謎の襲撃を受け、使徒たちはその対処に追われていたのだが、北、南東、南、南西のダンジョンには、狐憑きの少女の襲撃のみであり、魔物の大群の従来などは起こらなかったのだ。



 滅ぼされたというダンジョンを管理していたドワーフ王と鬼神王、いずれもかなりの実力を持つ使徒である。狐憑きの少女だけなら、難なく退けたに違いない。


 しかし、現実には、魔物の大群による圧倒的な物量攻撃により、ヒルコの攻撃に屈してしまった。



「……ったく、ヒルコの馬鹿スライム、何してくれてるんだ!? 何を考えているんだよっ!」


 氷狼は、その鋭い牙をギリギリと噛み締める。

 そんな怒りに震える氷狼の前に、無表情な粘土人形が仁王立ちしながら、静かに情報を整理していく。


「……ガガッ……、これで国の北側は私のいるインジブルシーラだけになったね〜……。こりゃ、私も気をつけないと……。」


 森の女王は、人形の向こう側で、次々と起こった狐憑き……、いや、ヒルコの襲撃について考えていた。


(……私たち使徒はダンジョンに縛られてお互いに直接会うには街と街の中間点に出向くしかない。しかも、その場所を考えれば、1対1でしか会えない事になる……。)


 この国は、首都を中心に、北、南、北東、南東、北西、南西と6つのダンジョンが配置された。

 使徒は全員、ウカの魔力核と一緒にダンジョンに封印されている為、自由に動けない。だから、森の女王は、通信用に機械人形=ゴーレムを他の使徒の所へ送りつけたのだ。


 やっと三体目が完成し、レッチェアームに送った所だというのに、最初の二体を送った北東と北西のダンジョンは魔物の大群に潰されてしまった。


 幸い管理者であるドワーフ王と鬼神王は命は助かったようだが、自分たちが紐付けられていたウカの魔力核は壊されてしまったようだ。


 

「――しっかし、お前、よくこんな情報手に入れられたな。お前さんの技術力には、ほんと、感服するぜ。」

 

 なんせ、この情報は、機械人形を通して森の女王が直接手に入れた情報なのだ。だが、その二箇所に送った機械人形は、魔物たちによって壊されてしまっている。


「……ガガッ……、でも送り込んだ機械人形は、どちらも壊されたさね……。まったく、あんなに苦労して作り上げたってのに、ヒルコの奴、会ったらぶん殴ってやらないと……。」


 そこまで言って、森の女王はふと考えた。



何故、私の所には魔物の大群を送らない――

 


 氷狼の所もそうだ。嘆きの妖精の話からすれば、吸血鬼王の所にも魔物の大軍は送られてはいない。

 魔物の大群が送られたダンジョンと、送られなかったダンジョン。何か差があるのだろうか。


 ドワーフ王と鬼神王。この2人は最後に仲間になった使徒だ。故に、それほど付き合いは無かったが、ウカの魔力核化の罰を受ける際には、彼女に殉じた忠誠心の高い使徒である。


 今回、魔物の襲撃によってかなりの深傷を負ったようだが、魔力核が破壊された事により、その身に施された呪いから解放される事だろう。

 であるならば、彼らはこの後、どうするのだろうか。ダンジョンという目印が無くなってしまえば、彼らからコンタクトが無い限り、連絡の取りようもない。


 森の女王は、もう一度深く溜め息をついた。



(……まぁ、自分たちの守るべき対象が無くなったんだ。あとは、それぞれで役割……、いや、やる事を見つけないとね。)


 一瞬、羨ましい気持ちが頭を過ってしまった自分に舌打ちする。何を羨ましがっているんだと――





みなさん、評価やコメントなど、ぜひぜひよろしくお願いします!

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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