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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
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狐憑き②


           ♢



〈……フェンリルサマ、オウサマカラオテガミヲアズカッテキマシタ……。〉


 少女たちが被っていた狐の仮面を手に取り、胡座をかいて座り込んでいた氷狼の前に、今度は嘆きの妖精=バンシーが現れる。

 先ほど仮面を破壊した少女3人は、近くに並べて寝かせてある。身動き一つしないが、呼吸はしているようだ。



「……なんだぁ? ブラドの所の嘆きの妖精じゃねぇか。ブラドが手紙をよこすなんざ、どういう事だ? もしかして、そっちでもヒルコが悪さしてるとかか?」


 嘆きの妖精から手紙を受け取りながら、精霊相手に悪態をつく。悪いと思いながらも、どうにも腹の虫が治らない。つい、八つ当たりのようになってしまった。


〈……ワタシハヨクワカラナイデス。〉



 チッ、と思わず舌打ちをして、自分の態度の悪さを反省する。


「……悪かったな、バンシー。つい、お前にあたっちまった。許してくれ……。」


 手紙を届けに来た嘆きの妖精=バンシーは、精霊の中では珍しく、しっかりと言葉を話すことができる。しかも、魔物ではなく、精霊であるという点で、【試練】のダンジョンに縛られている使徒や魔物と違い、ダンジョンから離れて活動できるのだ。

 

 だが、精霊単体で活動する為には、何かしらの魔力供給が必要になるので、遠く離れた西のダンジョンから、この東のダンジョンまで来るには、かなり大変な工程を経なくてはならない。


 

「……それにしても、よくこちらまで来れたな? 大変だっただろ?」


 改めて、嘆きの妖精を労いながら、渡された手紙に目を通す。


〈……トチュウマデオウサマニオクッテモライマシタ。ソノアトハ、アタラシクナカマニシタ、オウサマノケンゾクニツレテキテモライマシタデス……〉

 


――眷族?



 聞き慣れない単語を不思議に思いながら、氷狼は、手紙に書かれている内容を読んで納得した。



「……そうか……。ブラドの所にも狐の仮面が現れたのか。」


 吸血鬼王からの手紙には、狐の仮面を被り、巫女姿の少女の5人組みに襲われ、撃退したこと。そして、少女等を救うために、吸血鬼王の血の因子を流し込む事により、自分の眷属にしたこと。そうしなければ、ヒルコの支配により自由を無くした少女を救うことは難しいという事が記されていた。



「……まぁ、その辺りはアイツの得意分野だからな……。なら、俺にも同じ事ができるか……。」


 そう呟き、氷狼は徐に寝かしてある3人の少女たちの首に噛み付く。ヒルコに支配され、操られているだけならば、なんとか助けてやるべきだろう。ただ、自分の眷属として、人では無い存在として生かされる事を本人たちが受け入れられるかはわからないが……。



「――ところで、お前の所の王様は、他に何か言ってなかったか?」


 手紙には、ある程度の経緯が書かれているだけで、これからの事については書かれていない。

 もしも、ヒルコがすべての使徒に対して敵対行動を取っているとしたら、何かしらの対策を考えなくてはならないだろう。何故、ヒルコがこんな事をし始めたのかについても、その理由も何とかして知りたい。



(……ったく、なんだっていうんだ……。)



 あれほど、ウカ様や、その仲間である使徒たちと仲の良かったヒルコが、なんの理由もなくこんな事をするなんて、信じられない。


(……まぁ、醜いだの、喋れないだの、あいつを散々馬鹿にした俺だ。もしかしたら、実は俺の事を恨んでいたのかもしんねぇな……。)



 口の悪い氷狼の悪い癖――つい、気を許した相手に強く当たっちまう――のせいで、墓穴を掘る事が多い。気をつけなくてはと思いつつ、つい、相手が嫌がっている事に気が付かないのだ。


(……口は災いの素って、やっちまった俺が、笑ってらんねえな。)


 反省してる。しかし、起こってしまった事は、もうどうしようもない。

 これから、どうするかを考えなくては。



「……とりあえず、ヒルコに会いたい所だが……。」


 ダンジョンに縛られて動けない者同士。

 伝言ゲームの繰り返しでは、きっと解決する事は難しい。だって――



(――お互い言いたい事を言い合って、アイツの本音をちゃんと聞いて……、そんで俺からもちゃんと謝らなきゃだよな……。)


 氷狼はまたその場に胡座をかいて座り直す。

 そして腕組みをして、天井を見上げながら、深く溜め息をついた――




           ♢



……あぁ、僕は何がしたかったのだろう……



 狐神に取り憑き、形の無かった自分の姿は、狐神そのものになっている。

 今は、いつも自信が持てなかった自分自身だったが、狐神の姿を型取り、無形の混沌と呼ばれたスライムでは無い。

 しかし、この姿は、家族である、いや、家族になりたかった太陽神にとって忌むべき姿である。この狐神を型取った姿を太陽神が見れば、どんな顔をするかも想像がつく。


 それなのに、ヒルコは今、狐神を取り込み、狐神の姿になっている……。



……あぁ、なんで僕はこんな事をしているんだろうか……


 ヒルコは、朦朧と自問自答を繰り返す――

 

 

 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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