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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
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無形の混沌③


「――あなたには力がありません。ですから、あなたは、力をつける努力をしなければなりません。しっかりと世界を巡って知識を蓄え、その能力を開発しなさい。いいですね。」


 女神は優しい()()()()()()ヒルコに語りかけた。



「――何か用事がある時は、こちらから呼び出します。だから、勝手に神殿に来てはなりませんよ。」


 そう言って、ヒルコを外に残したまま、女神は静かに神殿の扉を閉めた。

 しかし、名をつけて貰い、家族の一員になれたという喜びが、一人取り残されたという現実を、全く疑問に思わせなかった。幸せが振り切ってしまっていたのだ。


 ヒルコは、「努力しなさい」という太陽神の言葉を繰り返し頭の中で唱える。



(――兄妹に恥じない、実力を身につけて、並んで歩けるようになってみせる。)


 希望がある、というのは厄介なものだ。

 絶望的な状況にあっても、その希望にすがって進み続ける事ができるから。

 本当なら、家族と認められたなら、一緒にいる事を拒否などされないだろう。

 ハッキリと拒否されたわけではない……、しかし、神殿に入れてもらえなかったという事は、暗に家族である事を拒否されている事なのに、ヒルコはそれに気付けない。


 そして、ヒルコは希望を与えられてしまった。

 努力すれば、今以上に自分を認めてもらえるかもしれないと。


 これは、本当に厄介だ。

 だって、もしかしたらその希望は現実になるかもしれないのだから。


 希望が疑う事を放棄させてしまった。

 気付かないのではない、気付けないのだ。


 そう、ヒルコは、おそらく叶うことがないであろう希望を胸に、世界を彷徨い続ける事になっていくのだ――



           ♢



 長い長い時が過ぎた……。


 

 ヒルコは積極的に他者に関わろうと足掻き続けたが、いかんせん言葉を発することができない。

 


 人はそれぞれコミュニティを作り、集団が出来ている。家族だったり、仕事仲間であったり、同じ趣味を持っていたり。


 そんな彼等と、なんとかコミュニケーションを取りたくて、ヒルコの持つ唯一と言って良い力、変形能力を使い、他者へと姿形を変えて他者へと近づくのだが、色のない透明な身体は、形こそ色々なものになれたが、そのもの自体には変身することができなかった。そのものには成りきれなかったのだ。


 人は自分と違う物に対して、嫌悪や恐怖といった感情を抱いてしまうものらしい。

 コミュニティも、それこそ同じ事探しの結果、共通点を見出して集まっている事も多いように見える。



(……そうだった……。だから僕は、家族というコミュニティを求めて兄妹の下へと行ったんだ。)。


 ヒルコは自分が同じ失敗を繰り返している事に気づく。

 そう、ヒルコはまた、孤独な独り旅をする事になっていたのだ。太陽神の、あの言葉を信じて……。



『――何か用事がある時は、こちらから呼び出します。だから、勝手に神殿に来てはなりませんよ――』


 この言葉は、ヒルコにとっての大きな希望。

 いつかは、神殿に呼んでもらって、兄妹である三大神の力になれる。その為に、自分を鍛えているのだから。



――役に立ちたい。


 その一念で努力を続けているのだ。



           ♢



 長い長い時がまた過ぎた……。



 相変わらず、声を発する事ができないヒルコではあったが、ヒルコは様々な知識を蓄えていく。


 なかなか人のコミュニティに入る事がでずにいたヒルコは、まずは人以外の生き物と一緒に過ごしてみることにした。


 彼らは、言葉というコミュニケーションの方法は持たないが、それとは違った意思疎通の方法を持っていた。

 鳴き声であったり、自分以外の物を鳴らしたり動かしたり、なかには直接相手に触れることで、意思疎通するものもいたのだ。


 それらの生き物に共通して見られた本能があった。それは、『防衛本能』。

 危険に対して、自分の身を守る行動をとる。

 身を固めたり、丸めたり、大きく見せたり、早く逃げたり……。


 その中で、ヒルコに大きな衝撃を与えたのが、『擬態』と呼ばれり防衛本能である。

 なんと、それを使う生き物は、周りの風景や、物体、他の生き物などに自分を似せて、隠れるのだ。

自らの身体の色を変えたり、形を変形させて。


(――凄いな! でも、これって、僕の得意分野じゃないか? 形だけじゃなく、色も変えることができれば……。)


 それからしばらく、試行錯誤、試してはやり直し、何度も何度も練習して、とうとうヒルコは新しい能力を手に入れた。


『擬態』


 これは、色を変えるだけに止まらない、変身能力の進化であった――



           ♢



 長い長い時が、またまた過ぎた……。



 次に、ヒルコは世界の自然現象に影響を与えている精霊たちと一緒に過ごしてみた。


 彼らは好奇心旺盛な存在が多く、同じ種族同士でまとまってはいるが、そこに近づくヒルコを排除する事はしなかった。それどころか、たくさん()()()()()くれたのだ。


 それは、『念話』という方法。


 いつも必死に他者へアピールする事ばかりしていたヒルコにとって、他者である精霊たちから、ヒルコの心に話しかけてくれたという事は、とんでもなく嬉しい事である。


 なにせ、太陽神以外と、会話……、(あれは会話と言って良いかもらわからないが)したことのないヒルコにとっては、大事件である。


 しかし、言葉が話せないヒルコからは、精霊たちに返事をする事ができない。会話のキャッチボールができないのだ。


 故にヒルコは、変身能力を一生懸命に駆使して、コミュニケーションを試みた。

 精霊たちは、その滑稽なコミュニケーションを気に入って、その試みに付き合ってくれた。


 そして、そんなやり取りを続ける中、ヒルコはまた新しい能力を身につける事ができた。



そう、『念話』である――

 

 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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