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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
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無形の混沌②

 

 スライムは這いずり回った。

 ゆっくりと、ゆっくりと。

 どんな隙間も、関係ない。

 どこにでも行けた。


 スライムは風に乗った。

 ふわっと、ひゅ〜っと。

 重力も、質量も関係ない。

 遠くにだって行けた。


 スライムは観察した。

 そぉ〜っと、じぃ〜っと。

 自分でないものへの興味は尽きない。

 色々な生物、種族を知った。


 スライムは紛れた。

 おどおど、そわそわ。

 自分でないものの生活に入り込んだ。

 気づいてもらえるかな……、結局、気づいてはもらえなかった。

 

 スライムは知った。

 なるほど、なるほど。

 世の中、同じ種族や同じ考え、同じ仕事で纏まっているのか。

 理解し、成長し、また考えた。



――自分と同じものはどこにいるの?



 名もなく、誰からも認知されていない。そんなスライムは、ふと一人の女神と二人の男神の事を思いだした。



――自分と同じ……。そうか、自分の仲間はあの女神と男神じゃないのか!?



 長い年月、ただ一人孤独に存在していたスライムは、自分の子供、兄妹、家族、仲間……、きっと3人がどれとも言えるはずだ、と喜んだ。

 なんで、今まで気づかなかったのか、あんなに身近な存在が、自分にもちゃんといたのに。

 一人で居続ける事なんてなかったのに。


 

 スライムは、嬉々として神々の住む神殿へと向かった。

 そう、あそこは自分の家族がいる場所。

 そう、あそここそ、自分の居るべき場所。


 スライムは想像した。

 3人の兄妹と共に楽しく笑い、語り合い、協力しあう日常を。

 家族とは、同族。一緒にいるべき集まり。

 やっと孤独から開放される……。

 


 言葉を発する事ができないスライムには訴える事も、説明する事もできない。つまり、忍び込むしかない。

 しかし、神殿の中には簡単には入れなかった……。護衛が至る所に立ち、扉には封印の魔法が掛けられていた。


(しょうがない……。彼等が外に出てくるのを待つとしよう。今までだって、長い時間一人で過ごしてきたんだ。あと少し待つ事くらいなんて事ないさ……。)

 

 神殿へと続く道の側にある桜の木の枝にぶら下がり、太陽神が外出するのを待つ。

 しかし、彼女はなかなか神殿から出てくることはなかった。

 

 季節が進み、桜の花が咲いた頃、とうとう彼女は外へ出てきた。綺麗に咲き誇る桜の花を見るために。

 太陽神が、風に吹かれて散る桜の花びらを手に取り、その綺麗な景色に見とれていると、目の前に透明な物体が垂れ落ちた。その物体は、桜の色が映り込み、不思議と美しく見えた。

 しかし、太陽神は目の前で膨張したその物体に対し、眉をひそめて語りかける。


「お前は、無形の混沌ではないか。まだ、生きていたのね? 」


 返事をする能力を持たないスライムは、その身体を目一杯動かして自分の存在をアピールした。そして、透明な人の形にその姿を変える。


 世界を見て周り、知識も増えたスライムは、人型の姿の手先を上手に変形させて文字を作った。


 「か・ぞ・く」


 「き・よ・う・だ・い」


 「な・か・ま」


 自分はあなたの家族であり、兄妹であり、仲間である。女神を指差し、そしてその指を今度は自分に向ける。どうにかして、自分の気持ちを伝えたかった。



「……私とあなたが家族ですって? 私たちがあなたから産まれ落ちたから? 」


 女神は顔をしかめ、腰に手を添えながらスライムを見下ろした。


「私たちがあなたから生まれた事は間違いない。けど、それを知っているのはあなたと私だけ。でも……」


 女神は、静かに言い放つ。


「ただの力の残滓であるあなたを、神である私たちと同列に扱えなどと、身の程を知りなさい。」


 違う、同列に扱えとか、そんな話じゃないよ。

 神として扱われたい訳じゃない、家族として、兄弟として、仲間として一緒にいたいだけなんだ。


「まったく……、私たちの親だとでも言いたいのかしら……。まるで、私たちの上に立つ存在みたいな気でいるのね。ただの残り滓のくせに。」


 女神の冷たい言葉が、スライムの心を傷つける。


 違う、違うんだ……。

 ただ、一緒に居たいんだ……。

 独りは嫌なんだよ、誰かと一緒に居たいんだ。


 スライムは、感情を表す為に、その色のない身体に色をつける。

 青い空色、地面の土色、深緑の緑色……、目につく色を次々と取り入れて、変わる変わる変わる変わる……。


 しかし、女神は自らの顔色は微塵も変えずに、必死なスライムを蔑むような目つきで見ているだけ。



「……わかりました。あなたの存在を認めてあげましょう。その証明として、あなたに名前を授けます。ただし、神である私たちと同格に据えるわけでわありません。」


 その身体を桜色に染め、与えられる名を待つスライム。期待に胸は弾んでいた。



「――ヒルコ。あなたにはヒルコという名を与えましょう。名乗る口はないでしょうが。」


 女神は嫌味な笑みを浮かべながら、ヒルコと名付けたスライムに語り続ける。


「ただし、さっきも言った通り、あなたを神の座に据えるわけではありません。力を持たず、ただただそこに存在するだけのあなたに、そんな重大な役割を与えるわけにはいきません。」


 スライムは黙って話を聞き続ける。


「それと……、あなたが私たち三大神の兄妹である事は認めましょう――」


 桜色が、その言葉で朱色へと変わる。


「でも、それを世界に知らせる事はできません。世界がそれを知れば、驚き、混乱するでしょう。ですから、この話は、あなたと私、2人だけの秘密です。わかりましたね。」


 スライムには、その奥にある()()までは計り知る事は出来なかったが、太陽神たちと兄妹である事を認めてもらえた喜びが大きすぎて、そんな事は全く気にならなかった。



――孤独ではない



 今まで、存在を認められず、誰にも気づかれず、辛く寂しい年月を過ごしてきたスライムにとって、これは無類の喜び。まさに、天にも昇る気持ちとは、このことをいうのだろう。


 スライムは、その身体の中で暴れる喜びの感情に震えた。

 それは身体の中を流れ星が飛び回るように。

 何本もの虹が駆け巡るように。




「――まぁ、実際のところ、あなたを兄妹と認めたとしても、それを他の者が知ることはないのですがね……。」


 小さな小さな声で女神が呟いた事に、スライムは全く気づいてはいなかった――



 

 




 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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