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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
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白を黒に染め上げる


 遥か昔、善なる神々と悪なる神による激しい戦いがあった。


 善なる神々は、なんとか悪なる神に勝利はしたが、その身体を消滅させることまではできなかった。 


 そこで、悪なる神の身体に厳重に封印を施すことにより、地上の生きとし生けるものに影響がでないようにした。


 しかし、封印されてもなお、悪なる神の力は衰えず、封印されたにも関わらず、悪なる神の身体から魔力が溢れ続け、その魔力から凶悪な魔物が発生し続けた。


 そこで、善なる神々は、さらに封印を強める事によって、その影響を抑えようと考える。


 この土地に五つのダンジョンを作り、その中に悪なる神の身体を分散して封じ込めることによって、地上に悪なる神の力が漏れ及ばないようにしたのだ。


 ダンジョン深くに封印された悪なる神の身体からは、その後も魔物が生まれ続けたが、ダンジョンに施された封印により、魔物たちはダンジョンから地上へ出ることは出来なかった。


 こうして、地上にはすでに溢れ出てしまっていた魔物以外には魔物は存在せず、人々はこの大地でなんとか暮らせるようになったのだと伝えられている――



           ♢



 長い長い時が過ぎ行き、本来の歴史の始まりを知るものは、その始まりの当事者たちだけ。


 狐神ウカは、その名を悪なる神として貶められ、その身を削って作り出される、試練のための魔物たちは、ただ悪なる存在として、成長を望む人々の糧となり続けた。


 五つの核に分散して封印されたウカは、その身の魔力を人々の欲を満たす為に放出し続けている。


 その核の傍には、ウカと共に封印された使徒たちが、その核を守り続け、ダンジョンを維持するために奔走を続けた。


 ある者は、その核に封印された女神の境遇を哀れみ続け――


 ある者は、その核に封印された女神の志しを恒久なものにしようとし続け――


 ある者は、その核に封印された女神をなんとか復活させようと奔走し続け――


 ある者は、その核に封印された女神の名誉をなんとか回復させようとし続けた――


 そして――ある者は、その核に封印された女神を、自らの身体に取り込み、無形のその身に確固たる造形を求めた――



           ♢



「――私を助けたいというなら、私の為に悪にでもなってみてよ! 」


 太陽神の悲痛な叫びが、ヒルコの心を揺さぶる。

 ヒルコの行動の原点。

 いつだって、太陽神の役に立ちたかった――、



「――私が悪なる存在にならないように、私の代わりにあなたが悪なる存在になってよ! 」


 無茶苦茶な話しだ……。

 彼女が話していた内容からでは、全く繋がらない話になってしまっている。

 ヒルコが悪なる存在になったからといって、太陽神がそうはならないというのは、全く馬鹿げた話であるのだから。

 

 しかし、ここでヒルコの心を支配する、キラーワードが太陽神の口から飛び出した。



「――あなたがそうしてくれるなら、私はあなたを親とも、兄妹とも、家族とも呼ぶわ。あなたを認めてあげる! もちろん、ヨミにも、スサにも、あなたを紹介するわ。そうすれば、家族みんなで笑いあえるでしょ? 」


 ヒルコが一番欲しかった言葉――。

 それが、例え悪なる行為だったとしても、願い続けた家族の一員となれる喜びには、抗えない。

 

 ウカの事は、勿論尊敬している。

 本心から、彼女の為に働いてきたのだ。

 だがしかし……、その根幹には、『太陽神の為』という気持ちがあり続けていた。



( ……わかったよ。僕は、君のために生きよう。)


 

           ♢



 「――さぁ、狐神を魔力核化し、5つあるダンジョンに封印しなさい! その役目は、随行する狐神の使徒達に命じます! 北のダンジョンには森の女王、東のダンジョンには神獣王、南のダンジョンには古竜王、西のダンジョンには吸血鬼王、中央のダンジョンには混沌王。この配置で行います! 」


 紆余曲折、『試練』のダンジョンは遂に完成し、『楽』プロジェクトから始まっている負の流れを止める事に成功しつつある。

 しかし、最終的に太陽神による理不尽な採決が行われ、狐神ウカはダンジョンの魔力源として封印される事になってしまった。


 太陽神が狐神に言い放った、「善なる神が、悪なる者を作り出す矛盾」に対する答え――ウカにとっては、我が身を悪なる存在の源とする事で、その罪悪感から解放されようとした――が、まさにこの提案を受け入れる事だったのだ。


 狐神は、この真意を月神にも、仲間の使徒たちにも、勿論、太陽神にも伝えていない。

 


 太陽神から散々受けた嫌がらせに対しては、自分の行ったプロジェクトのおかげで世の中が動き出したと皆から感謝、賞賛された事で、自らの間違いを最後まで認めなかった太陽神に意趣返しできたと、狐神は心の中では笑っていた。



「――ふふっ、いじめっ子にやり返してやった気分。負けたけど、自分の中では勝ちって感じ。いじめられっ子の意地なんだから。」


 その後の顛末を考えれば、狐神の意趣返しなんて些細な物と言えてしまうだろう。


 悪なる神と歴史に名を刻まれ、世の中を停滞から救った大功労者にも関わらず、太陽神たち善なる神々に封印された事にされてしまうのだ。

 本来なら、いつまでまでも賞賛されるべきなはずなのに、狐神ウカは、完全に悪とみなされる。


 歴史とは勝者の歴史、とよく言われるが、まさにその言葉が当てはまる。狐神は、やはり太陽神という強大な相手に、すっかりと敗者になってしまった。



 しかし、太陽神の心には、いつまでも悔しさとして残り続けていく。小さな棘でも、抜けない小さな棘は、常に痛みを残し、何かキッカケがある毎にその痛みを思い出す……。


 それは、太陽神にとっては、他からは見えない、

他には感じることができない……。それでも、一度頭に浮かんでしまえは、いつまでもクヨクヨ、イライラと考え続けてしまうような、痛みとなって、太陽神を苦しめるのであった――

 


 


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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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