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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
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狐憑き④


「……ガガッ……っていうことなの。どぉ、この至高の創作。あなたにもわかってもらえたかしら?」


 しばらく話続けた粘土人形だったが、やっと一段落つく。ほとんど右から左へと聞き流していた氷狼であったが、話の途中、とても気になる部分があった。



「……なぁ、アエテルニタス。途中、お前の話にあった、ウカ様を封印から解き放つ為にその粘土人形……、いや、機械人形=ゴーレムだったか? そいつを作り上げたって話、もっと詳しく教えてくれよ。」


 そう、彼女が機械人形という高度な技術を開発するきっかけ。それは、氷狼にとって望むべくもない、全く諦めてしまっていた事をしようというものだった。



「……ガガッ……、ん? なになに? 機械人形についてもっと知りたいって?」


「いや、だから、機械人形を作ろうと思ったきっかけの話だって……。ウカ様を封印から解き放つ為とかなんとか……。出来るのか? そんな事。」


 再び機会人形の原理について話し始めようとする森の女王の話を遮り、氷狼は無理やり話を戻させた。


「……ガガッ……、あぁ、その話……。」



 アエテルニタスが、この機械人形=ゴーレムを作る目的。それは、最終的に魔力源として封印されている狐神ウカの魂を、その魔力は核に残したまま、機械人形に移し、自由に活動できるようにしてあげたいというものであった。


「……ガガッ……、だって可哀想じゃない。ウカ様だけ、誰とも話す事もできず、ただ魔力源として『試練』のダンジョンの維持するだけの存在にされてるのよ? せめて私たち仲間と自由に話ができたら、ウカ様だって嬉しいでしょ?」


 あくまでも『試練』のダンジョンはきちんと維持しつつ、狐神ウカの現し身を創って彼女を自由にさせてあげたい。

 ウカと一緒に『試練』ダンジョンのシステムを考えた森の女王らしく、そのシステムの維持に関しては手を抜かず、あくまでウカの精神を自由にしてやろうという発想に、氷狼は驚いたのだ。



「……単純にウカ様の封印を解いちまえば、『試練』のダンジョンの維持は出来なくなっちまう。だが、お前さんが言うように、精神だけを機械人形に移してやる事が出来れば、ダンジョンは維持しつつ、ウカ様にある程度自由に活動させてあげられるって事か……。」


 氷狼も、狐神ウカの想いはわかっている。いや、封印間際にわからされてしまった。

 あの女神は、自らダンジョンの魔力源として封印される事を望んだのだ。


 それは、氷狼たち使徒たちにとって、とても受け入れられるものでは無かったが、世界を救いたいという女神の希望に、最終的に反対する事は出来なかった。


「……ガガッ……、だって可哀想じゃない! あんなに若い子……。」


 狐神ウカは、まだまだ若い女神であった。

 これからの世界を支えるべき一柱。

 そんな若い女神様が、自らの将来を捨て、世界を停滞から救う為に封印される道を選んだのだ。


「……ガガッ……、いくら神とはいえ、やりたい事だって色々とあったでしょうに……。それなのに、ダンジョンの魔力源として封印され、誰かと話す事さえできないのよ? せめて、楽しく笑わせてあげたいじゃない……。」


 粘土人形が一瞬、顔の部分を手で覆った。


「……ガガッ……、たとえ機械人形=ゴーレムという仮初の身体だとしても、ね。」


 

 粘土人形の話を聞いて、氷狼は急に恥ずかしくなった。


 勝手にその身を自ら魔力源として封印される事を望んだ狐神ウカに対して怒り、そしてそうせざるを得なかった女神の立場を哀れんではいたが、森の女王のように、彼女に仮初の身体を用意してやろうなどという発想は考える事もしなかった。

 


(……ちっ、俺はいつもそうだ。考えがいつもたりねぇ……。こんな俺だから、敬愛していた女神も、王として導かなくてはならなかった神獣族の民たちも、救うことができなかった……。)


 新しい発想を持ち、そして実行する行動力。

 そんな力が自分にあれば、今とは違った未来を描けていたかもしれない……。

 自分の無力さに、どうしようもない悔しさを感じてしまう氷狼であった――



           ♢



 分裂して、変化して、分裂して、変化して――


 朦朧とした意識の中で、ヒルコは何故自分がこんな事をしているのか、なんでこんな事を始めたのかをずっと考えていた。


 確か初めは……。



 もともとは、太陽神の希望を叶える為、狐神の身体を乗っ取り、悪なる神として目立つ行動をとろうとしたんだっけ?


 でも、いざ狐神の身体を取り込んで、自らを悪なる神ウカとしようとした時、流れ込んできたウカの心の声を聞いて、躊躇いが生まれたんだ。


 「寂しい……。」

 「悲しい……。」


 そんな気持ちまで取り込んでしまったから、ただでさえ、同じ気持ちを抱えていた僕の心は、ますます寂しさと悲しみが膨れ上がってしまったんだ。


 可哀想な狐神。


 可哀想な自分。


 あれ、自分は狐神? 

 

 あれ、自分は自分?


 あれ、自分てなんだっけ?


 膨れ上がるのは、そんな負の感情ばかり。

 どうしようもなくて、分裂を繰り返す。

 

 悪なる神として行動しなくては――いや、移し身として自由を与えてあげれば彼女の寂しさも減らしてあげられるのでは――いやいや、太陽神の為に行動しないと――でも、狐神が可哀想――



 分裂し、同じ存在でありながら、違う考えを述べる自分。何が一番やりたくて、何を一番やらなくてはならないのか、ヒルコはよくわからなくなっていた……。

 


みなさん、評価やコメントなど、ぜひぜひよろしくお願いします!

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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