歴史の変遷
世界に散らばった5つのダンジョン――
北の街、シーラタウンに作られたダンジョン=インビジブルシーラ。
「盲目の少女」との異名を付けられたこのダンジョンを管理するのは、森の女王、ハイエルフのアエテルニタス。
彼女は、その知性を活かし、『試練』のダンジョンのコンセプトから運営のノウハウに至るまで、狐神ウカと共に作り上げた。
そして、狐神の頭部の封印されたこのダンジョンは、昆虫や植物の系統の魔物を使い、生きる糧と成長の糧を求めてやってくる冒険者たちの相手をしている……、いや、魔物に相手をさせている。
狐神と出会うずっとずっと前から現在に至るまで、彼女の様々な研究への情熱は消えることがない。
現在、長い間続けているのが、機械人形=ゴーレムの研究。美人であるが、そのポーカーフェイスの表情のせいで冷たい印象を持たれやすいアエテルニタスであるが、いつか、機械人形が完成した暁には、封印されている狐神の精神だけでも助けてあげたい、柄じゃ無いと、自分で自分を笑いながら研究を続けている――
東の街リンカータウンに作られたダンジョン=リンカーアーム。
「魂をつかんで離さない右手」と恐ろしい二つ名を持つこのダンジョンは、新獣王、氷狼フェンリルによって管理されている。
狐神の右腕が封印され、魂の輪廻の入り口とも言えるこの場所には、月神の施した経験値の蓄積の仕組みも組み込まれている。
義侠心に厚い氷狼の狐神への忠誠心は高く、その太々しい態度と裏腹に、人物像はとても誠実である。
神獣から退化し、獣と化したかつての仲間たちの辛い姿を思い出しながら、動物系の魔物たちを率いて、自らもダンジョンに挑むたくさんの冒険者と対峙してきた。
家畜のように、ただ育てられ殺されるだけの存在ほど虚しく、悲しい存在はない。自分の意思で戦い、自分の意思で死んでいく。自由に挑戦できることこそが成長を促す。それは、仲間たちの退化を止められなかった自分自身への戒め。
狐神の目指した、チャレンジを繰り返し成長していく世界を守り、今世に生きる全ての存在が後ろ向きにならないよう、ダンジョンの内外構わず、動き続けている――
南の街フーサタウンに作られたダンジョン=ファーマスフーサ。
「動かない両足」という不思議な異名は、このダンジョンを管理する古竜王、エンシェントドラゴンのゴズたち、4大竜のその在り方から想起されたものである。
彼らは、「試練」のプロジェクトの初期から、人々の成長の為に、大きな試練の対象として挑戦を受け続けた。巨大な体躯。絶大な力。その絶対的な存在感が、狐神の両脚を封印されたダンジョンにて、不動の4大竜の伝説を作り上げる。
最強種。まさに、その名に恥じぬ力を持つ彼らは、竜王として振る舞い、ダンジョンの中に下級ドラゴンを闊歩させ、また竜を崇める種族から信仰の対象として在り続けた。
エンシェントドラゴンと呼ばれる彼らは、古の神の時代から存在している。自分たちの力量を試し、さらに力を伸ばしながら、狐神の考えをしっかりと実現し続けていく――
西の街レッチェタウンに作られたダンジョン=レッチェアーム。
「魂を捧げる左手」と云われ、魂の輪廻の出口とされるこのダンジョンを管理するのは、吸血鬼王、ヴァンパイアロードのブラド。
不死者である彼は、やはり不死者=アンデット系の魔物たちをダンジョン内に放ち、このダンジョンの攻略には特殊な能力が必要とされている。
人の成長には、様々な経験が必要。そんな狐神と森の女王の提案に、自らの特性を活かした方法で応えた彼に、狐神はとても感謝した。
吸血鬼王は、素直で頑張り屋の狐神が、悪なる神などと、とんでもない忌み名に変えられてしまい、今もなお、蔑まれている事実を悲しみ続けた。
そして、本当の事を知らない、知ろうとしない人々に、怒りを持って対応し続けた。
彼女の名誉をどうにかして回復してあげられないかと、その事ばかりを考え、自分の所まで冒険者たちを引き込み、彼らの考えを正そうとした。
しかし、何度説得しようと、悪なる神ウカという歴史を正すことは叶わない。ほとんどの冒険者が、吸血鬼王の言葉に耳を貸すことなど無かったのだ。
いつからから、吸血鬼王も諦めの気持ちが強くなり、徐々にヤル気を失っていく。ただ、敬愛する狐神の名誉を傷つける者に対する怒りだけを強く残しながら――
首都キャピタル・ヘルツに作られたダンジョン=ヘルツ・プロイベーレ。
「止まった心臓」との異名は、悪なる神ウカの身体が封印され、もっとも重要なダンジョンとされている事からそう呼ばれるようになった。
このダンジョンを管理するのは、混沌王、カオススライムのヒルコ。
狐神に仕えた使徒の中でも、とりわけ謎に満ちた存在。一番最初に狐神の考えに共感し、手伝いを始めたカオススライムと呼ばれる存在。
彼には率いる種族もなく、ただ単一に、独りで存在していたが、その分身体を使ってダンジョン内を満たしていた。
魔力源である狐神の力を利用し、自らを無限に増殖させるその行為は、やがて自らの意思を分散させすぎる弊害を伴った。自らは言葉を発せず、自由自在に姿形を帰る無形の混沌。いつからか他の使徒たちへの嫌がらせともとれる行動を取るようになる。
その行動は、自らの一番根っこにあった太陽神への家族愛を求め、太陽神の希望を叶えることへの執着ばかりが先立つようになっていった。
(……テラ、僕の家族……、いつになったら、僕を家族として呼び戻してくれるの? あぁ、そうだね、君を悲しませた狐神と、その使徒たちをもっと悪なる存在に落とし、君をもっと善なる存在として輝かせてからだったね……。)
自ら分裂を繰り返し、かつては敬愛していた狐神への感情も希薄になる。
今は、ただただ、太陽神の為に――
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