表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
266/456

善と悪


           ♢



 仲間を皆帰らせた後、太陽神に言われた通りに狐神は、ひとりで太陽神の部屋を訪れた。

 

 正直言って、何をされるかわかったものじゃない。怖い――そう思いながらも、静かに太陽神の部屋の戸を叩いた。



「……ウカです。お言い付けに従い、参りました。」


「――入りなさい。」



 言われるがまま、扉を開けて部屋に入ると、いつもの冷たい雰囲気とは何か違う、狐神は、そんな感覚を覚える。


 太陽神は、お気に入りのソファーに腰掛けながら、一人、お茶を飲んでいる。

 その姿は物憂げで、いつもの自信満々に胸を張る太陽神とは、まるで別人のようだった。


 なんとも話しかけ辛い、その雰囲気に、狐神は思わずその場に直立に立ち続けた。



「――まったく、何か気の利いた話でもしてみなさいよ。ヨミと一緒に、あれだけ私を馬鹿にしておいて、ほんとに腹の立つ……。」


 何も言わない狐神を他所に、太陽神が話し始める。



「あんたたちは、これで私をやり込めたっでも思ってるのでしょうけど、私は負けただなんて思っていないから。」


 カップをクルクルと回して、中のお茶に渦を作りながら、ゆっくりと話を続けていく。



「あなたも神の端くれでしょうに……。神とは善。善なる存在。だからこそ、私は人々に施しを与える事によって平和や喜びを創り出したの。」


 太陽神は、カップを動かす手を止めない。


「例え、そのやり方が長い年月の間に歪みを生み出していたとしても、やはり善なる存在としては、善なる行いをもって人々の救いになるべきなのよ。」


 狐神は、太陽神が何を言いたいのか、よくわからずにいた。



「――それなのに、お前が……、お前たちが考え出したのは、共通の敵を作り出し、それを悪に仕立てて、一方の存在を善にするというやり方……。」


 それがどうしたというのか……。この方法ならば、大部分の種族が手を取り合い、平和に協力しあえる。魔物という共通の敵の存在こそ、それ以外が仲間になれる要因となり得るのだから。



「――お前は、善なる存在なのに、悪なる存在を作り上げ、その不幸な存在を犠牲にした上で他を守るというのか? それは、その魔物と呼ばれる存在があまりに不憫ではないか……。」


 太陽神の言葉に、狐神は押し黙った。


「だいたい、善なる存在である神が、なんで悪なる存在を作り出すの? おかしいじゃない。」


 それまで下を向いていた狐神は、ハッとして太陽神の顔を見る。


「――だから、私は私が間違えていたなんて認めない。悪なる存在を作り出して平和を作り出すなんていう、不幸な魔物を利用したやり方を、やらせはするけど、けして認めたりはしない。」



 何ということか……。やはり太陽神は、自分の間違いには気づいていたのだ。その上で、自分の非は認めない。しかし、この太陽神の話を聞いてしまうと、狐神は、自分を善なる神とは言えないような気になってしまった。


「――だから、私はお前を悪なる神として、私の配下から排除します。これが、今日、お前をここに呼んだ理由よ。」


 そこまで言うと、さっさと帰れと言わんばかりに、右手で狐神を追い払うように手を振った。

 太陽神と狐神。

 結局、歩み寄る事のないまま、その関係は終局へと向かっていく……。



           ♢



 狐神が部屋から去ったあと、部屋には太陽神が一人ソファーに身体を預けていた。


「――ヒルコ。お前はヒルコだね。呼んでもいないに、私の前に現れるだなんて、悪いスライムだこと。」



 無形の混沌――ヒルコは、狐神の背中に隠れ、太陽神の部屋へと忍び込んでいた。

 太陽神に見咎められて、その姿が膨張する。



(――テラ。お久しぶりですね。)


 ゆらゆらと、部屋の明かりを吸い込んで、光を屈折させているヒルコを見ながら、心の中へと話しかけてくるそれに、太陽神は顔を顰める。



「――あなた、私の為に働くのではなくて、あんな狐の小娘の為に働いていたのね。がっかりだわ。」


( ………。 )


 嫌味に反応しないヒルコの態度に、太陽神は益々苛立ちを隠さずに話を続ける。



「――私を兄妹だ、家族だというわりに、私を貶めるような事をして。とてもじゃないけど、私に対して愛を感じられるようなものではないわね。」


( ………。 )


「――いつかはあなたを家族として迎えいれるつもりだったのに、ほんと残念だわ。」


( ………。 )


「でもいいわ。あの小娘も、最後に墓穴を掘ったもの。さっきの話し、聞いてたんでしょ? 神が悪なる者を作り出すなんて、あってはならないものだもの。」


( ………? )


「……まったく、なんとか言いなさいよ。家族を裏切ってまでして支えてきた狐神が、悪なる神に堕ちるのよ? 」


 太陽神は、ヒルコに自分自身の愚かさをその身に深く刻ませようと、言葉で攻め続けた。



( ……テラ……。君は気づかないのかい? )


「――??」


 言い返されるとは思っていなかった太陽神は、ヒルコの問いかけに対して反応できない。


( ……さっき、君が自分で言っていたじゃないか。神が悪なる者を作り出すなんて、あってはならないと。)


 太陽神は、そこで初めて自分の矛盾に気づく。



( ……君こそ、ウカを悪なる者として作り上げ、不幸な存在にしようとしているじゃないか。善なるものが悪なるものを作り出すなんて、あってはならないと自分で言っているのに! )


 ヒルコの言葉は、太陽神の足元をぐらつかせた。

 太陽神は、自分で自分を否定してしまった事に、ひどく動揺している。



「 ………。 」



( ……テラ。僕は君を助けたいと思って、ウカのやる事に協力してきたんだ。君が自分の間違いを認めようとせず、そのせいで君自身が拙い立場にならないように。)


「 ………。 」


( ……僕は君を愛しているよ。我が子よ。我が妹よ。我が家族よ。僕は君を助けたい――)



 この日、この後、2人の間に、今までとは違った関係が生まれていた――

楽しんで頂けましたら、ブックマークや評価をしていただけると励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ