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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
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太陽神


 神々の住む神殿の奥。

 そこに、太陽神の部屋がある。

 部屋の扉は閉じられ、中の様子を伺うことはできない。


 部屋の外では、太陽神の部下たちが、顔を項垂れて、その閉じられた扉が開くのを待っていた。


 そこに、月神、海神が現れる。

 2人の後ろには、巫女姿の少女を連れていた。

 その少女は、狐の耳を元気なく寝かせ、フサフサの狐の尻尾も所在無く左右に揺らしている。小さな身体は、わずかに震えているようにも見えた。


 

「――テラよ、私だ! ヨミだっ!」


 月神の呼びかけに、固く閉ざされた扉が僅かに開いた。中から僅かにもれる光が、太陽神が月神の言葉を聞くために扉の側に居ることを示していた。



「――テラっ! スサだっ! 早くお前の顔が見たいのだっ! 出てきてくれっ!」


 海神は、その大きな身体を縮こまらせて、顔の前に手を合わせて懇願する。しかし、その言葉を聞くや否や、扉はその隙間を閉じてしまった。


 狼狽える海神に向かって、ため息を吐きながら月神は言い放った。


「……スサよ……。予定と違う事をするな……。お前の気持ちなど、今まで散々伝えてきたであろう。それでもテラは部屋から出てこないのだ。予定どおり、私とウタに任せよ。お前の出番は、最後の決裁の時だ。」



 ギリリと歯を鳴らし、一瞬月神を睨みつけるが、海神はすぐにその怒りを沈めた。そして、その場で腕を組みながら目を瞑る。



「――ウカよ。覚悟は良いな?」


 月神は、後ろに控えていた狐耳の少女の名を呼ぶ。

 月神に呼ばれた少女は、静かに頷き、2人の絶対神の前へと進み出た――



           ♢



 太陽神テラ。


 この世界の大地の豊穣を司る女神。

 

 その力は、まさに太陽。大地に生きる全てのものに、活力を与える。


 その姿は、絶世の美女。


 慈愛に満ちた優しい笑顔、抜群のプロポーション。まさに、人が想像する完璧な女神の姿。

 絵の中から飛び出したかのような、美しい女神の姿は、皆から慕われ、崇められていた。



 女神は、世界に住む全ての種族の安寧を願っていた。それは、長い年月、常に弱者が強者に虐げられ、強者同士の争いも絶えず、いかにも野蛮を繰り返す世界に対し、ほとほと呆れ果てていたからだ。



「――何故、争いが絶えないの?」


 太陽神の恵みを受け、幸せであるはずの者達が、それだけては道足りないというのだろうか?

そこで太陽神は考える。

 


「――今受けている恵みで足りないのなら、もっと恵みをあげればいいじゃない!」

 

 思いついた太陽神は、『楽』プロジェクトと呼ぶ案を作成し、すぐに月神と海神を呼んで相談した。


 それは、望んだ生活物資を無条件に与えるというもの。強者も弱者も、長命種も短命種も、意思のあるもの全てを対象にして。



「――そうすれば、みんな満ち足りた生活を、送れるようになるでしょ? 争いや差別、略奪や陵辱も無くなるんじゃないかしら?」


 最後にニコリと笑って一言。


「――みんな楽になれば、余裕ができるでしょ。」


 その笑顔の提案に、海神は、無条件で太陽神の提案に賛成した。月神は、上手くいかないときは中止する事を条件に賛成することにし、しっかりと監視する旨を伝えた。


 月神の返答に、少しムッとしながら、それでも自分の提案が受け入れられた事に満足すると、太陽神は、すぐに部下たちを呼び出し、このプロジェクトを始める事を宣言する。



「みんな! 忙しくなるけど、よろしくお願いします。世界の隅から隅まで、幸せにして見せましょうっ!」


 キラキラと輝く笑顔で、太陽神は、自らが描く素晴らしい未来を想像していた――



           ♢



「太陽神様が、誰もが簡単に食料を与えてくれるそうだぞ。」


「食料だけではない、他にも望めは、色々な物資が与えられるそうだ。」


「なんと! 願えば望みが叶うのか!?」


「そうそう、太陽神様のお力で、望めば望むだけ、物資がいただけるそうだぞ!」


「願うだけで望むものをいただけるとは、太陽神様のお力は素晴らしいな。」


「ああ、太陽神様に感謝しなくてわ。」


「太陽神様、万歳!!」


「女神様、万歳!!」



 至る所で太陽神を褒め称える声が上がる。

 太陽神に願えば、必要なものは全て手に入る。

 その条件は、ただ、太陽神の名を呼び、願うだけ。

 この『楽』プロジェクトが始まった事により、強者が弱者から奪う必要がなくなり、ストレスのなくなった世界は争いが無くなった。誰もが、自分の満足できるだけの富を有し、生活に困るものは無くなっていった。


 世界中から届く、太陽神を崇める声。

 太陽神テラの名を呼び、望みを願う。

 太陽神は、生きるもの数だけ届く望みに四苦八苦しながらも、皆を幸せにしているという確信を持って、充実した日々を過ごしていた。


「――太陽神様、ありがとうございます。」

「――テラ様、ありがとうございます。」

 


 大成功――



 太陽神テラは、自らが提案し、実行しているプロジェクトが上手く回っている事に満足していた。

 何せ、すべての者の声が届くのだ。

 皆が満足している事を、しっかりと感じる事ができる。



 しかし、その声は徐々に変わっていく……。



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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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