無形の混沌④
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長い長い長い時が、また過ぎた。
未だに太陽神からの呼び出しはない。
それでもヒルコは自分に知識を蓄え続けた。
人々は、家族や仲間という集団を形成し、その集団同士が同じ生活圏を作る事で、村や街、そしてそれが大きくなると国を作り出した。
その規模が大きくなるほど、様々な種族が雑多に組み込まれ、ただし、その国の中でまた集団を作る。つまり、違う姿形、違う考え同士の者達が、お互いの存在を認め合う事で、国という単位が大きくなる。
しかし、単位が大きくなり、様々な種族が一緒の単位で活動すると、その中から強い者、弱い者が目立ち始め、支配するものと支配されるものに別れてくる。その立場が強いものほど贅沢で、立場が弱いものほど貧乏であった。
貧富の差は、強いものが弱いものから搾取する事により、ますます大きくなる。しかし、弱いものが強いものに抗えるわけもなく、そういった世界の流れは止まる事は無かった。
そして今度は、強いもの同士が争うようになった。強いものが弱いものを従えて大きくなったコミュニティは、もっと強く大きくなろうと、争ったのだ。
こういった、力のあるもの同士の争いは、力の弱いものたちの犠牲をたくさん出していった。そして、その上で、争いに勝ったものが、ますます大きなコミュニティになり、どんどん力を蓄えていくのだ。
――理不尽だな、太陽神たちは全てを救おうとするわけではないのだろうか……
ヒルコは、自分自身が弱く、虐げられている存在であるという事を、人の世界を観察し続ける事で自覚する。そして、弱い立場のものたちが、強いもののに搾取され、貧しい生活を押し付けられていることに、疑問を持ち始めた。
しかしヒルコは、僅かな『希望』にしがみつき、いまだに自分の名前が呼ばれる機会を待ち続けていた――
♢
長い長い長い時が、またまた過ぎた。
相変わらず、世界を観察し続けていたヒルコは、文化というものを知った。
さまざまな能力の違いには、それぞれの得意分野というものが存在し、それは力の強さや速さといった体力的なものだけではなく、例えば絵画や彫刻、音楽や演劇などという、芸術と呼ばれる分野にも発揮されていた。
素晴らしい絵画や彫刻は、人々のインスピレーションを刺激し、創造力を高め、素晴らしい音楽は、人々の心を癒やし、楽しませた。
そして、その中でも特にヒルコの興味を引いたのが、演劇であった。
喜劇はその滑稽さで笑いを与え、悲劇は悲しみで涙を誘い、それぞれ人々の感情を揺さぶる。
その演じ方も様々で、役者が演じたり、踊りや歌で表現したり。人形を操って人がなれないものになる、人形劇なんてものもあった。
ヒルコは『擬態』で人々の生活に紛れながら、何度も何度も演劇を鑑賞し、人々が様々に感情を表す様を観察しながら、自らも演劇に感動した。
(……人が持つ感情は、僕と同じ。でも、僕は受け入れてもらえない……。悔しいな、悲しいな……。)
どんどんヒルコは、成長し、感情も豊かになっているのに、なかなか人々に受け入れてもらえない。どうしたら良いのだろう……。ヒルコは考え続けていた。
そんなある日、ヒルコは街の広場で行われている人形劇を見かける。
その人形劇では、音楽に合わせ、小さな箱の中で小さな人形たちが動き回っていた。
よく見ると、その人形は箱の上から垂らされた糸によって操られ、音楽は不思議な箱から流れてくる。僅かな人数で複数の人形を操り、表現するその人形劇は、広場に集まる人々を大いに喜ばせていた。
(……あんな小さな箱の中でも、人々を感動させる事ができるんだ……。)
面白い――、ヒルコはそう思った。
そして、様々な形に姿を変えられる自分であれば、この小さな箱の人形劇を作り上げる事ができるのではないか、そう思った。
――もしかしたら、自分も人を喜ばせる事ができるかもしれない
その日、ヒルコは初めて、人の世界で生きるきっかけを作ることができた――
♢
『劇団 小さな箱』――
それはヒルコが創り出した劇団。
小さな馬に引かれた小さな馬車。
そこに置かれた小さな箱。
その中で繰り広げられる人形劇。
仮面をつけた演者と、様々な人形達。
傍に置かれたオルゴールから流される曲に合わせて、飛んだり、跳ねたり、踊ったり。
躍動する人形たちに、人々は引き込まれた。
ヒルコは、自分自身は箱の中に入り、姿見せないままに人形劇を演じた。
身体を変化させてみたり、身体を糸にして人形を操ったり、自分の考えられる様々な方法を使いながら、小さな箱の中で演じ続けた。
長い長い年月、世界を見続けたヒルコは、色々なものを見てきた。
様々な動物や精霊、種族の歴史や営み、題材に出来るものは沢山あった。
勇敢な男の物語
種族違いの恋の物語
為になる言葉を残した人物の物語
精霊たちの物語や、動物たちの物語まで、なんとも多種多様、様々な物語を演じ続けた。
人々はヒルコの創る演劇に、泣いたり、笑ったり。その姿を見て、ヒルコもまた泣いたり、笑ったり――
そして、『劇団 小さな箱』は、人々に受け入れられていく。
それはヒルコが初めて、世界の中に受け入れられた瞬間だった――
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