灰色
まるで自分が被害者であるかのように、神殿に籠る女神は泣き叫んだ。
「 ……………。」
女神のそんな様子を見て、狐神はバカバカしくなっていた。だって、散々イキリ倒していた相手が、ちょっと自分に悪意が向いた途端に被害者面してるんだもの。
今まで、色んな人から止めましょう、変えましょうと言われても聞く耳を持たなかったのにね。
そのせいで結局、自分の預かり知らない所で、知らないうちに世界が救われていた――
だって、この女神に相談しようとしても、馬鹿な筋肉男神が門前払いするし、とうのインピン女神にしたって、自分が正しいの一点張り。
そりゃ、誰も近づかなくなるよ。自然と皆んな離れていくさ。それも、本人には気づかれないように静かに離れていく。誰だって、一方的に頭を押さえつけられるような関係、嫌だもんね。
でも、このインピン女神と筋肉男神は、この世界における絶対神……。三大神の2柱……。偉すぎて、誰も逆らえない……。
最後の1柱の月神様が、私のやる事を認めてくれて、私の考えを後押ししてくれたけど、結局、最後は私が責任を取らされる形になってしまった。
月神様は、私に何度も頭を下げて謝ってくれたけど、最後は私を助けてはくれなかったのよね……。
まぁ、太陽神に海神、それとその取り巻き達がかなりうるさかったから、月神様ひとりじゃ、なんともできなかったんだろうけど。
灰色――
私は上手く使われただけなのかな?
でも、インピン女神の間違ったプロジェクトで、滅亡しちゃった種族たちを見てたら、黙っていられないでしょ?
ましてや、これからもっと多くの種族が滅んでしまうかもしれなかったんだし……。
月神様は、本当は太陽神はとても優しくて、思いやりの深い女神なんだって言ってた。本質は善なんだよって。
海神も、太陽神の事が好きすぎるだけで、本来、正義感の強い、気のいい男なんだよって。
でもさ、今、世界に危機をもたらして、その世界を救おうとしてる部下をいじめ倒す。挙句の果てには、訳もわからず、なんの責任かわからない責任を取らされるなんて、変すぎない?
まぁ、私は覚悟決めたし、世界を救う一助になるって決めてるから、もう、どうでもいいんだけどね――
♢
「――最近、私に届く願いが減ってるみたい。」
太陽神は、いつものように世界の人々に無償の恵を与えながら、首を傾げていた。
聞こえてくるのは、ヌメーっとしたような気持ち悪い声ばかり。覇気のないその声すらも、最近減ってきているような気がしていた。
正直、世界中の全ての意思が集まるのだ。一つ一つの意思を深く知ることはできない。ただただ望みをかなえるだけ。
しかも、海神が太陽神を守るようになってからは、神殿の外から女神を尋ねてくる者もほとんど居なくなっていた。
「――あんなに、私を褒め称えて、感謝してたのに、幸せに慣れすぎちゃうとこうなっちゃうのかしら?」
太陽神は、勝手に周りが幸せすぎて、幸せ慣れしたんだと、感謝の声が届かないのも、そのせいだと思い込んでいた。まぁ、人々が幸せで満腹状態なら、それで良いかとまで思っていたのだ。
ところが……。
「――テラよ、ウカという狐神を知っているか? お前の部下の豊穣神の一人のようなんだが……。」
海神曰く、最近、『楽』プロジェクトを発展させて、様々な種族を助け歩いているらしい。
太陽神の部下と名乗り、『楽』プロジェクトは次の段階に進んでいると声をかけているそうだ。
「……次の段階? なにそれ? 聞いてない……。」
太陽神にはまるで意味がわからなかった。狐神のウカ? そういえば、そんな名前の若い女神がいたような……。そんなことより、私の名前を使って、勝手な事をしている? そんなこと、許されるわけないじゃない!?
「スサ! ちょっとその狐の所に連れて行ってちょうだい! 」
しばらく考え込んでいた太陽神が、突然、思い立ったかのように海神に声を掛けた。普段素っ気ない態度を取られていた海神は大喜びである。
「お、おう! 俺に任せろ! 案内してやる。」
♢
「みなさん、太陽神様のプロジェクトは、次の段階へと進んでいます! 自らの進化、発展を止めない為に、『楽』を捨て、自らに『苦』を与えなさい! 太陽神様に頼りきった時代は終わりにしましょうっ!」
広場にて、数名の使徒と共に声をあげている女神が居た。その女神は、巫女姿。狐の耳を尖らせ、フサフサの尻尾もピント伸びている。
「……なによ、あれ。私に頼りきった時代は終わりってどういう事……?」
海神と共に、神殿から件の女神が演説しているという広場に来てみれば、何やら聞き捨てならない話が聞こえてきた。
プロジェクトを先に進める?
私の名前を使って、何を企んでいる?
こんな事、許すわけにはいかない……。
目を釣り上げて、海神に狐の捕縛を命じようとした時、目の前に中性の美男子が現れた。月神である。
「――やぁ、テラ。久しぶりだね。神殿の外で出会うなんて、何百年ぶりだい?」
砕けた物言いで話しかけてくる月神。
怒りを狐神へとぶつけようとしていた太陽神は、機先を削がれてしまう。
「あら、ヨミ。久しぶりね。あなたこそ、こんな所で何をしているのかしら?」
狐神の元へ行こうとしていた太陽神は、怒りの感情を飲み込み、澄まし顔を作って月神へと向き直る。
「――何って? それは、君の素晴らしいプロジェクトの進展を手伝うためだよ。」
月神から発せられた言葉の意味が分からず、目を白黒させる太陽神。海神も、二人の顔を交互に見たあと、腕を組んだまま考え込んでしまった。
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